先週は米中貿易交渉の開始や米英貿易交渉の妥結など、トランプ関税に対する楽観論が台頭したことで日本株は上昇。FOMCで追加利下げが見送られた米国株は小幅安でした。
トランプ関税引き下げで株価上昇。トランプ大統領が妥協や譲歩を繰り返せば株高継続!?
先週の株式市場はトランプ関税に対する楽観論が台頭し、連休明け5月7日(水)から取引が始まった日経平均株価(225種)は前週末比672円(1.8%)高の3万7,503円まで続伸しました。
銀行株など内需大型株の組み入れ比率が高い東証株価指数(TOPIX)は4月22日(火)から5月7日(水)まで11営業日連続で上昇して、前週末比1.7%高。
トランプ関税の影響を受けにくい内需系の大型株に対して、じわじわと買い戻しが入る展開が続いています。
機関投資家が運用指針にする米国S&P500種指数は前週末比0.47%のマイナスでした。
トランプ関税に関しては、先々週、トランプ大統領が外国映画に対する100%関税や医薬品に対して新たな関税を課すことを表明したものの、5月10日(土)からスイスのジュネーブでトランプ関税発動以降、米中の貿易協議が初めて開催されることが発表されました。
また、8日(木)には米国と英国が貿易交渉を行い、英国から米国に輸入される自動車に対する関税を、一定台数を上限に当初の27.5%から相互関税の基本税率である10%まで引き下げることで合意。
英国の鉄鋼・アルミニウムに課されている25%の品目別関税がゼロになるなど、トランプ関税引き下げに対する期待感が台頭しました。
ただし、米国から見ると英国は貿易黒字国で、かつての歴史的なつながりからすると特別な存在です。
2024年の貿易赤字額が685億ドル(約9.9兆円)と世界で7番目に多い日本に対して、トランプ政権が同じような関税引き下げを認めるかどうかは不透明です。
7日(水)、トランプ政権がバイデン前政権時代に策定された人工知能(AI)半導体の輸出規制案を撤廃・変更予定と報じられたことで、株価が低迷していた半導体株も反発しました。
9日(金)には、10日(土)からの米中貿易交渉開始を前に、トランプ大統領が「中国に対する関税は(145%ではなく)80%が妥当」とSNSに投稿。
11日(日)に終了した米中貿易交渉に関しては、交渉担当の米国ベッセント財務長官は「著しい進展があった」と発言していますが、詳細は12日(月)に発表予定です。
ただ、トランプ大統領が強硬な関税政策で妥協や譲歩の動きを見せ始めていることは、今週の株式市場にとっても朗報といえるかもしれません。
今週は13日(火)にトランプ関税発動の悪影響が出そうな米国の4月消費者物価指数(CPI)、15日(木)に4月卸売物価指数(PPI)など、米国の物価・景気指標の発表が相次ぎます。
トランプ関税の影響で景気指標が大きく悪化したり、物価の伸びが予想以上だったりすると、相場の関心がトランプ関税への楽観論から米国経済に対する悲観論に180度転換する恐れもあるので注意が必要です。
一方、日本では2025年3月期の決算発表がピークを迎えるため、引き続き、今期2026年3月期の強気な業績見通しや増配、自社株買いなど手厚い株主還元計画を打ち出した企業の株価が急騰する展開に期待できそうです。
先週、米中の貿易交渉進展に対する期待感から1ドル145円30銭台まで円安が進んでいることも日本株にとって追い風です。
日経平均は12日(月)、3営業日続伸の3万7,697円でスタート。終値は3万7,644円と3月27日以来の高値となりました。
先週:利下げ見送りのFOMCを無事通過。日本株は大幅増配を打ち出した内需株が強い!
先週は米中、米英の貿易交渉の進展が相場の上昇要因になりました。
7日(水)には米国の政策金利を決める連邦公開市場委員会(FOMC)が3会合連続で追加利下げの見送りを決定。
米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長はトランプ関税の影響でインフレ(物価上昇)率や失業率が上昇するのは確実だと発言したものの、経済は底堅いペースで成長しており、利下げを急ぐ必要はないという従来のスタンスを崩しませんでした。
これを受けてトランプ大統領は「遅すぎるパウエル議長は何も分かっていない愚か者」とSNSで罵倒しましたが、「それ以外はとても好きだ」と書き込むなど、米国の株価暴落につながりかねないパウエルFRB議長解任の動きは封印しました。
米国株はAI半導体の輸出規制の撤廃・変更が報じられたものの、AI関連の主力株 エヌビディア(NVDA) が前週末比1.88%の上昇にとどまるなど、巨大IT企業の株価は強弱まちまちでした。
米中貿易交渉の進展に当面は大きな期待が持てないこと、米国と欧州連合(EU)の関税交渉が決裂した場合、EU側が米国巨大IT企業のデジタル広告収入への課税を検討していることも、米国ハイテク株の上値を抑える要因になっているようです。
一方、日本市場では、社会インフラ系情報通信システムを手がける 沖電気工業(6703) が今期2026年3月期の営業増益見通しと前期配当の15円増額、今期5円増配予定を発表して前週末比30.1%も上昇しました。
防衛関連株の IHI(7013) も今期の営業増益予想と前期比20円増配計画を発表して11.3%高。
トランプ関税で今期2026年3月期の業績見通しが不透明な中、今期の増益予想や大幅増配予定を発表した企業の株が買われる展開が続きました。
また、トランプ関税による物価高懸念もあって、米国の長期金利が小幅上昇する中、日本の長期金利の指標となる10年国債の金利も1.2%台後半から1.35%台まで上昇。
金利上昇が収益拡大につながる銀行株に見直し買いが入り、 りそなホールディングス(8308) が9.4%高となるなど、銀行セクターが週間の業種別上昇率ランキング2位に入りました。
NTT(日本電信電話:9432) が完全子会社化に向けて株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表した NTTデータグループ(9613) が34.7%高。
シンガポールの投資会社による株式大量保有が判明した 三井倉庫ホールディングス(9302) が19.8%高となるなど、親会社によるTOBや物言う株主による株式大量保有が判明した企業の株価が急騰する流れも続いています。
一方、近くトランプ大統領が外国からの医薬品に対する追加関税を発表する予定のため、医薬品セクターが週間の業種別下落率ワースト1位になりました。
エーザイ(4523) が5.2%安、 大塚ホールディングス(4578) が8.1%安と売られました。
また、8日(木)に決算発表した トヨタ自動車(7203) は2.2%安。
今期2026年3月期の営業利益の見通しは、市場予想を1兆円近く下回る前期比20%減の3.8兆円まで下ブレしましたが、英国同様に日本から輸出される自動車に対するトランプ関税引き下げに対する期待感もあり、小幅安で切り抜けました。
今週:日本株は業績相場が継続!トランプ大統領の「地球を揺るがす重大発表」にも注目!
今週、日本では2025年3月期決算の発表がピークを迎えます。
13日(火)にはトランプ関税の直撃を受ける ホンダ(本田技研工業:7267) や業績不振にあえぐ 日産自動車(7201) 、AI関連株で日経平均株価に対する影響度の高い ソフトバンクグループ(9984) 。
14日(水)には長期金利上昇で見直し買いが進む銀行株の 三井住友フィナンシャルグループ(8316) 。
15日(木)には銀行最大手の 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) や生保大手の 第一生命ホールディングス(8750) が決算を発表します。
主に国内の景気好転で好業績や積極的な株主還元策に期待できるメガバンク、地方銀行、建設、不動産、サービス関連企業の決算が集中するため、今期の増益・増配予想を発表した企業の株が素直に買われる業績相場の継続に期待が持てそうです。
一方、米国ではトランプ関税の悪影響が心配な物価・景気指標が相次いで発表されます。
13日(火)には4月CPI。
15日(木)には4月PPIの他に4月小売売上高、5月のニューヨーク連銀製造業景気指数。
16日(金)には4月の住宅着工件数やトランプ関税の影響が分かる4月の輸入物価指数、5月のミシガン大学消費者態度指数の速報値が発表されます。
また、15日(木)にパウエルFRB議長が民間会議でスピーチを行うなど、FRB高官の発言も相次ぐため、トランプ関税と米国経済の見通しについて目立った発言が出ると、株式市場に影響を及ぼしそうです。
11日(日)にはロシアのプーチン大統領が15日(木)にウクライナ側と直接会談する用意があると一方的に提案。
また、米国トランプ大統領が先週、関税以外のことで「地球を揺るがすような、信じられないほど前向きな重大発表」を行うと匂わせており、一体、どんな発表が行われるかにも期待が集まります。
米国内における新たな減税や景気対策に関するものなら、株式市場も大歓迎でしょう。
いずれにせよ、今週はトランプ関税の影響で米国の景気・物価指標が極端に悪化しない限り、米国株も日本株も手探りで戻りを試す展開が続きそうです。
(トウシル編集チーム)