米雇用統計を受けて円高だったドル/円は、7日の石破首相退陣表明で週明けに円安進行。しかし、その日のうちに値幅をすぐ埋めたことから円安の動きは織り込まれた可能性があります。

10日のPPI、11日のCPIを控え、利下げ期待がどうなるか注目です。


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石破首相退陣でギャップオープン。ドル/円は利下げ幅とペースが焦点に

 先週5日の米8月雇用統計は予想以上に悪い内容でした。非農業部門雇用者数は+2.2万人と予想の+7.5万人を大きく下回り、さらに過去2カ月分が▲2.1万人の下方修正(6月:+1.4→▲1.3万人。7月:+7.3→+7.9万人)となりました。


 6月の下方修正によって就業者が減少したのはコロナ禍の2020年以来の出来事です。それを除けば2010年9月以来約15年ぶりの減少となります。失業率は4.3%と前月4.2%から上昇し、2021年10月以来の高水準となりました。前月に続き、米雇用市場の悪化が鮮明になった内容でした。


 この米雇用統計を受けて、ドル/円は148円台から146円台へと円高になり、147円台前半で先週を終えました。しかし、週末に石破茂首相が退陣を表明したことから、週明けは148円台でギャップオープンしました。


「ギャップオープン」とは先週の終値と今週の始値にギャップ(価格の断層)が生じることです。

今回の場合は円安の方向に大きくギャップが生じて相場が始まりました。


 石破首相退陣は財政拡張路線につながり、財政赤字拡大懸念から円安に動いたようですが、149円台には乗りませんでした。総裁選は10月4日とのことですが、この材料による円安の動きは織り込んだ可能性があります。しかも海外市場では円安にギャップオープンした値幅を埋め、その日のうちに147円台に戻しました。


 やはり、先週の米雇用統計の結果を受けた米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待の方が材料として勝っているようです。先行きの米政策金利の織り込み度を示す米国シカゴ先物取引所(CME)のフェドウオッチ(FedWatch)によると、米雇用統計発表後では、9月利下げは100%の確率となっており、その内0.50%利下げは11%となっています。


 年内3回利下げ見通しも70%近くとなっており、9月16~17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利下げ幅と利下げペースが焦点となりそうです。


 5日の米雇用統計の前に発表された雇用指標も労働市場の減速を示していました。3日の7月雇用動態調査(JOLTS)求人件数は718.1万件と前月より低下し、予想も下回って10カ月ぶりの低水準となりました。4日の8月ADP雇用統計は5.4万人と前月より大きく低下し、予想も下回りました。


 さらに9日には、米労働統計局から雇用者数の年次ベンチマーク改定(2024年4月から2025年3月)の速報値が▲91.1万人の下方修正と発表されました。予想は80万~100万人の下方修正となっていたため、発表直後はドルが売られましたが、大幅下方修正はある程度織り込まれていたことから、その後は米金利の上昇とともにドルは買い戻されました。


 しかし、▲91.1万人は月平均で7.6万人の減少となり、雇用市場の減速はすでに始まっていたことが確認されたことから利下げの後押しとなる内容でした。


 これらの指標が示すように米雇用市場は予想以上に悪化していることから、FRBが複数回の利下げ局面に入ることが予想されるためドルの上値は重たくなってくることが予想されます。


日銀の利上げ、年内の可能性は?今週のCPI、PPIに注目

 一方、日本では実質賃金の7カ月ぶりのプラス(+0.5%)や日本4-6月期国内総生産(GDP)実質年率の改訂値が+1.0%から+2.2%に上方修正されたことから、日本銀行としては利上げ環境が一歩近づいたことになりますが、政治の枠組みが固まらないと日銀も動きづらいかもしれません。


 しかし、9日には関係筋の話として、石破首相の退陣表明を受けて「国内政治情勢が混乱する中でも、年内利上げの可能性を排除しない」と報道され、円高に動きました。


 9月18~19日の日銀会合では政策金利維持との見方が多いですが、首相が変わる前に、あるいはFRBの利下げペースが早まる前に利上げするのも、利上げのタイミングとしては選択肢の一つかもしれません。FRBの利下げペースが早まり、連続利下げの中では日銀の利上げが後倒しになればなるほどやりづらくなるかもしれません。


 また、日本の景気も4-6月期GDPは消費の底上げで2.2%に上方修正されましたが、7-9月期GDP(11月17日公表予定)は民間エコノミストの改訂値後の予想では▲1.7%のマイナス成長になっています。


 関税の影響で輸出が落ち込み、設備投資も伸びが鈍り、物価上昇や賃上げも弱まり個人消費が慎重になることからマイナス成長とのことですが、9月、10月に利上げを見送ると、GDP公表後の12月の利上げは難しくなるかもしれません。


 このように日銀の利上げは判断に難しい局面になってきている点には留意しておく必要があります。円高は、FRBの利下げに伴うドル安とともに、日銀の利上げの後押しがなければ限定的な動きになるかもしれません。


 8日、NY連邦準備銀行が公表した消費者調査によると、8月の1年先の期待インフレ率の中央値は3.20%で7月の3.09%よりやや上昇していますが、3年先は3.00%と3カ月連続で横ばいとなっています。一方で雇用に対する見通しが急速に悪化しています。


「失業した場合に3カ月以内に再就職できる」と見込む人の割合が大幅に低下しており、2013年の統計開始以来最低の水準になりました。調査結果は、関税によるインフレは一時的で、長期的にはインフレ期待が落ち着いているため、消費者の懸念はインフレ懸念から労働市場の弱さに移りつつあることを示唆する内容でした。


 そして11日には米8月消費者物価指数(CPI)が発表されます。雇用が悪化している中で、物価が抑制的な動きであれば、9月の0.50%利下げ期待は一層高まることが予想されます。CPI予想は前月より上昇予想となっていますがコアCPIは横ばい予想となっています。


 多少の上昇では0.25%の利下げ観測は後退しないと思われますが、コアインフレも上昇となった場合には0.50%の利下げ期待は弱まる可能性があります。また、大きく上昇した場合には、利下げペースが落ちることも予想されます。年内3回利下げも年内2回、場合によっては1回の見方も浮上してくるかもしれません。


 11日のCPIの前日10日には米8月PPIが発表されます。併せて注目したいと思います。


(ハッサク)

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