東京エレクトロンの2026年3月期1Qは、1.0%減収、12.7%営業減益。今1Qは会社側想定通りだったが、一部ロジック顧客の設備投資計画の修正やHBMの歩留まり向上等で、前工程装置市場は停滞へ。

会社側の2026年3月期業績予想は下方修正された。楽天証券の目標株価を引き下げる。


決算レポート:東京エレクトロン(会社側の2026年3月期業績...の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 決算レポート:東京エレクトロン(会社側の2026年3月期業績予想は下方修正された。TSMCに関する情報漏洩事件が捜査中) 」


毎週月曜日午後掲載


本レポートに掲載した銘柄: 東京エレクトロン(8035、東証プライム)


1.東京エレクトロンの2026年3月期1Qは、1.0%減収、12.7%営業減益。

 東京エレクトロンの2026年3月期1Q(2025年4-6月期、以下今1Q)は、売上高5,495.86億円(前年比1.0%減)、営業利益1,446.94億円(同12.7%減)となりました。前4Qと比較しても減収減益となりましたが、これはほぼ会社想定通りです。


 半導体製造装置(新規装置)のアプリケーション別売上高を見ると、DRAM向けは前4Q1,864億円→今1Q1,027億円と大幅に減少しました(売上高は会社開示の売上構成比から楽天証券計算)。前期に中国DRAM、HBM向けに大型投資があったため、反動で減少しました。不揮発性メモリ(フラッシュメモリなど)も、同605億円→395億円へ減少しましたが、これもNANDの設備投資が一服しました。

ロジック・ファウンドリ・その他向けは同2,570億円→2,528億円と同水準を維持しました。


 地域別に見ると、中国向けは前4Q2,246億円→今1Q2,121億円で緩やかに減少しました。台湾向けは同1,358億円→1,115億円へ、韓国向けは同1,470億円→883億円へ、北米向けは同462億円→434億円へ減少しました。一方で、日本向けは同534億円→643億円と増加しました。


表1 東京エレクトロンの業績


決算レポート:東京エレクトロン(会社側の2026年3月期業績予想は下方修正された。TSMCに関する情報漏洩事件が捜査中)
株価 21,505円(2025/8/15)発行済み株数 458,156千株時価総額 9,852,645百万円(2025/8/15)単位:百万円、円出所:会社資料より楽天証券作成注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表2 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)


決算レポート:東京エレクトロン(会社側の2026年3月期業績予想は下方修正された。TSMCに関する情報漏洩事件が捜査中)
単位:%、億円出所:会社資料より楽天証券作成。注1:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算。注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。

表3 東京エレクトロン:半導体製造装置の地域別売上高


決算レポート:東京エレクトロン(会社側の2026年3月期業績予想は下方修正された。TSMCに関する情報漏洩事件が捜査中)
単位:億円出所:会社資料より楽天証券作成。注1:端数処理の関係で合計が合わない場合がある。注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。注3:2023年4-6月期よりFPD売上高を含む。

2.会社側は2026年3月期業績予想を下方修正した。

 会社側は今1Q決算発表時に2026年3月期通期業績予想を下方修正しました。新しい業績予想は、売上高2兆3,500億円(前年比3.4%減)、営業利益5,700億円(同18.3%減)となります。前回予想は売上高2兆6,000億円(同6.9%増)、営業利益7,270億円(同4.3%増)とほぼ横ばいの予想でしたが、修正後は減収減益予想です。


 この修正予想では、今下期予想、特に今4Q予想を下方修正しています。この理由は、一部先端ロジック顧客の設備投資の見直し(おそらくインテルの影響と思われる)、中国新興半導体メーカーによる成熟半導体への投資の縮小、NANDの投資計画の変更、HBM需要は旺盛だが、生産技術向上と歩留まり向上により投資計画が見直されたこと、DRAMのDDR4からDDR5への全量切り替え投資タイミングの遅延です。特に重要なのが、一部先端ロジック顧客の設備投資計画見直しとHBMの生産技術向上と歩留まり向上による設備投資計画の見直しです。会社側では2026年暦年前半までウェハプロセス装置市場(WFE、前工程装置市場)の停滞が続くと予想しています。

会社側によれば、WFE市場の市場規模は、2023年暦年約950億ドル、2024暦年約1,100億ドル、2025年暦年予想1,150億ドル(従来予想の1,100億ドルから若干上方修正)ですが、2026年1-3月期に厳しい状況になり2026年3月期通期ではマイナス5%になると予想しています。2026年前半もWFE市場はマイナス成長になりますが、2026年後半からはAI半導体、AIサーバーを軸に再成長に向かうというのが会社側の見方です。


 楽天証券では、この会社側の下方修正を受けて、2026年3月期、2027年3月期業績予想を下方修正します。2026年3月期は、前回予想の売上高2兆6,500億円、営業利益7,450億円から、会社予想と同じ売上高2兆3,500億円、営業利益5,700億円へ、2027年3月期は前回予想の売上高3兆円、営業利益8,600億円から、売上高2兆6,500億円、営業利益6,900億円へ下方修正します。


 2027年3月期は増収増益に転換すると予想されますが、2026年暦年の後半から回復する場合は、回復の程度は従来の予想よりも緩やかなものになると予想されます。


表4 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)(半期ベース会社予想)


決算レポート:東京エレクトロン(会社側の2026年3月期業績予想は下方修正された。TSMCに関する情報漏洩事件が捜査中)
単位:%、億円出所:会社資料より楽天証券作成。注1:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算。注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。注3:端数処理のため合計が合わない場合がある。

表5 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)(年度ベース)


決算レポート:東京エレクトロン(会社側の2026年3月期業績予想は下方修正された。TSMCに関する情報漏洩事件が捜査中)
単位:%、億円出所:会社資料より楽天証券作成。注1:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算。注2:2021年4-6月期からは新収益認識基準。注3:端数処理のため合計が合わない場合がある。

表6 東京エレクトロンの中国向け売上高


決算レポート:東京エレクトロン(会社側の2026年3月期業績予想は下方修正された。TSMCに関する情報漏洩事件が捜査中)
単位:億円出所:会社資料より楽天証券作成。予想は楽天証券。

3.今後6~12カ月間の目標株価を、前回の3万3,000円から2万6,000円に引き下げる。

 東京エレクトロンの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の3万3,000円から2万6,000円に引き下げます。


 楽天証券の2027年3月期予想1株当たり利益(EPS)1,169.9円に、長期的な成長性を考慮して想定株価収益率(PER)20~25倍を当てはめました。中長期で投資妙味を感じますが、ウェハプロセス装置市場の停滞が長引きそうなので、株価の上昇には時間がかかる可能性があります。


 リスクはTSMCからの情報漏洩問題です。8月5日、台湾の検察当局はTSMCの企業秘密を盗んだ疑いで6人を逮捕しましたが、このうち1人がTSMCの元社員で、TSMC退職後、東京エレクトロンの現地子会社に就職していました。捜査の結果を待ちたいと思います。


本レポートに掲載した銘柄: 東京エレクトロン(8035、東証プライム)


(今中 能夫)

編集部おすすめ