先週の日経平均は、エヌビディア決算など注目イベントがあったものの、小幅な値動きで、堅調さと今後に対する迷いが見られました。今週は日米の経済指標や企業決算に加え、国内の政局や米国の政治リスクが相場を揺さぶる可能性があり、株価が一定水準を保つ「時間調整」となるか、下落を伴う「値幅調整」へ移行するかの重要な局面を迎えます。


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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場 株価が上げても下げても持っておきたい「調整」への意識<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」


終わってみれば小動きだった先週の日本株

 先週末8月29日(金)の日経平均株価は4万2,718円で取引を終え、前週末終値(4万2,633円)比では85円の小幅高となりました。


 ジャクソンホール会議でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演や、米半導体大手企業の エヌビディア(NVDA) 決算など、先週は市場で注目されていたイベントの反応を探っていく週だったのですが、終わってみれば小動きにとどまった格好です。


<図1>日経平均(5分足)の動き(2025年8月25~29日)
【日本株】政治が相場を動かすか?総裁選前倒し・FRB介入に要警戒
出所:MARKETSPEEDII

 実際に、先週一週間の日経平均の値動きを5分足チャートで振り返ってみると、4万3,000円台に乗せていたのは、週初25日(月)の取引開始からのわずかな時間にとどまりました。以降は、前週末終値を意識しながらの展開だった様子がうかがえます。


 パウエル米FRB議長の講演は利下げ観測を高める内容だったものの、米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される9月16~17日までにはまだ日数があり、それまでに雇用統計や消費者物価指数なども発表されるので、見極めモードが続きやすかったのでしょう。


 また、エヌビディア決算についても、業績や見通しが市場予想を上回る良好な内容でしたが、中国向け事業の不透明感といった懸念材料も浮上しました。そのため、材料出尽くしの売りと、今後の回復を期待する買いが交錯することになり、注目イベントを通過した株式市場の反応は売りにも買いにも傾ききれなかった印象です。


時間調整か値幅調整か?

<図2>日経平均(日足)とMACDの動き(2025年8月29日時点)
【日本株】政治が相場を動かすか?総裁選前倒し・FRB介入に要警戒
出所:MARKETSPEEDII

 その一方、日足チャートから見た日経平均は、前回のレポートでも指摘した通り、株価と25日移動平均線の乖離と修正を繰り返す上昇基調のリズムを刻んでいます。


▼前回のレポート

【日本株】ジャクソンホールは一安心も割高感残る、株価調整後が狙い目か


 先週の値動きも、25日移動平均線との乖離が修正されつつあるようにも見えます。しかし、先ほども見てきたように、売りにも買いにも傾ききれなかったことを踏まえると、先週の値動きは「堅調さ」と同時に、今後の相場の方向感が定まらない「迷い」も含まれているのかもしれません。


 今週の国内では、1日(月)に法人企業統計調査(4-6月期)が公表されますし、米国では8月分の米サプライマネジメント協会(ISM)景気予測調査(製造業・非製造業)がそれぞれ2日(火)と4日(木)に公表されるほか、週末の5日(金)には同じく8月分の雇用統計も控えています。


 このほか、米国では ブロードコム(AVGO) や セールスフォース(CRM) 、 ゼットスケーラー(ZS) 、 ダラー・ツリー(DLTR) などの決算も注目されそうです。


 そのため、今週はこうした日米の経済指標や米企業決算の動向から、景況感や米金融政策への思惑を探る展開がメインシナリオになりそうです。


 また、テクニカル分析の視点では、引き続き25日移動平均線がサポートとして機能できるかが焦点となります。もしこの通りの展開になれば、一定の株価水準を維持しながらの「時間調整」の格好となります。ちなみに、先週末29日(金)時点の25日移動平均線の値は4万2,034円です。


 ただし、気を付けておきたいのは、来週末12日(金)に特別清算指数(メジャーSQ)が控えていて、需給的な思惑も絡みやすくなってきていることです。相場が荒れ模様となった場合、「値幅調整」の展開になってしまうことも想定しておいた方が良さそうです。


政治的な材料が相場を揺さぶる展開に注意

 また、需給要因以外にも、今週は経済指標や企業決算だけでなく、政治的な動きも注目されているため、値幅調整のきっかけになるかもしれないことを意識する必要があります。


 まずは、9月2日(火)に自民党の両院議員総会が開催されます。先日の参議院選挙について総括されるほか、総裁選挙の前倒しが実施されるのかどうかがポイントになっています。


 前倒しで総裁選が実施される場合、「誰が立候補するのか?」「次の総裁は財政拡張路線か、それとも財政健全化路線なのか?」など、現時点では今後の動向が読めないことが多く、相場の動きは後手に回りやすくなります。


 米国でも、トランプ政権をめぐる動きによって相場のムードが揺さぶられるリスクがくすぶっています。


 先週、トランプ米大統領がSNSで表明したクックFRB理事の解任騒動が、法廷での争いに発展しています。


 この事態は、中央銀行の独立性が脅かされることに対する市場の拒否反応が出る可能性があることをはじめ、トランプ関税の合憲性が争われていた訴訟で、先週29日(金)にワシントンの連邦巡回区控訴裁判所が「相互関税などは憲法違反」という判断を下し、一審の内容を支持するものとなりました。


 トランプ米政権側は連邦最高裁に上訴する構えを見せており、今後の行方が注目されます。


 政治的な材料は、「出てくるまで反応できない」「いつ出てくるか分からない」という特徴があり、相場のムードや流れを一変させてしまうため、警戒しておく必要があります。


それでも、日経平均の目安は変わらず

 そのため、当面の日経平均の予想レンジは広めに想定しておく必要があります。


<図3>日経平均(週足)の線形回帰トレンドとMACD(2025年8月29日時点)
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出所:MARKETSPEEDII

 上の図3は、日経平均の週足チャートに2023年1月6日週を起点とした線形回帰トレンドを描いたものですが、基本的な見方は前回と変わっていません。


 今週の日経平均がこのまま上方向を目指していくのであれば、先週末29日(金)時点の値でプラス1σ(シグマ)の4万4,178円、想定以上の強気になった場合には、プラス2σの4万6,522円あたりが上値の目安になります。


 反対に、株価が下落していった場合でも、中心線より上を維持している限り、相場の強気ムードが続くことになります。ちなみに、現時点の中心線は4万1,834円です。


 先ほどの日足チャートでは25日移動平均線(29日時点で4万2,034円)のキープをポイントとして指摘しましたが、目先の日経平均が4万2,000円台を下回ったとしても、中心線を下回らなければ、過度に弱気にならなくても良いということになります。


 もし、今後の株価が中心線を下抜けてしまった場合には、マイナス1σの3万9,490円が意識されることになり、株価の攻防戦の水準が4万2,000円台から4万円台へと一段階引き下げられることになります。


「2,000円も引き下がるのか」と思われるかもしれませんが、図2を見ても分かるように、足元の日経平均の上昇は、3万8,000円あたりの水準で25日移動平均線がサポートとなって、株価は4万円まで上昇しました。


 さらに、4万円台付近でサポートとなって4万2,000円台まで株価が上昇といった具合に、2,000円刻みで株価水準を切り上げていましたので、十分な想定の範囲内です。


 逆を言えば、足元で4万2,000円辺りに位置している25日移動平均線をサポートにできれば、4万4,000円台までの上昇も十分にあり得るということになります。


<図4>日経平均(週足)のギャン・アングル(2025年8月29日時点)
【日本株】政治が相場を動かすか?総裁選前倒し・FRB介入に要警戒
出所:MARKETSPEEDII

 上の図4も同じく日経平均の週足チャートです。


 株価とともに13週移動平均線も上振れていることが読み取れますが、以前のレポートでも紹介した移動平均線の「パーフェクト・オーダー(上から13週、26週、52週という順番で移動平均線が並ぶ状態)」はまだ実現していません。


 このまま株価が上昇し続けてパーフェクト・オーダーを実現したとしても、13週移動平均線と残りの2本の移動平均線との乖離が大きく、その時点で相場にかなりの過熱感が生じるでしょう。そのため、いったん、移動平均線どうしの距離感を縮める動きが出てくる、つまり、調整期間がやってくると思われます。


 図3のプラス2σまで日経平均が上昇していくのは、余程の買い材料が出てこない限り、足元の勢いだけで達成するのは難しいほか、勢いについていけなくなる投資家も増えてしまうため、上昇の持続性に疑問符も付きやすくなります。


 したがって、いったん株価調整のプロセスを経てから、上値を再度トライしていくのがベストシナリオとなるため、目先はプラス1σあたり(4万4,000円から4万5,000円)が上値の目安になりそうです。


(土信田 雅之)

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