長引くコロナ禍の影響で外出自粛が続く中、EC・通販市場は「コロナ特需」といわれるほど大きく拡大しました。中でもヨドバシカメラやビックカメラをはじめ、多くの家電系企業が2桁の大幅増収を果たしています。
■物販の2020年EC・通販市場は初めて10兆円を突破
外出自粛による巣ごもり需要が消費を後押しし、昨今のネットを軸とした通販市場は「コロナ特需」といえるほどの伸びを示しています。2020年に配布された一律10万円の特別定額給付金も高額商品の購入を促進させ、在宅時間の充実につながる商品を外出せずに入手できるEC・通販に人気が集まりました。
EC・通販が好調な動きは数字にも表れています。通販専門紙が8月にまとめた資料によれば、2020年におけるEC・通販の物販市場は上位509社合計で10兆2146億円と、初めて10兆円を超えました。前期に比べ、約16%増と大幅に拡大しています。
■ヨドバシカメラやビックカメラなど家電系が勝ち組に
その通販専門紙が同時に公表した「通販・EC 2020年度売上高ランキング」を見ると、独走状態を維持するトップのアマゾンに続き、オフィス通販などの企業や家電系企業、テレビショッピング企業などが好調なことがわかります。
中でも家電系の躍進が目立ち、ヨドバシカメラやビックカメラ、上新電機といった実店舗を持つ企業や、ジャパネットたかたやストリームなどの通販専業企業が2桁増の大幅増収を果たしました。
有店舗企業ではヨドバシカメラが前期比60.3%増と驚異的に伸びたのをはじめ、ビックカメラが同37.0%増、上新電機が同25.5%増と大きく躍進。EC・通販専業でもジャパネットたかたが同15.8%増、ストリームが同25.4%増と大幅増収になりました。
好調だったのは高額商品で、テレビや冷蔵庫、洗濯機などの大型家電や、マッサージチェアなど美容・健康家電の売り上げが伸びました。外出自粛の生活様式が広がったことで、テレワーク用のデスクや椅子、パソコンなどの売り上げも拡大。
隠れたヒット商品としては、ジャパネットたかたが手がける家庭用ウォーターサーバーと飲料水が挙げられます。契約利用者に専用のウォーターサーバーを無料レンタルし、定期的に富士山の天然水を宅配します。テレビショッピングでの販促効果に加えてステイホームや猛暑が追い風となり、契約申し込みが急増して自社工場で製造する天然水が不足するほど注文が殺到しました。
■各社の顧客サービスも売り上げを後押し
これら家電系企業が好調な背景には、それぞれが手がける顧客サービスの効果もあると思われます。たとえばジャパネットたかたは、ヒットしたウォーターサーバーや天然水の品質とサービスに徹底的にこだわり、天然水の製造から水や専用サーバーの配送・設置、メンテナンスまですべて自社グループで手がけています。
ヨドバシカメラは、自社サイトのヨドバシ・ドット・コムで商品価格にかかわらず送料無料サービスを展開し、他社との差別化を図っています。通常なら配送料が高額な大型家電も離島などを除き無料で、配送日指定(一部商品を除く)にも追加料金はかかりません。
迅速配送にも注力し、「注文当日」や「翌日」の配送にも無料対応。さらに全国主要都市で展開する「ヨドバシエクストリーム便」は、家電をはじめ日用品、文具、ファッション品、食料品など800万点以上が追加料金なしで最短注文当日に届きます。こうして家電に限らず幅広い商品を在宅のまま迅速に入手できることも、売り上げを押し上げた要因といえそうです。
一方、ビックカメラは全直営店舗に電子棚札を導入し、自社サイト「ビックカメラ.com」を含む店舗間での商品値札表示に差が生じないようにしました。
サイトで注文した商品を指定店舗で受け取れる「店舗受け取りサービス」にも、電子棚札は役立っています。顧客からサイト経由で指定店舗に取り置き依頼が届くと、その商品の電子棚札に内蔵したLEDランプが点灯するため、確認や保管にかかわる作業が短縮化。商品の迅速な受け渡しにつながり、コロナの影響で店内滞留時間を減らしたいと考えている顧客のニーズに対応できます。
また、店舗で気になった商品の電子棚札にビックカメラのスマホアプリをかざすと、購入者のレビューや評価、在庫などがリアルタイムで確認できるのも便利です。スマホの内容を後でゆっくり比較検討したうえでサイトから注文できるなど、店舗とネットが連動したサービスといえます。
コロナの影響を機にリフォーム用バーチャル店舗を開設したのは上新電機で、AR(拡張現実)機能を使って「3密」を避けながら選んだ商品の設置がイメージできます。カタログに掲載する全商品を掲載し、チャットボット店員による説明や動画を通じた詳細な商品確認などが可能です。
■まとめ
このように、家電のEC・通販を手がける企業の多くが大幅成長した要因には、送料無料や迅速配送、コロナ禍を受けての各種サービスなどが挙げられます。ただ、特別定額給付金の追加配布予定はなく、巣ごもりやテレワークによる在宅需要も一段落したことから、今後はこれほどの「特需」は見込めないかもしれません。
一方で、コロナ禍が追い風になり、各家庭にEC・通販での商品購入が定着したのも事実です。
参考資料
- 【通販・通教・EC 2020年度 売上高ランキング〈トップ509】〈上位509社売上高調査〉( https://www.bci.co.jp/nichiryu/article/9308 )(日本流通産業新聞サイト)
- ジャパネットたかた公式サイト「ウォーターサーバー・宅配水」( https://www.japanet.co.jp/shopping/water/ )(株式会社ジャパネットたかた)
- ヨドバシカメラ公式サイト「配達・納期」( https://www.yodobashi.com/ec/support/beginner/delivery/index.html?yclid=YSS.1000089595.EAIaIQobChMIqu6Fzviv8gIVymkqCh3G9wyNEAAYASAAEgJyvvD_BwEhttps://image.yodobashi.com/pr/lp_xtreme/ )(株式会社ヨドバシカメラ)
- 2020年8月期 決算短信〔日本基準〕(連結)( https://www.biccamera.co.jp/ir/library/pdf2020/20201009.pdf )、ビックカメラ公式スマホアプリ( https://www.biccamera.com/bc/c/service/app/index.jsp )(株式会社ビックカメラ)
- ジョーシン「バーチャルリフォーム店舗」開設について( https://www.joshin.co.jp/joshintop/news_pdf/20210331103400.pdf )(上新電機株式会社)