脱・ドル化がはじまった!
イーロン・マスクもツイートするほど、脱・ドル化(De-Dollarization)の報道のオンパレードとなっている。前米大統領のトランプは、「私たちの通貨は暴落しており、間もなく世界標準ではなくなるだろう」と述べた。BRICS諸国が「新通貨」を開発するなど、世界的な脱ドル志向が加速している。
脱・ドル化の報道が多すぎて整理ができないくらいだが、それをまとめたThe Kobeissi Letterのツイートをみると、以下の通りである。
1. サウジアラビア "もはや米国を喜ばせることに興味はない"
2. "米国に依存しない "経済戦略をとろうとするサウジアラビア
3. 中国人民元が米ドルに代わり、ロシアで最も取引される通貨となる
4. OPEC、米国の助言に反して「サプライズ」減産を発表
5. マレーシア、米ドルに依存する理由はないと発言Financial Timesによると、これはサウジアラビアとアメリカの関係が "バイデン政権下で低下した "からだそうです。
つい先週、サウジアラビアは122億ドル相当の中国元を使った新しい石油施設を発表しました。
また、米ドルではなく、中国元で石油を販売することも検討している。
これは、最近の歴史上、最も大きな米ドルへの対抗策である。
The Kobeissi Letterのツイート

ロシアのウクライナ侵攻は、米国が中央銀行の準備金を制裁する意思があることを示した。米国が<ドルを武器化>する用意があることを示した今、FRB(米連邦準備制度理事会)や欧米の銀行、その他の取引先が保有するドル準備は、政治的に没収されかねないということである。
ゾルタン・ポジャールが「グローバル・マネー・ディスパッチ」で早くから指摘していたように、まずロシア、そして他の国(中国)がペトロダラーを追い出し、ペトロゴールドに置き換えようとしていることから、ゴールドの役割が変化している可能性がある。
脱・ドル化の報道の中で輝きを増しているのがゴールド相場である。「危機を防ぐことはできないかもしれませんが、危機の到来を察知し、富を維持するためにそれなりの準備をすることはできます。第一段階は、ゴールドを手に入れることです」と、ジム・リカーズが述べているように、ゴールドが第2の通貨としてヘッジの手段となっているのだ。
もちろん、エブリシングバブルの崩壊で「全部売り相場」になれば、ゴールドも下落するだろう。それでも、地球上の多くの地域では、米ドルの重要性が今よりはるかに低くなる未来に向けて準備を進めている。
ゴールドCFD(日足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
ゴールドCFD(週足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
ゴールドCFD(月足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
ドルインデックス先物(日足)

出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター
スーパーバブルの崩壊を前にゴールドは2,000ドルを超えて急上昇

ドルの大局は長期的な下落サイクルに入ったのかもしれない。それはドルの基軸通貨としての覇権が終わりに近づいてきていることを意味する。現時点では多くの人々がそのことに気づいていないか、あるいは気づいていたとしても目を背けているのかもしれない。
1944年のブレトンウッズ会議以来、ドルは国家間の国際貿易収支の決済に使われる唯一の通貨である。まさかそんなことが起きるわけがないと思うのが人間の心理なのかもしれない。
資産運用をする究極の目的はインフレへのヘッジ
一般的に、米国政府はこれまで債務不履行に陥ったことがないと思われているようであるが、これは真っ赤なうそである。米国政府は過去100年の間に2回、非公式ではあるものの債務不履行に陥った。ゼロヘッジの記事「米国政府の債務不履行への備えはできているか?」を参考に確認してみよう。
一度目は、1933年4月に発せられた大統領令6102号である。この大統領令は、米国民に対し保有する金を全て差し出すように強制したもので、明らかに米国政府の債務不履行であった。米国での金の所有は、わずかな制限を除いて、その後約40年間違法とされた。
大統領令6102号の下で、米国人は金1トロイオンスあたりを20.67ドルで没収された。政府が金を没収した直後、1934年の金準備法によって、金の価格は1トロイオンスあたり35ドルに引き上げられた。つまり、1トロイオンスあたり約15ドル、米国民は40%以上の富を収奪されたのである。
二度目の債務不履行は1971年、ニクソン大統領が米ドル紙幣と金の兌換(だかん)を一時的に停止することを宣言したときだ。
第二次世界大戦後、米国は「民主主義の兵器庫」としての役割を果たすため、金を大量に保有していた。そのため、中央銀行は金の現物の所有権を移動したり、再指定したりするのではなく、金保有に裏付けされたドルを国際決済のために交換する仕組みを作り上げた。
ただしこのシステムには弱点があった。米国が1オンスあたり35ドルの金と交換できる以上のドルを増刷しないという前提に基づいていたということである。1944年のブレトンウッズでの取り決めが約20年間続いた後、米国における金準備が危機的なレベルに達し、市場は米国に対して、その義務を果たしていないとの懸念を抱くようになった。
そうした中、1971年の秋、ニクソン大統領が金本位制から突如離脱すると発表したことでドル相場は大暴落に見舞われた。しかし、その一方で、ニクソン政権は1974年、サウジアラビアと王家の保護を約束する見返りに原油輸出を全てドル建てで行うことに合意。金に代わって原油を支えにすることでドルの価値が安定するように取り計らった。
約50年にわたり続いてきたペトロダラー体制が、今、崩壊しつつある。大きな要因は米国の中央銀行であるFRBと米国政府による緩和的な放漫政策だ。増え続ける財政赤字を維持するために必要とされるドルを、FRBは何もないところから輪転機を回して作り続けている。
国をあげて公然と行われている財政赤字のマネタイゼーションによって、ドルの購買力は加速度的に縮小している。
国際情勢における勢力図の変化もペトロダラー体制の崩壊に影響を与える要因だ。国際貿易の決済において、ドルに代わる通貨を開発するために協力する組織がロシアや中国などを中心にいくつか生まれている。こうした枠組みに参加することを検討している国々が増えつつある。米国政府が過去100年で3度目の債務不履行に陥る日はそう遠くないのかもしれない。
紙(ペーパー・マネー)の時代は終わった。私たちの生活を支えるには、金融よりも、モノの方がはるかに重要であることがわかったからだ。今後、世界の国々で「金融」への関心が薄れ、「モノ」への関心が高まっていくことが予想される。
金融資本主義(ペーパー・マネーとイージーマネーの時代)は、リーマンショック(世界金融危機)で終わったのである。金融資本主義は「格差の拡大」と「富の偏在」で終焉(しゅうえん)を迎えた。それでもリーマンショック後、FRBはデフレ回避という大義名分の「バブル飛ばし(損失先送り策)」をやってきた。
金融資本主義は中間層の没落を促し格差社会と富の偏在をもたらした

現在の相場はバブルというより、社会主義的な国家管理相場で、金融当局の自作自演の相場をみて、金融資本主義が続いているように錯覚しているのが今の市場である。成長のための資金を負債に依存していることを考えると、金利の上昇は本質的に破壊的である。インフレは宴の終わりなのだ。
米・英主導のアングロサクソン金融システムは崩壊しつつある。また、ウクライナ代理戦争によって、ペトロダラーシステムもあやしくなってきた。
IMF(国際通貨基金)の元顧問で、クリントン大統領の経済諮問委員会のメンバーでもあったヌリエル・ルービニは、世界金融危機(リーマンショック)を予測した数少ない「主流派」経済学者の一人であった。
ルービニは、債務に基づく経済が生まれたのは、FRBをはじめとする中央銀行が推進してきたゼロ金利に近い、あるいはゼロに近い量的緩和政策のせいであると指摘している。ゼロ金利・量的緩和政策の必然的な結果が、米国民を大混乱に陥れる物価上昇である。
「FRBが債務をマネタイズすることで連邦赤字を助長し続けると、ドルの価値の崩壊とドルの世界準備金の地位の拒否によって引き起こされる経済危機が発生する」
(ヌリエル・ルービニ)
それでも、ドルの基軸通貨としての地位はそう簡単には終わらないだろう。
国家というのは利益(プラス)の分配もするけれど、負債(マイナス)の分配もするのである。株価の下落・増税・リストラ・賃金カットなどは負債の分配の過程であって最終段階ではない。
古今東西、歴史が教えてくれることは、膨大なマイナスの分配にはインフレや戦争が必要となってくる。そして、いつもインフレの犠牲になるのは政府や企業でなく個人である。我々が資産運用をする究極の目的はインフレへのヘッジに他ならない。
4月5日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
4月5日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、武田則孝さん(楽天証券FXディーリング部)をゲストにお招きして、「ペトロダラーの終わりのはじまり!?」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。




ラジオNIKKEIの番組ホームページ から出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

4月5日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

(石原 順)