公開から24日間で興行収入が200億円を突破し(興行通信社調べ)、早くも日本歴代5位にランクインした『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。SNSでは著名人から一般の人まで次々に登場人物のコスプレを披露しています。
企業とのコラボ商品やグッズの多様化など、社会現象にまでなっているその勢いは止まるところを知りません。漫画、アニメ作品がここまで大ブームになったのは2014年の「妖怪ウォッチ」以来ではないでしょうか。6年前を振り返りつつ、現在の「鬼滅の刃」人気を考えていきます。
■妖怪ウォッチをめぐる熱気と大騒動
妖怪ウォッチ人気が社会現象になったとき、品切れ続出だった妖怪ウォッチ商品の転売問題などがニュースで大きく取り上げられていたのを覚えている方もいらっしゃることでしょう。就学前の子どもから小学生がこぞってメダルを購入し、子供同士で交換会をして問題が起きることもありました。
当時を振り返ると、インターネットでSNSが浸透してきた時代背景もあり、瞬時に「どこで売られているか」「レアメダルの種類」が分かるようになっていました。そのため、親子で夢中になってレアメダルを当てるまでお金を使う家族も出てくるなど、その熱狂ぶりは一種異様なものでした。
また、以前から問題視されていた「転売屋」が大きくクローズアップされたのも、転売屋による買占めや、妖怪ウォッチ商品が買えない子どもたちの悲痛な訴えをメディアが連日取り上げたことが影響しています。
2014年12月に封切られた『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』では、前売り券の特典にメダルやカードが付きましたが、これらも転売屋によってネットオークション等で高額取引され大きな問題となりました。
公開初日に見に行った筆者の知人は、「映画館で人酔いをしたのは初めて」と口にし、身動きがとれないほど館内は親子連れで賑わっていたと教えてくれたのを覚えています。公開2日間での興行収入は16億円を超え、最終興行収入は78億円を記録しています(興行通信社調べ)。
■妖怪ウォッチと鬼滅の刃の根本的な違い
2012年12月発売の小学館コロコロコミック2013年1月号で連載開始、2013年7月にニンテンドー3DSのゲームとして登場した妖怪ウォッチが、当初からメディアミックスを念頭に置いていたことはよく知られています。
そして、2014年1月に開始されたテレビアニメによって爆発的な人気となり、年末の映画公開へと慌ただしく駆け抜けていきました。バンダイナムコの2015年3月期決算では、妖怪ウォッチ関連グッズの販売が552億円を記録したことが明らかにされています。
しかし、一気にブームがきた後はその反動も大きく、近所に住んでいる子どもたちがこぞって遊んでいた「妖怪ウォッチを腕にはめてメダルを見せあう」という風景は急速に消え、その後二度と見ることはなかったのです。
一方、現在大ブームとなっている鬼滅の刃は、ご存知の通り「漫画でじわじわ人気が出てアニメ化」という流れでした。こうしたケースでは読者からの支持がなければアニメ化するのは難しく、「ある程度の利益が出そう」と判断されなければ実現しないものです。
大元の漫画作品が世代を超えて支持されている鬼滅の刃は、コロナ禍での自粛期間に連載のクライマックスに突入し、SNSで大きな盛り上がりを見せたことも現在の社会現象に繋がる人気に火をつけた大きな要因の1つでしょう。また、2019年のアニメ終了から劇場版まで約1年間のタイムラグがあったことで駆け足に終わらずに済んだ面もあります。
もちろん、鬼滅の刃の「漫画の世界観と造形美」がアニメーションの世界で花開いたことが決定打となったのは疑いの余地はありません。個性的な登場人物が一見してそれとわかる色や図案の衣装を着ていることも、あらゆる方面でグッズ展開しやすいというメリットがあります。
■鬼滅の刃は一過性に終わらない?
メディアミックスを進めて成功するのに、展開の軸がしっかりしていることが最大にして唯一の条件というのは、ポケットモンスターを見るとよくわかります。大人気ゲームソフトの世界をアニメ化し、次いで映画化へと続きましたが、「基本はゲーム」というスタンスは変わりません。
子どもを通じて大ブームを体験した筆者が今こうして返ると、妖怪ウォッチブームは人々の欲望が一気に頂点に達し、そしてあっという間に潮が引いてしまった現象だったと感じています。
何事にも流行り廃りはあるもので、鬼滅の刃もいつの日かブームが落ち着く日がくるかもしれません。連載自体が終了しているため、今度どういう展開があるか多くのファンが固唾を飲んで見守っていますが、かつての妖怪ウォッチのような急速なお祭りの終焉を迎えることはなさそうです。子どもだけでなく、ママ世代の女性ファンなど世代を問わない人気も強みでしょう。
原作第7巻が無限列車の話に当たりますが、それ以降はまだアニメ化されておらず盛り上がる要素はまだまだ残っています。「そういえば、市松模様のマスクをしていた人っていたよね」と言われる日はまだまだ先のことになりそうです。
【参考資料】
「CINEMAランキング通信 2020年11月9日付記事( http://www.kogyotsushin.com/archives/topics/t8/202011/09161226.php )」(興行新聞社)
「バンダイナムコ決算補足資料( https://www.bandainamco.co.jp/cgi-bin/releases/index.cgi/file/view/8315?entry_id=5727 )」(バンダイナムコホールディングス株式会社)