日経平均は34年ぶりの3万7,000円台回復、史上高値更新へ!?

 直近1カ月(1月22日~2月9日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで1.0%の上昇となりました。1月23日には3万7,000円に一時急接近しましたが、利益確定売りに伸び悩み、その後は3万6,000円水準を挟んでのもみ合いが続きました。


 ただ、後半にかけて上昇ピッチが再度加速して、2月9日には34年ぶりとなる3万7,000円台を一時回復しています。

なお、この期間(1月22日~2月9日)のダウ工業株30種平均の騰落率は1.8%の上昇でした。


 1月23日には日本銀行金融政策決定会合での「金融政策の現状維持」がランチタイムに伝わりました。


 午後の取引開始直後は買い先行となりましたが、「経済物価情勢の展望(展望リポート)」では「先行きの不確実性はなお高いものの、物価見通しが実現する確度は、引き続き少しずつ高まっている」とされ、3月か4月の緩和政策修正があらためて意識されることとなり、その後の利食い売り優勢の展開につながりました。


 国内外で主力企業の2023年10-12月期決算発表が期間中に相次いだことで、個別物色主体の動きとなったようです。台湾TSMC、蘭ASML、米インテルなど大手半導体企業の決算に一喜一憂しながら、全体相場は3万6,000円レベルで方向感の乏しい展開になっていきました。


 米国では、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が1月末のFOMC(連邦公開市場委員会)で4会合連続での金利据え置きを決定し、利下げを急がない姿勢を示しました。

市場の想定通りで株式市場への影響は限られました。


 相場が動意づいたのは2月8日です。日銀の内田真一副総裁が「マイナス金利解除でも緩和維持」と発言したことを手掛かりに日経平均は急伸となりました。


 指数寄与度の高い ソフトバンクグループ(9984) 急伸なども支援に、翌日にかけて一段高となりました。


 ソフトバンクGは2月8日、9日の2日間で、一時28%もの急騰となりました。傘下企業である英アームが好決算を発表して株価急伸となり、含み資産増大による企業価値の向上期待が高まりました。


 また、8日に発表した決算で、2023年10-12月期税引前利益が2023年3月期第2四半期以来の大幅黒字に転じたことも買い材料視されました。国内企業で時価総額トップの トヨタ自動車(7203) も決算発表を受けて強い動きとなり、市場全体のムードを明るくさせました。


 今回の決算では、 UTグループ(2146) 、 M&A総研ホールディングス(9552) 、 日本M&Aセンターホールディングス(2127) など、人材関連銘柄の好決算が目立ちました。 フジクラ(5803) や 古河電気工業(5801) なども決算を受けて大幅高となりました。 ローソン(2651) には KDDI(9433) のTOB実施が伝わりました。


 半面、高配当利回り銘柄と位置付けられていた あおぞら銀行(8304) が大幅な減配を発表し、ネガティブサプライズにつながりました。

ほか、 シャープ(6753) 、 住友ファーマ(4506) 、 オムロン(6645) なども決算がネガティブインパクトとなりました。


 日経平均は3万7,000円を一時突破、1989年の過去最高値3万8,915円が視界に入りつつあります。同水準を突破してくるまでは達成感も生じにくく、想定以上に速いタイミングでの最高値奪回も現実味が増してきている状況です。


 とりわけ、今年は新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の初年度ということもあって、「日経平均最高値」がニュースで取り上げられるたびに、個人投資家の日本株への投資ニーズは高まっていく可能性があるでしょう。


3月権利取り後、円高への反転や米中景気減速が押し下げ材料

 ちなみに、次の日米の金融政策会合はそれぞれ、米FOMCが3月19~20日、日銀金融政策決定会合が3月18~19日となります。FOMCは次回も無風通過の可能性は高いとみられますが、日銀会合では波乱の余地があります。春闘の集中回答日は3月15日前後とみられるため、ここで賃金の着実な上昇傾向が認識される可能性があります。


 3月に緩和策修正に踏み込まなくても、次回4月会合での修正の可能性がアナウンスされる公算は大きいと考えます。日銀イベント前のタイミングでは警戒感を強めるべきでしょう。


 2023年10-12月期の決算発表が一巡することで、目先の個別物色には手掛かり材料難となる状況が今後は想定されます。ただ、当面は業績変動リスクが表面化しにくくなることで、その点での買い安心感はむしろ高まると考えます。


 とりわけ、3月末の配当権利取りに向けて、高配当利回り銘柄などへの物色が進むものと考えます。新NISA初年度であることから、今年は例年以上に配当権利取りの動きが活発化する可能性は高いでしょう。


 また、先の話となりますが、2024年3月期の本決算発表のタイミングでは、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ改善策の発表が過去最多になってくると考えられます。今のうちに、改善策未公表で、PBR1倍割れ、ROE(自己資本利益率)が低水準、足元の業績が好調な銘柄などを探っておく必要がありそうです。


 そのほか、今後注目すべき物色対象は、四半期ごとに業績改善の進展が顕在化しそうな半導体関連株、3月から4月にかけての日銀の金融政策修正を織り込みたい銀行株などと考えます。


 短期的には一段の上振れも想定される株式市場ですが、2025年3月期の業績ガイダンスには注意が必要であると考えます。


 為替相場のドル安円高反転の動きを織り込む企業が多いとみられるほか、ここまでの利上げによる米国景気の減速、中国景気の低迷継続、さらには建設業や運輸業で影響が顕在化する2024年問題などを考慮すると、期初の段階では保守的な計画の企業が増えてくる可能性は高いでしょう。


 業績回復期待が高い半導体関連、PBR1倍割れ改善策の公表増加などが支援となる一方、全般的には相場の押し下げ材料につながると見ます。

年初からの急ピッチの株価上昇に関して過熱感が拭い切れない中、3月の権利取り一巡のタイミングでは、いったんは株価の調整を想定すべきと言えるでしょう。


 なお、日銀の政策修正アナウンスは短期的には悪材料出尽くしと捉えられるかもしれませんが、その後の円高反転を通じて悪影響がジワリと効いてくることになりそうです。


2023年10-12月期決算が好感された高配当利回り銘柄に注目

 2023年10-12月期の決算発表も2月14日でほぼ一巡します。10-12月期決算は年度の後半、第3四半期の決算となる企業が多く、ここで業績への評価が高まった銘柄は、2025年3月期の業績に対しても相対的に安心感が高まりやすいでしょう。


 2025年3月期のさらなる増配なども想定できることで、10-12月期決算評価が高まった高配当利回り銘柄に注目したいと考えます。3月末にかけては、高配当利回り銘柄へのNISA資金も流入が見込めることで、今年は例年以上に配当権利取りの動きが活発化しやすい状況ともみられます。


 2月9日現在で配当利回りが4%以上ある銘柄の中で、主に長期資金のNISA投資の対象となりやすい大型株、さらに、10-12月期の決算発表を受けて、直後に株価が上昇という形で反応した銘柄をピックアップしています。


(表)足元好業績で高配当利回りの大型株


コード 銘柄名 配当利回り
(%) 2月9日終値
(円) 時価総額
(億円) 成長率
(%) 5938 LIXIL 4.60 1,956.0 5,615 7.0 5401 日本製鉄 4.50 3,557.0 33,802 4.8 4042 東ソー 4.17 1,918.0 6,235 5.9 8130 サンゲツ 4.12 3,400.0 2,012 6.5 1820 西松建設 4.01 4,314.0 2,398 9.9 注:上昇率は決算発表(業績修正)後の最大上昇率

銘柄選定の要件


  • 配当利回りが4.0%以上(2月9日現在)
  • 時価総額が2,000億円以上
  • 直近の決算発表を受けて株価が上昇
  • 厳選・高配当銘柄(5銘柄)

    1 LIXIL(5938・東証プライム)

     2011年にトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が統合して誕生した国内最大手の住宅設備機器メーカーです。トイレ、洗面化粧台、浴室、キッチンなどのウォーターテクノロジー事業(LWT)、窓や玄関ドア、エクステリア製品、インテリア建材などのハウジングテクノロジー事業(LHT)を展開します。


     世界150カ国以上で事業展開、ショールーム数は16市場116拠点(2023年3月末現在)にのぼります。GROHE、American Standardといった世界的ブランドも傘下に収めています。


     2024年3月期第3四半期(4-12月期)の事業利益は266億円で前年同期比26.7%増となっています。LHTが価格改定の浸透に加えて、断熱リフォーム商材の伸長によって大幅増益となり、LWTの減益をカバーする形になっています。2024年3月期通期では400億円で前期比55.4%増の予想と、期初計画を据え置いています。年間配当金は前期比横ばいの90円を計画しています。


     LWTの欧米販売が低迷しているため、2024年3月期の会社側業績計画は下振れるとの見方がコンセンサスになっています。


     ただ、10-12月期の決算は、リフォーム実施者に政府から補助金が付与される「窓リノベ事業」でサッシ事業が好調推移となったことから、市場予想は上回る着地になりました。市場の過度に悲観的な見通しは今後改善に向かう可能性が高いでしょう。


     また、売却済み子会社に関連する損失を10-12月期に特別損失に計上していますが、これは悪材料出尽くしとも捉えられそうです。


    2 日本製鉄(5401・東証プライム)

     2012年に住友金属と合併して誕生した鉄鋼大手企業です。粗鋼生産は国内で4割強のシェアを占めるほか、世界でも第4位の位置づけとなっています。自動車用鋼板、高級シームレス鋼管、電磁鋼板など高級鋼板に強みを持っています。国内に6製鉄所を構えるほか、海外でも15カ国、51社(2023年5月現在)の製造拠点があります。


     エネルギーロスを低減させる電磁鋼板や自動車の軽量化につながる超ハイテン鋼板など、カーボンニュートラル貢献製品に注力しています。需要分野別では自動車、土木・建築で焼く7割を占めます。


     2024年3月期第3四半期(4-12月期)の事業利益は6,923億円で前年同期比9.1%減となっています。世界粗鋼生産の低水準の推移が続く中、海外市況分野のスプレッド低迷など厳しい事業環境となっています。


     ただ、2024年3月期通期事業利益は従来予想の7,400億円から8,000億円、前期比12.7%減に上方修正しています。本体の国内製鉄事業の利益上振れが主因となるようです。年間配当金も150円から160円に増配を発表しています(前期比20円減)。


     厳しい事業環境下での増額修正・増配にはポジティブなインパクトが強いと感じられます。2025年3月期には、中国景気の底打ちが期待されるほか、カナダ原料炭鉱山のElk Valley Resourcesの持分損益がプラスに寄与し始めることで、高い配当水準の継続が見込めるでしょう。


     また、足元で米USスチールの買収を発表しています。買収金額の負担は大きく、目先的には一段の株主還元拡充期待は高めにくいですが、業容拡大に向けた積極施策として中長期観点からは大いに評価できると考えます。


    3 東ソー(4042・東証プライム)

     塩ビ・苛性ソーダなどで国内トップシェアを誇ります。ポリエチレンやCRゴムなどといった石油化学事業も展開しています。さらに、免疫診断装置や試薬、ハイシリカゼオライト、歯科材料などの機能製品を強化しています。世界19カ国、約50拠点で展開(2023年3月末)し、海外売上が約過半数を占めています。


     ファインセラミックス用ジルコニア粉末、合成ゴムのCSMなどは世界でトップシェア、電解二酸化マンガンなどは国内唯一の生産者となっています。 オルガノ(6368) を上場子会社に持ちます。


     2024年3月期第3四半期(4-12月期)営業利益は595億円で前年同期比1.1%増となっています。収益源となる機能商品事業は減益となりましたが、価格是正による苛性ソーダの国内価格上昇、ナフサや石炭などの原材料価格の低下効果が下支えとなった形です。


     2024年3月期通期予想は860億円で前期比15.3%を据え置いています。オルガノが上方修正していることは上振れ要因になるでしょう。年間配当金は前期比横ばいの80円を計画しています。


     10-12月期の営業利益は前年同期比97.8%増の274億円と大幅増益になり、市場予想も20億円程度上振れる着地になっています。コンセンサスでは通期業績計画の未達を織り込んでいますが、達成が視野に入る水準にもなってきました。


     また、2025年3月期にかけては、金利低下による米国住宅向けに塩ビの需要回復が期待できることで、同分野での採算改善が想定されることになります。なお、PBRが0.7倍台にとどまっていることから、株主還元策の拡充期待などは、2024年3月期の決算発表に向けて高まる余地がありそうです。 


    4 サンゲツ(8130・東証プライム)

     住宅、オフィス、商業施設などの壁装材、床材、カーテンなどのファブリックを取り扱うインテリア内装材のトップシェア企業です。壁紙では国内シェア約5割。住宅の門扉や家庭用フェンス、カーポートをはじめ、学校などの公共施設や商業施設にも展開するエクステリア事業、北米、東南アジア、中国・香港などへの海外事業も行っています。


     国内向け製品は約1万2,000点にのぼります。創業約170年、上場以来40年以上連続での黒字経営となっています。


     2024年3月期第3四半期(4-12月期)営業利益は149億円で前年同期比2.4%増となっています。壁装材・床材などの主要商品は着実なシェアアップが図れ、売上高は2ケタ増を達成しています。


     ただ、一部原材料の値上げによる仕入価格上昇および物流コスト増、廃番商品評価減発生などで利益率は低下しました。2024年3月期通期予想は従来の185億円から200億円、前期比1.4%減に上方修正。販売数量の想定以上に堅調な推移が背景となるようです。年間配当金も従来計画の135円から140円に引き上げ、前期比35円の増配となります。


     住宅着工戸数が低迷する環境下において、着実に国内インテリア事業の売上が拡大していることはポジティブに評価できるでしょう。また、チェーンの飲食やホテルなどこれまで弱みであった非住宅分野において、専門部署設置などの対策が奏功しているようです。配当金を中心とした株主還元策も高評価。2024年3月期は10期連続での増配予定となっています。


     とりわけ、2022年3月期以降は増配のペースが速まっており、中期計画の3期間中は130円を下限配当と位置付けています。


    5 西松建設(1820・東証プライム)

     準大手ゼネコンの一角で、ダムやトンネルなどの土木工事に強みがあります。施工ダム数は2020年3月現在で193カ所となるようです。アセットバリューアッド事業(旧:開発不動産事業)、再生可能エネルギー事業やまちづくり事業を足掛かりとした地域環境ソリューション事業なども展開しています。


     海外はタイ、ラオス、ベトナムなどに進出しています。 伊藤忠商事(8001) と資本業務提携関係にあります。2024年3月期から2026年3月期までの3期間は配当性向70%の株主還元を実施する予定としています。


     2024年3月期第3四半期(4-12月期)営業利益は148億円で前年同期比24.5%増となっています。国内建築事業において、一部の大型工事で収支が改善したことにより、利益率が上昇しているもようです。新規顧客の大型工事や官庁工事の伸長で、受注も計画を上回る好調推移となっています。


     2024年3月期通期営業利益予想は従来の150億円から165億円、前期比30.8%増に上方修正しました。不動産事業などの売上高も上振れる見込みのようです。年間配当金は前期比48円減の173円計画を現状据え置いています。


     現在は配当性向70%を目標としているため、上方修正後の予想配当金は202円程度と試算されます。会社側では、配当額については業績動向を踏まえ、適切な時期に開示するとしており、2024年3月期の決算発表に向けては、増配への期待が高まっていくことになるでしょう。


     ちなみに、第3四半期までの進捗(しんちょく)率も高いことから、一段の利益・配当額上振れなども想定されます。また、自己株式の取り扱いについても年度内に何らかのコメントの開示を検討としており、資産効率の改善につながる施策を期待したいところです。


    (佐藤 勝己)