金(ゴールド)相場の上昇が止まりません。国内・海外ともに金(ゴールド)相場は新たな大台に到達しました。
金(ゴールド)高騰、その背景を深掘り
9月の第1週目に、国内外の金(ゴールド)相場が、歴史的高値を更新しました。ニューヨークの金先物は1トロイオンス当たり3,600ドル、大阪の金先物は1グラム当たり1万7,000円という大台に到達しました。
図:NY金先物(期近)と大阪の金先物(中心限月)の推移(2025年1月6日を100)

上のグラフのとおり、2025年の年初からの動きを振り返ってみると、年初から4月中旬まで上昇、4月下旬から8月中旬まで横ばい、8月下旬から9月にかけて大きく上昇したことが分かります。
年初から4月中旬までは、トランプ米大統領の誕生、トランプ関税の導入、中東情勢の混迷などによって不安感が大きくなり、こうした不安感によって広がった有事(伝統的)ムードが上昇圧力をかけました。
4月下旬から8月中旬までは、3,500ドル台の大台(当時)に到達したことによる高値への警戒感、米国の利下げ観測の一時後退などを受け、上値が重い状態が続きました。
しかし、8月下旬から9月にかけて、雇用や物価関連の経済指標の一部が弱かったことを受け、米国の利下げ観測が強まったり、トランプ米大統領が人事に介入する姿勢を示し、米連邦準備制度理事会(FRB)に対する不信感が大きくなったりしたことがきっかけで、強い上昇圧力がかかりました。
図:FRBの利下げ(思惑含む)時のドル建て・円建て金(ゴールド)相場への影響

米国の利下げ観測が強まったことで、ドル安観測が大きくなりました。このことにより、金利を生まない金(ゴールド)のデメリット低下、米ドルに対する金(ゴールド)の価値向上観測など、ドルの代わりを意味する代替通貨をきっかけとした大きい上昇圧力が金相場にかかりました。
同時に、中東やウクライナ情勢をめぐり懸念が生じ、有事(伝統的)ムードが強まりました。トランプ米大統領の人事介入によってFRBへの不信感が強まり、そのFRBが発行する米ドルの信用低下という連想も、大きくなりました。
利下げは、かつて日本がそうであったように、個人や企業が資金調達をしやすくなるという点で、景気回復要因だと言えます。金利が下がると景気が悪くなっているという印象が生じるケースもありますが、この場合は「下がる」ではなく、「下げる」という人為的な操作によるものです。
利下げによって景気回復が進むという思惑から、米国を中心に株価指数が大きく上昇する場面が見られました。この点は株の代わりを意味する代替資産をきっかけとした下落圧力となりました。こうした上昇圧力と下落圧力が相殺され、金(ゴールド)相場が短期的な急反発を演じたと言えます。
円建ての金相場については、ドル建てという世界標準の金(ゴールド)相場の上昇によってもたらされた上昇圧力を受けました。同時にドル安観測による円高観測が、下落圧力をかけました。これらが相殺され、円建て金(ゴールド)相場は上昇しました。
2010年以降の値動き、七つのテーマで分析
金(ゴールド)市場の環境を、鳥の目になって俯瞰(ふかん)的に確認します。以下のグラフは、このおよそ半世紀の金(ゴールド)相場の値動きを示しています。1970年代後半の「有事の金」「インフレ時は金(ゴールド)」という言葉が生まれた局面、さらには1990年代前後の「株と逆相関」という言葉が生まれた局面を、確認することができます。
しかし2000年ごろから徐々に、金(ゴールド)相場を取り巻く環境が、変化し始めました。特に2010年ごろから、長期視点の大きな上昇トレンドが始まりました。このころから、短期的なテーマ、中長期的なテーマ、超長期的なテーマという、時間軸が異なる三つのテーマが同時進行する中で、金(ゴールド)相場が動いてきたことが分かります。
図:海外金(ゴールド)現物価格の推移(1975年1月7日~2025年9月5日) ドル/トロイオンス

以下の図は、三つの時間軸に分けた、七つのテーマを示しています。
こうした短期的な値動きについては、以前のレポート『金(ゴールド)市場の新常識:交錯する「天動説」と「地動説」』で述べた、2000年以前に誕生した金(ゴールド)市場における過去の常識、今で言う「天動説」で説明することができます。
「天動説」は、短中期の値動きを説明する際に役立ちます。このため、短中期的な値動きの説明や短中期的な見通しを立てる際に用います。
▼以前のレポート
金(ゴールド)市場の新常識:交錯する「天動説」と「地動説」
一方、現代の金(ゴールド)市場を分析する際に有用な「地動説」に含まれる中長期や超長期のテーマは、長期の値動きを説明する時に役立ちます。長期視点の値動きを説明したり、見通しを立てたりする際は、地動説を用いなくてはなりません。
どちらの説を用いる場合でも、「一つの材料のみで動いていない」「上下の圧力が混在している」「それらの圧力が連続的に相殺されている」という三点に留意する必要があります。
図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ

中央銀行とは?FRBの今後の方針は?
以下は、中央銀行について述べた資料です。下段では、米国の中央銀行に相当するFRBが開催する会合である「米連邦公開市場委員会(FOMC)」の仕組みを説明しています。
中央銀行(Central Bank)の主な役割は、(1)通貨の発行、(2)金融政策の実施、(3)金融システムの安定、(4)外貨準備と為替政策、などです。これらを行うことができる、その国唯一の機関として、自国の経済目標達成(雇用の最大化を含む)や物価の安定を目指しています。
日本の日本銀行、米国のFRB、欧州連合(EU)の欧州中央銀行(ECB)などがそれに当たります。
金(ゴールド)相場に直接的に関わる役割は、大きく二つあります。
政策金利操作は、先ほどの七つのテーマの「代替通貨」に分類できる短中期的な材料、外貨準備高保有は、七つのテーマの「中央銀行」に分類できる中長期的な材料です。
中央銀行が政策金利を操作することで、金(ゴールド)相場に短中期的な上下の圧力がかかったり、外貨準備高に占める金(ゴールド)の保有量を増減させたりすることで、金(ゴールド)相場に中長期的な上下の圧力がかかったりします。
また図の下段では、米国の中央銀行に当たるFRBが実施するFOMCの構成について述べています。FOMCのメンバーは合計12人です。内訳は、FRBのメンバー7人(議長、副議長、5人の理事)、ニューヨーク連邦銀行の総裁(1人)、他の連邦銀行の総裁のうち4人です。
図:中央銀行とFOMC

連邦銀行の総裁の4人については、ニューヨーク連銀以外の11行の総裁が、持ち回り(任期1年)で担当します。FCOMCのメンバーに加わらない7人の総裁は、会合に出席し、意見を述べたりします。その意味では、19人がFOMCの方針決定に関わっていると言えます。
その19人は、フェデラル・ファンド金利(FF金利。米国の政策金利に当たる)の方向性をどのように考えているのでしょうか。
以下のグラフの右側(赤枠)は、2025年、2026年、2027年のFF金利の水準に関する、19人の考えの中央値の推移を示しています(9月5日時点)。
図:FFレートと海外金(ゴールド)現物価格の推移

現時点の19人の考えの方向性は「利下げ継続」であると、言えます。FRBに利下げを要求したり、人事に介入したりしているトランプ米大統領の任期が2028年までであることと、符合しているように見えます。
グラフの赤い太い矢印で示した通り、利下げのタイミングは金(ゴールド)相場にかかる上昇圧力が大きくなる傾向があります。19人の見通しの方向性が変わらなければ、「代替通貨」をきっかけとした短中期視点の上昇圧力は、今後も続く可能性があります。
中銀「ドル離れ・金(ゴールド)寄り」続く
中長期視点の中央銀行の思惑を確認します。世界的な金(ゴールド)の調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は、2018年から「中央銀行調査」を実施しています。
調査項目をWGCが作成し、YouGov(ユーガブ。英国に拠点を置く世界規模の調査機関。米大統領選挙など国を挙げた選挙などの際に世論調査を手掛けることもある)の協力の下で実施しています。
回答結果は、全体、先進国、新興国に分けて示されており、先進国、新興国の分類は国際通貨基金(IMF)の定義に基づいています。
中央銀行が金(ゴールド)の保有量を増減する動機を問う質問では、危機時のパフォーマンス、長期的な価値保全、インフレ・ヘッジ、効果的なポートフォリオの構築、地政学的リスクに対する分散策、デフォルト・リスクなし、歴史的ポジション、などが多く選択されました。
また、中央銀行が全体として「ドル離れ・金(ゴールド)寄り」の姿勢を鮮明にしていることがうかがえます。同調査では毎年、5年後に中央銀行(全体)の各種通貨の保有比率が上昇するか、変わらないか、低下するかを尋ねる質問が行われています(年によって回答した中央銀行の内訳が異なる場合がある)。
以下は米ドルの保有比率(現在43%)について、です。先進国、新興国を合わせた全体の73%が、低下(低下+大きく低下)すると回答しました。
図:5年後、中央銀行(全体)の米ドルの保有比率(現在43%)はどうなると思いますか?(2025年)

低下すると回答した割合の推移を振り返ると、2021年が50%で、2022年が42%でしたが、米国で利下げの議論が始まった2023年が55%に上昇、利下げが始まった2024年が62%、そして2025年が73%となりました。この間は、米国の金融政策が「利下げ」に傾いたことが「米ドル離れ」の大きな要因になったと言えます。
また、その流れに、西側と非西側の分断(非西側諸国が西側の資産を持たないようにする動き)が拍車をかけたと言えます。
一方、以下は金(ゴールド)の保有比率(現在19%)について、です。先進国、新興国を合わせた全体の76%が、上昇(上昇+大きく上昇)すると回答しました。
図:5年後、中央銀行(全体)の金(ゴールド)の保有比率(現在19%)はどうなると思いますか?(2025年)

上昇すると回答した割合の推移を振り返ると、2021年が38%、2022年が46%でしたが、ウクライナ戦争が勃発した翌年の2023年が62%に上昇、2024年が69%、そして中東での懸念が拡大した2025年が76%となりました。
この間は、世界各国でリスクが強まったり、「ドル離れ進行の受け皿」としての金(ゴールド)の立ち位置が向上したりしたことが、「金(ゴールド)寄り」の要因になったと言えます。
今後も長期視点で、中央銀行(2024年の金の全需要のおよそ20%を占める市場参加者)による「ドル離れ・金(ゴールド)寄り」の傾向は続くと、考えられます。
金(ゴールド)相場の上昇が止まらない背景には、短中期的にも、中長期的にも、中央銀行の存在が大きいと言えます。
米国の利下げ方針(短期的な上昇要因)が続けば年内に3,700ドル、世界の民主主義後退・世界分断深化(長期的な上昇要因)が継続すれば、数年以内に4,000ドル(5,000ドルも)に達する可能性があると、筆者は考えています。
[参考] 貴金属関連の具体的な投資商品例
長期:
純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
純金積立・スポット購入
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)
三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)
中期:
関連ETF(NISA対応)
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
短期:
商品先物
国内商品先物
海外商品先物
CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム
(吉田 哲)