笹川友里がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「DIGITAL VORN Future Pix」(毎週土曜 20:00~20:30)。この番組では、デジタルシーンのフロントランナーをゲストに迎え、私たちを待ち受ける未来の社会について話を伺っていきます。
5月30日(土)の放送では、先週に続き、栗田工業株式会社 アドバンスドイノベーション本部長の水野誠(みずの・まこと)さんが登場。AIやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を活用したサービス、DX推進で意識しているポイントについて話を伺いました。

「批判は課題が明確になる証拠」水処理の国内最大手・栗田工業の...の画像はこちら >>

(左から)水野誠さん、笹川友里



水野誠さんは1997年に栗田工業へ入社。製鉄所を中心に営業、技術、商品開発の分野で経験を積み、2017年からIT部門でビジネス変革を担当。2019年にはデジタル戦略本部副本部長に就任し、Fracta Leap社と共同で「メタ・アクアプロジェクト」を立ち上げ、リーダーとしてDX推進をけん引。その後、2022年に執行役員・デジタル戦略本部長に就任。2025年にイノベーション本部長を経て、現在はアドバンスドイノベーション本部長を務めています。

◆IoTとAIが水処理の現場を変える

半導体製造に使用する超純水の製造・回収・再利用をはじめ、水処理に特化した栗田工業株式会社は、北米やヨーロッパ、アジア、ASEANなど世界各地に拠点を展開し、グループ全体の事業規模は約4,000億円にのぼります。近年は、半導体工場の建設が進むアメリカやヨーロッパでの需要拡大を見据え、グローバル展開を強化しています。今回は、AIやIoTを活用した具体的な水処理サービスについて話を伺いました。

水野さんによると、水処理は設備や薬品を導入するだけでは成り立たず、継続的な管理が欠かせないため、多くの時間とコストがかかると説明。一方で、そういった現場の状況を把握したくても、頻繁には行けない課題があるとし、それらをIoTによって「トレードオフではなく、トレードオンの関係に変えていく」と語ります。


その考えによって生まれたのが、水処理装置の自動管理システム「S.sensing(エス・センシング)」です。これによって、現場の状況を遠隔で常時確認できるようになったほか、取得データをもとに自動制御も可能になりました。約20年前から展開しており、水野さんは「現在、国内で約5,000ヵ所、海外でも1,000~1,500ヵ所ほどで導入されています」と紹介します。

ほかにも、栗田工業は製紙工程向けの予兆診断サービス「Kuri-smart(クリスマート)」も展開しています。顧客の運転データと、栗田工業が蓄積してきた水処理データを掛け合わせることで設備トラブルの“兆し”を検知し、異常発生前の対策につなげています。

特に製紙工場は大量の水を使用するため、水処理との関連性が高く、予測精度も高まりやすいといいます。水野さんは、このサービスの重要性について「ダウンタイムの損失は、水処理コストより圧倒的に大きい」と強調します。また、こうしたサービスの背景にあるのが、栗田工業が長年培ってきた“暗黙知”です。「我々が持っている暗黙知をお客さまに役立てていただく、非常に誇らしい取り組みだと考えています」と力を込めます。

◆世界の知見を一元化するBX基盤

栗田工業では、水処理薬品や装置に関するデータを世界規模で一元管理する「BX(Business Transformation)基盤」の構築を進めています。長年の事業活動で蓄積してきたノウハウやデータを、グローバル全体で活用できるようにするための取り組みです。

水野さんによると、クリタグループは国内外に数多くの事業会社を抱えており、それぞれで情報管理のルールや記録方法が異なっていたそうです。
そこで、グループ共通のルールを整備し、データや情報を横断的に活用できる仕組みとしてBX基盤が開発されました。

しかし、その構築は決して簡単なものではありませんでした。試行錯誤や失敗も重ねながら、完成までには4~5年を要したそうです。さらに、開発を進めるなかで「何のためにこれをやっているのか」と、手段と目的が入れ替わってしまうような場面もあったといいます。そのなかでも、「何が一番大変だったかというと、デジタルテクノロジーの発展が非常に速いので、『これでいい』って思っていたものが、もう翌年には古くなっているという状態」と水野さん。

社員がBX基盤を本格的に使い始めたのは2年前だそうで、まさに生成AIをはじめとしたデジタル技術が急速に進化しているタイミングと重なりました。そのため、基盤を完成して終わりではなく、「さまざまなテクノロジーを掛け合わせてアップグレードしていかなければならない。日々進化です」と語ります。

◆水の危機と産業発展の両立へ

2026年4月、栗田工業のアドバンスドイノベーション本部長に就任した水野さん。DXやデータ活用を進めるなかで、特に大切にしているのが、「ユーザーのレビューが多いほどよいソリューションにつながる」という考え方です。

水野さんは、DXでは実際に使う社員の声を受け止めることが欠かせないと語ります。なかには、導入前からさまざまなフィードバックが寄せられることもあるそうですが、それらを整理し、本当に必要なものを開発に反映していく。
この改善のループが重要だといいます。

そこで、笹川が「厳しいコメントが来ることもあるかと思いますが、心が折れませんでしたか?」と尋ねると、水野さんは「そこは特別な能力が私にあるのかもしれないですけど、仕事に対してさまざまな批判があっても全然かまいません。むしろ、課題が明確になったと受け止められる体質ですので、わりとそこは平気です」と笑顔で語ります。

社員からのレビューは、日々チャットで直接届くそうですが、すべてを反映すると開発の範囲が広がったり、コストが膨らんだりしてしまうため、「ここは我慢してね」「ここは対応する」と、軸を決めておこなうことも重要だと話します。

最後に笹川は、「『水』って、産業のみならず、人類にとってもこれまで以上に最重要なものになっていくのでしょうか?」と質問。これに、水野さんはまず、人類が利用しやすい地表の淡水は、地球上の水全体のわずか0.01%ほどで、人口増加が続くなか、1人あたりが使える水は今後さらに減っていく可能性があることを指摘し、今後は「いかに効果的に水を使うか」「無駄な水を減らすか」がますます重要になると語ります。

さらに、新しい工場建設が進む地域では、住民と産業側のあいだで水コンフリクト(水量の確保や水質管理などを巡る対立や紛争)が起こるケースもあると語り、「それもトレードオンの関係ですね。そこに工場が建ったとしても、その地域の水環境に対するインパクトを限りなくゼロに近づけますし、そこで産業が発展すれば、その地域が潤っていく。我々としては、こういったことをゴールに設定して取り組んでいきたいと思っています」と話しました。

次回6月6日(土)の放送は、サンスターグループ 情報セキュリティ グローバルディレクター堀健二さんをゲストに迎えてお届けします。生活密着型企業のDXが描く未来の情景とは?

<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00~20:30
パーソナリティ:笹川友里
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/podcasts/futurepix/
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