■ニューヨークを席巻する日本食ブランド



いきなり!ステーキが米国で快進撃、人気の秘密と日本との違いは...の画像はこちら >>

ステーキの本場米国で「いきなり!ステーキ」の快進撃が続いています。ただ、ステーキにはうるさいニューヨーカーの心をつかんだのは目新しさだけではないようです。

今回は、ニューヨークで旋風を巻き起こしている「J-Style」という巨大なうねりを紹介します。



■8月3日に9号店がオープン、目標は全米で1000店舗



立ち食いステーキとして日本ではすっかりおなじみのいきなり!ステーキですが、本場のニューヨークでも怒涛の開店ラッシュが続いています。昨年2月に1号店がオープンしたばかりですが、8月3日には9号店がマンハッタンのアッパー・イースト・サイドで営業を開始。わずか1年半で9軒目というハイスピードです。



年内に11店舗、5年のうちに少なくとも20店舗以上を確保したいとの考えで、最終的には全米で1000店舗を目指すとされていますので、出店ラッシュはまだまだ続きそうです。



■「立ち食い」から方向転換、日本とは違うオペレーション



いきなり!ステーキの代名詞はいわずとしれた「立ち食い」ですが、立ち食いやチップの廃止、グラム単位での表示といった「日本流」はすぐに方向転換されています。ただ、方向転換といっても、目論見が外れたわけではなく、当初の計画に沿っての変更のようです。



同社はニューヨークに進出するにあたり、「立ち食いはもともとある日本の文化ではない」とした上で、いまでは立ち食いそばが広く浸透し、ステーキでの立ち食いも受け入れられたと主張。その一方で、欧米ではパブでの立ち飲みは一般的であるとして、「米国で立ち食いが受け入れられないわけがない」と強気のコメントを出して話題を集めました。



また、日本人には面倒なチップの廃止やグラム単位での提供など、日本流を前面に押し出したアピールも忘れていませんでした。しかし、これらはいきなり!ステーキが日本から来たユニークな店であることを強調するためのイメージ戦略であったことが後に明らかになります。



報道陣が詰めかけた1号店のオープンでは、アメリカ人がステーキを立ち食いしている姿が大きく報じられ、その衝撃的な映像により注目度が一気に高まりました。

ただ、店内は最初から着席を前提にレイアウトされており、立ち食いというパフォーマンスはあっという間に終了。すぐに椅子が用意されました。



行列ができるほどの人気が伝えられたことで、「成功するはずないといわれた立ち食いが米国で受け入れられた」「チップの廃止が成功の秘訣」といった報道もあったようですが、いまニューヨークのいきなり!ステーキに行っても立ち食いはできません。



また、米国ではステーキの重さはオンス(OZ)表示が一般的です。「立ち食い」「チップ制廃止」「グラム表示」はイメージ戦略としての役割を終え、現在は全店舗が着席で、チップは必要ですし、オンス単位での量り売りとなっています。また、予約もできるなど、日本のお店とはオペレーションが大きく異なっています。



■低価格の実現、救世主は日本酒?



とはいえ、「手頃な価格でステーキを提供する」という理念は貫かれています。



昨年アマゾンに買収され、取り扱う商品の価格もぐっと手頃となったホールフーズでも標準的なステーキ用の牛肉はポンド(16オンス)当たり25ドル前後ですし、高級な部位となれば30ドルを超えることも珍しくありません。



対して、いきなり!ステーキでは部位や大きさによっては20ドル以下でも十分に楽しめます。スーパーで買って自宅で焼く手間や家庭では難しいとされる絶妙な焼き具合で提供されることなどを踏まえると、文字通りお手頃な値段でステーキを堪能することができます。



ちなみに、ピータールーガーといった日本人にも知られるステーキ店に行った場合、ワインやデザートを合わせると1人100ドルくらいが相場となりますし、そもそも1人で行くところではありません。



飲食業での原価率は3割程度といわれていますが、いきなり!ステーキの原価率は5割を超えているとのこと。

客回転の速さが売りですが、ここニューヨークでは「立ち食い」は成り立ちません。



ただ、ステーキにワインは付き物。そこで、着席して食べてもらう代わりに目を付けたのが利益率の高いワインでした。また、米国でも日本酒の人気が意外と高いことから、現在はステーキに合うお酒を厳選して提供することにも力を入れています。



日本に比べると回転率が落ちる分、日本酒の品揃えを充実させることで利益を補い、低価格を実現しているようです。



■人気の秘密にはアジア系ミレ二アル世代の支持も



ニューヨークでいきなり!ステーキを利用して気づくのは、アジア人比率の高さです。日本人が利用しているのだから当たり前と思われるかもしれませんが、そうではなく中国人や韓国人が多いのです。



これは成功している日系レストランの特徴の1つでもあり、たとえば大戸屋がよい例です。大戸屋ではランチでも20ドルはしますので、物価の高いニューヨークでも高い方の部類に入ります。



決して安くはない大戸屋ですが、行列ができるほどの大人気となっています。その人気を支えているのがアジア系のミレ二アル世代(20~30代)。大戸屋は大衆店でありながらも上品さを備えた店構えとなっていますが、これはニューヨークでラーメンブームの火付け役となった一風堂にも言えることです。



一風堂のラーメンは1杯が約2000円と日本人の感覚からするとちょっと高すぎると感じるかもしれませんが、大戸屋や一風堂は食事をエンターテインメントとして楽しめる「場」を提供してもいるのです。



日本でもかつてカジュアルな「イタ飯」が若者を中心にブームとなりましたが、ニューヨークでの大戸屋や一風堂の立ち位置はこれに近いといえるでしょう。「日系レストラン」はおしゃれな若者が集う場としてのブランド力を強めているのです。



■ジャパニーズBBQの浸透も追い風か



また、ニューヨークでは牛角が「日本式バーベキュー(Japanese BBQ)」を定着させたことも追い風となっているようです。



日本でいうところの焼肉は米国ではバーベキュー(BBQ)と呼ばれます。アメリカ人のBBQ好きは世界的に有名ですが、アメリカ式のBBQと日本の焼肉店は似て非なるものです。また、焼肉といえば韓国ですが、米国でもコリアンBBQとして定着しています。



こうした中で、牛角はマンハッタンに3店舗、郊外に2店舗を展開するなど、アメリカンでもコリアンでもない第3のBBQとして日本式のBBQを浸透させた立役者といえるでしょう。



そして、出店ラッシュが続くいきなり!ステーキの愛称はJ-Steak。同じくステーキと呼ばれていても日本のステーキは米国のステーキとは違うという「J(=日本)」ブランドが差別化のポイントとなっていることがわかります。



日系レストランは、いまや米国でも消費活動の中心的存在となったミレニアル世代を中心に、単なる食事の場ではなく、食事をイベントとして楽しむ場を提供しています。



一風堂、牛角、大戸屋、いきなり!ステーキと続く日系レストランの快進撃は、ニューヨークにおいて、日本食=スシという状況から脱し、いわば「J-Style」というブランドが確立されつつあること伺わせています。



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