2019年に「老後2,000万円不足」が大きな話題となりました。無職の夫婦のみの世帯を例として、老後の生活費の不足額は毎月約5万円、老後生活が20年間の場合は約1,300万円、30年で約2,000万円と算出されたのです。
このような金額を受けて、自分の貯金額や定年退職金のことが気になった方もいることでしょう。退職金について、実際にはどのくらい支給されるものなのか、また、勤続年数によってどのくらい違うものなのか、厚生労働省の資料をもとに退職金の実情をみていきます。
■会社員の退職金、勤続年数でどれくらい違う?
退職給付金の受け取り方は「退職一時金制度」と「退職年金制度」の2通りがあります。厚生労働省の「平成30年(2018年)就労条件総合調査 結果の概況」( https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/index.html )から、勤続年数と学歴による支給額を見てみましょう(表参照)。

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(厚生労働省の資料をもとに編集部作成)
まず学歴による支給額の差が大きいことが分かります。そして勤続年数については、「20~24年」と「35年以上」を比較すると、どの学歴でも1,000万円ほど差があるようです。やはり「学歴」と「勤続年数」が退職金額の差をつける大きな要因となっていることが分かります。
■公務員の退職金は、どれくらい?
公務員の退職金はどのくらい支給されるのでしょうか。国家公務員と地方公務員の支給額について見てみましょう(表参照)。

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(内閣官房内閣人事局「退職手当の支給状況」( https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/jinji_c5.html )をもとに編集部作成)
自己都合の退職で勤続年数が10年未満の場合は100万円にも達していませんが、35年以上勤めることで2,000万円前後の退職金を受給できるようです。定年の場合は、35年以上勤めることで2,000万円以上は受給できるようです。
次に地方公務員の退職金です。

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(総務省「給与・定員等の調査結果等(2019年)」( https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/teiin-kyuuyo02.html )をもとに編集部作成)
老後資金2,000万円を退職金でまかなおうとすると、民間の会社員は大学卒だと35年以上、公務員においても30~35年の勤務が目安となりそうです。単純比較はできませんが、安定して勤務できる公務員の方が勤続年数も長くなりやすいため、有利だといえます。転職を経験してきた人、転職を検討している人については、人生全体にわたる収支を考えて、資産運用・資産形成の計画を早期から立てていくことが大切になりそうです。
■退職給付制度の近況
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けて転職を余儀なくされる人や、本業での収入減のために企業が社員に副業を認めるケースも増え、いわゆるフリーランスという働き方も増加しています。
選択肢が広まる一方で、退職金が一定の勤続年数や役職、学歴に相応する制度である以上、退職金については厳しい見方をせざるを得ないでしょう。老後の収入の柱である退職金給付も、実は低下傾向にあるのです。
まず、退職給付制度がある企業の割合は徐々に低下しており、2018年で約8割(80.5%)となっています。給付額については平均で1,700万円~2,000万円程度となっており、バブル期のピーク時と比較すると約3割~4割程度の減少となっています。数十年も働いてきた定年退職金でさえ減少傾向にあることを考えると、転職を経験した人の退職金は厳しいものとなる可能性が高いです。
勤務先の退職金制度については社内規定などを確認してみましょう。また金額についても早めに把握し、老後資金の計画を立てたいところですね。
■資産形成を支援する制度の活用も
老後に向けた資産形成については、長期間にわたる準備期間が必要だといわれています。定年退職金が勤続年数の積み重ねを反映しているのと同じように、老後に向けた一定の資産形成には年数を要します。
そのような資産形成を支援する制度として、「つみたてNISA」「iDeCo」などがあります。つみたてNISAは年間の投資上限額(40万円)まで運用益が非課税扱いとなり、その資産はいつでも引き出し可能です。
個人型年金制度のiDeCoは、年間上限額の範囲内で掛け金を拠出し、運用益はNISAと同様、非課税扱いになります。60歳になるまで途中引き出しは原則不可という制約があるものの、掛け金は全額が所得控除の対象で、年金として受給する際も一定の税制優遇があります。
iDeCoの利用者数は約163万人(2020年6月)、つみたてNISAの口座数は219万口座(2020年3月末時点)となりました。「一般NISA(約1,186万口座)」「ジュニアNISA(35万口座)」も含めると、NISA全体で1,405万口座も契約されているのです。
長期にわたる資産形成の方法として、さまざまな方法を検討してみてはいかがでしょうか。
■さいごに
65歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯、単身男性、単身女性のそれぞれで、2,252万円、1,552万円、1,506万円となっています。
希望する生活水準や老後の人生設計に照らして、早めに老後資金の計画をしていくことをおすすめしたいと思います。
参考
「平成30年(2018年)就労条件総合調査 結果の概況」( https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/index.html )厚生労働省
「退職手当の支給状況」( https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/jinji_c5.html )内閣官房内閣人事局
「給与・定員等の調査結果等(2019年)」( https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/teiin-kyuuyo02.html )総務省
「高齢社会における資産形成・管理」( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf )金融審議会市場ワーキング・グループ報告書
「最新iDeCo加入者数等について(令和2年6月)」( https://www.ideco-koushiki.jp/news/ )iDeCo公式サイト
「NISA・ジュニアNISA口座の利用状況調査(2020年3月末時点)」( https://www.fsa.go.jp/policy/nisa/20200714/01.pdf )金融庁
【ご参考】貯蓄とは
総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。