2000年代に入って以降、かつての輝きは消え失せ、複数のクラブによる白熱したスクデット争いもなかなか目にすることができていなかったセリエA。しかし、絶対王者として君臨するユヴェントスが2年連続で指揮官を交代させる変革期を迎えたことに加えて、中堅クラブたちの台頭もあり、カルチョの勢力図が変わりつつある。


 その中でも、特に敏腕指揮官のもとで着実に力をつけているのがナポリ、アタランタ、サッスオーロの3クラブだ。スタイルは三者三様だが、色濃い指揮官の哲学がそれぞれのチームに植え付けられ、今季のスクデット争いを大いに盛り上げている。虎視眈々と王者の首を狙うこの3クラブからは、後半戦も目が離せそうにない。

一強体制が続いていたが、セリエAの勢力図に変化

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「新セブン・シスターズ」として、打倒ユヴェントスを目指すナポリとアタランタ。第4節で激突し、今季1度目の対戦では4-1でナポリに軍配が上がった photo/Getty Images

 長年セリエAを見てきたカルチョ・ファンとしてプレミアリーグの“ビッグ6”をずっと「羨ましい」と感じていた理由は、そこで繰り広げられるサッカーのレベルの高さや華やかさじゃない。もっと単純に、「優勝争いを演じる可能性があるチーム」が6つもあるという“数の多さ”と、それによって演出される群雄割拠感にある。

 昔はセリエAもそうだった。

「世界最高リーグ」と称された1990年代、イタリアサッカー界には「セブン・シスターズ」と呼ばれた7つの優勝候補(ミラン、インテル、ユヴェントス、ローマ、ラツィオ、フィオレンティーナ、パルマ)が存在し、毎年のように予想の難しい激闘を繰り広げた。各クラブに世界的ビッグスターと名将がいて、さらに名物会長までいる当時の面白さはハンパじな
かった。

 ところが、バブルの崩壊によって「世界最高」の称号をスペインやイングランドにあっさり手渡した2000年代以降、セリエAの群雄割拠感はあっさりと崩壊し、ミランの時代、インテルの時代を経てまさに圧倒的なユヴェントスの時代に突入する。2011-12シーズンから続くセリエA連続制覇の記録は、ついに「10」を視界に捉えるまでに至った。

 だからこそ、ここ2、3年のセリエAを見て密かにワクワクを募らせている人は少なくないに違いない。ひたすら勝ち続けているユヴェントスが弱くなったわけじゃない。
むしろ少しずつ力を誇大化させているにもかかわらず、“その他”がそれを超えるスピードで強くなっているのだ。

 一時期はボロボロの状態だったミランとインテルがプライドを取り戻した。この10年ずっとユヴェントスに食らいついていたローマは多少強引だったとはいえ世代交代と“血の入れ替え”を敢行し、ラツィオは2019年に2度もユヴェントスを倒した。こうしてかつての「セブン」のうち4つが、まだ多少の距離があるとはいえ着実にユヴェントスの背中に迫りつつある。

 さらにここからが面白い。この10年はローマとともにユヴェントスを追いかけ続け、あのディエゴ・マラドーナがいた1980年代のエネルギーを取り戻したナポリ、そして、あくまで“育成型クラブ”の姿勢を貫いて覇権争いに興味を示さなかったアタランタが、その体質を大きく変えてトップ集団に加わったのである。
これによって完成した「新セブン・シスターズ」が、ユヴェントス一強体制の終幕という「もしかしたら」の機運を高めているのである。

着実に力をつけるナポリとアタランタ

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A・ゴメスの代役として期待される23歳のペッシーナ。サッスオーロ戦ではアタランタ移籍後初ゴールを決めた photo/Getty Images

 ちょうど1年前、ナポリは苦境に追い込まれていた。2019年秋に発足したジェンナーロ・ガットゥーゾ新体制では文字どおり“1”からサッカーを作り直し、一時期は「6バック」の荒療治も施すなど徹底的に守備の意識を植え付けた。それが奏功し、中断明けのコッパ・イタリアではユヴェントスに競り勝ってタイトルを手に入れる。今シーズンはわずかな期間で手に入れた守備への意識を維持したまま攻撃の強化に乗り出し、そのモチベーションとしてクラブ史上最高額の移籍金でFWビクター・オシムヘンを獲得。クリエイティブな攻撃とソリッドな守備のバランスを模索しながら、きっちりと結果を残している。



 第17節終了時点での得失点差「+18」はナポリにとっては少なく感じるが、そのバランスが今シーズンのチームの特徴だ。オシムヘンの最大活用法の模索、最終ラインの選手層の薄さなど課題はいくつかあるものの、ピオトル・ジエリンスキの急成長などポジティブな要素も少なくない。時にその言葉によって災いを招く名物会長のバイタリティーをうまくコントロールしながら指揮官ガットゥーゾが今の“バランス”を維持することができれば、ナポリとしては不自然に感じるくらいの着実さで勝ち点を積み重ねて上位争いに加わるだろう。

 就任4年目を迎えたジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督のもとで昨シーズン、ついにチャンピオンズリーグのベスト8に駒を進めたアタランタは、今やセリエAで主役級の存在感を誇示する。

 昨年12月に勃発したゴタゴタによって絶対的エースのアレハンドロ・ゴメスが去ることになれば、大幅な戦力ダウンは免れないだろう。しかし代役となるマッテオ・ペッシーナは新しい攻撃の形を築くに十分な可能性を秘めているし、“その他”の要素においてはゴメス離脱による負の影響を今のところ感じない。
課題は明白だ。特に自陣で徹底されているマンツーマンディフェンスは、“相対的な実力が上”の相手に対して通用しない場合が多い。例えばCL準々決勝のパリSG戦では、どれだけうまく追い込んで有利な状態で1対1の状況を作っても、ネイマールとキリアン・ムバッペにだけは敵わなかった。もちろん国内にも、それに近い能力者を擁するチームはいくつかある。下位チームとの対戦で5得点を記録するより重要なのは、上位チームとの対戦を1-0で制する“らしくない結果”だ。

ポゼッションスタイルで戦う“変化の象徴”サッスオーロ

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セリエAでトップクラスのボール支配率を誇るサッスオーロ。

その中盤を支えるのがボランチのロカテッリだ photo/Getty Images

 もう1チーム挙げておこう。第17節終了時点で7位につけるサッスオーロは、第16節終了時点の平均ボール支配率がリーグ1位の「61.1%」だった。守備から構築される戦術の国、1-0の美学が色濃いイタリアで人口4万人程度の“街クラブ”がこの数字を記録していることが、イタリアサッカー界の大きな変化を物語っている。

 “ボール保持”への強いこだわりを持つロベルト・デ・ゼルビ監督は、就任3年目でその哲学をチームに植え付け、上位陣と対戦しても遜色ない魅力的なサッカーを作り上げた。絶対的中心は中盤の底に位置するマヌエル・ロカテッリと右サイドのドメニコ・ベラルディ。彼らを太い柱として、MFハメド・トラオレやジェレミー・ボガ、フィリップ・ジュリチッチら個性の強いヤングタレントが指揮官が掲げる原則に基づいて有機的に動き、テンポよくパスをつないでボールを運ぶ。最終的にスクデット争いに加わるにはあと2つ3つの大きなエネルギーが必要と感じるが、後半戦も上位陣が特別に警戒するチームとなるだろう。少なくとも、第17節ではユヴェントスとほぼ互角に渡り合った。

 かつての“シスターズ”のうち5つにアタランタとナポリを加えた7チームは、「もしかしたら」の想像力を膨らませれば決してスクデットも夢じゃない。ここにサッスオーロ、さらには同じく好調のヴェローナ、そして今季は苦しんでいるもののポテンシャル十分のフィオレンティーナを加えた10チームは、絶対王者のユヴェントスを苦しめるだけの力をはっきりと備えている。これから緊張感が高まる2020-21シーズン後半戦は、群雄割拠のセリエA新時代到来に向けて大きな第一歩となるだろうか。

文/細江 克弥

※電子マガジンtheWORLD253号、1月15日配信の記事より転載