高市早苗氏が自民党の新総裁に選出されました。財政拡張派の新首相誕生を想定して株式市場はにぎわってきていますが、今後の政策運営次第では、さらなる期待感の拡大も想定されるところです。
高市自民党新総裁の政策でメリットを受け得る可能性がある銘柄に注目
高市早苗氏の自民党新総裁選出、今後想定される総理大臣の就任によって、政策がポジティブに働く銘柄と、ネガティブに働く銘柄で明暗が分かれる展開になると考えられます。高市新総裁のリーダーシップ次第では、こうした流れが今後一段と強まっていく期待も持てるでしょう。
これまでの講演などでの発言内容から、現状では原発、防衛、核融合発電、量子コンピュータ、宇宙、レアアース、介護、不動産関連などが恩恵を受けると期待されます。
(表)政策期待が高い高配当利回り株
コード 銘柄名 配当利回り
(%) 10月3日
終値(円) 時価総額
(億円) テーマ 9076 セイノーHD 4.77 2,138.5 4,013 ガソリン 3231 野村不動産HD 3.98 905.5 8,311 金利低下 7270 SUBARU 3.92 2,932.5 21,496 防衛 1414 ショーボンドHD 3.80 4,790.0 2,622 公共投資 9506 東北電力 3.72 1,074.5 5,403 原発 7751 キヤノン 3.67 4,358.0 58,125 宇宙 4182 三菱ガス化学 3.66 2,735.5 5,790 半導体
銘柄選定の要件
今回は、楽天証券のスーパースクリーナーにおいて、予想配当利回り3.5%以上、時価総額1,000億円以上の銘柄の中から、高市自民党新総裁の政策でメリットを受け得ると考えられる銘柄をスクリーニングしています。配当利回りは会社計画ベースに修正しています。
スクリーニングした中から、配当利回り上位5銘柄を紹介しています。詳細は記していませんが、 キヤノン(7751) は子会社が宇宙開発事業で実績があるほか、 三菱ガス化学(三菱瓦斯化学:4182) は高シェアを保有している半導体技術の「囲い込み」戦略でメリットが享受できるとみられます。
厳選・高配当銘柄(5銘柄)
1 セイノーHD(9076・東証プライム)
「カンガルー便」で知られる西濃運輸を中核とする物流会社です。路線トラック輸送では業界最大手の位置づけとなります。車両数は約2万7,000台、輸送拠点は約900拠点、顧客数は約86万社とされています。利益率の高いロジスティクス事業や貸切輸送の売上比率向上に注力しています。
また、トヨタ自動車や日野自動車のディーラーとして自動車販売事業も行っています。特に日野自動車ディーラーではトップの販売台数実績を上げています。そのほか、物品販売事業や不動産賃貸事業も展開、2024年10月にはMDロジス(旧:三菱電機ロジスティクス)をグループ会社化しました。
2026年3月期第1四半期(4-6月期)の営業利益は92億円で、前年同期比40.6%増となっています。これは、輸送事業における適正運賃収受の進展、MDロジスの連結化効果が大幅増益の要因ですが、連結効果を除いても2ケタの増益だったようです。
2026年3月期通期では、前期比25.8%増の376億円となる見通しです。自動車販売事業は減収減益を見込みますが、引き続き、主力の輸送事業が運賃改定効果によってけん引役となる見込みです。
第1四半期はオンラインとして業績予想を変更していませんが、上半期計画170億円に対しては進捗(しんちょく)率が高い状況となっています。なお、年間配当金は株主資本配当率(DOE)4%から、 2円増配の102円を計画しています。
現在の自公連立政権では、衆議院、参議院とも過半数に達しておらず、今後も連立政権を目指していく必要があります。高市自民党新総裁の場合、公明党との連立の枠組みに警戒感が生じる一方、国民民主党が相手政党として浮上する方向になるでしょう。
同党の主要政策の一つであるガソリン税の暫定税率廃止が、連立政権入りによって実現すれば、路線トラック輸送を主力とする同社にとっては、燃料費の低減につながります。燃料サーチャージの仕組みをとっており、将来的には運賃の調整が行われますが、価格低下は需要増へとつながっていくとの見方もできるでしょう。
2 野村不動産HD(3231・東証プライム)
総合不動産大手の一角で、マンションの分譲販売が主力となっています。「PROUD」ブランドを中心に展開し、オフィスビルや商業・物流施設の開発、賃貸、売却など都市開発事業も主力事業の一つです。上場不動産投資信託(REIT)を中心に資産運用事業も行っており、2025年3月末の運用資産残高は2兆703億円となっています。
現在、「BLUE FRONT SHIBAURA」プロジェクトを展開中で、浜松町ビルディングの建替事業として、高さ約230mのツインタワー建設を予定しており、2030年度に完成予定となっているようです。2030年までの財務指針として、自己資本利益率(ROE)10%以上、総還元性向40~50%などを掲げています。
2026年3月期第1四半期(4-6月期)の営業利益は368億円で、前年同期比3.6%減となっています。都市開発部門における収益不動産の売却増加や、仲介・CRE部門における売買仲介取扱高の増加はあったものの、住宅分譲の粗利減少、ベトナム大型物件計上の一巡などで利益は伸び悩みました。
2026年3月期通期計画は、前期比2.6%増の1,220億円の見通しです。住宅分譲の堅調推移に加え、都市開発部門での収益不動産売却増加を見込んでいます。年間配当金は36円を予定しており、株式分割を考慮すると実質前期比2円の増配となります。14期連続での増配予想となっています。なお、配当金はDOE4%を下限としています。
2025年6月末段階で長期借入金は1兆円を超える水準となっており、2025年3月期の年間支払利息は158億円でした。高市自民党新総裁の選出により、日本銀行の追加利上げ時期が遅れれば、その分、コスト負担は低減することになり、より積極的な不動産開発なども可能になっていくと考えられます。他の不動産株と同様にポジティブな事業環境が望めます。
一方、世界的な金融緩和の動きは海外部門の伸長につながりやすいとみられます。なお、10月3日に提出された大量保有報告書によると、世界最大の資産運用会社であるブラックロックの保有比率が5.04%となり、大株主に浮上したことが明らかにもなっています。
3 SUBARU(7270・東証プライム)
自動車業界大手の一角で、世界販売の7割超を北米で販売する米国向けのウエートが高いことが特徴です。「レガシィ」「インプレッサ」「フォレスター」などが主力車種で、SUVの比率が85%と高いことも特徴になります。水平対向エンジンやシンメトリカルAWDといった技術が強みといえます。自動車の生産拠点は群馬県と米国インディアナ州の2拠点です。
また、大型航空機中央翼やヘリコプターなどの航空宇宙事業も手掛けます。トヨタ自動車が21%を保有する筆頭株主です。全世界販売台数の50%をBEV(バッテリーの電気だけで走る車)にする目標を2030年に設定するなど、需要動向の変化にあわせて生産戦略を柔軟化させています。
2026年3月期第1四半期(4-6月期)の営業利益は763億円で、前期比16.2%減となっています。米国を中心に販売台数は堅調な推移となりましたが、米国の追加関税の影響が556億円ほどの利益悪化要因につながったようです。2026年3月期通期業績見通しは第1四半期発表時点で公表され、営業利益は2,000億円で前期比50.7%減の見通しとしています。
海外を中心に販売台数の減少を見込むほか、追加関税の影響2,100億円、為替の影響を750億円ほどと想定しています。
防衛事業では、航空自衛隊、海上自衛隊向け初等練習機システム、陸上自衛隊向け多用途ヘリコプター、戦闘ヘリコプターなどの機体製造、定期整備、補給、訓練といった運用サポートを長期にわたり行っています。
また、戦闘機・輸送機・哨戒機などの主要防衛航空機システムの開発事業に参画し、主翼・尾翼・複合材などの得意分野を中心に主要部位の開発・生産を担当しています。これまでも防衛費増額を主張してきた高市新総理が誕生すれば、防衛予算拡充の流れは強まっていくとみられ、関連分野の拡大が期待できるでしょう。
また、輸出比率が高い状況にある中、為替の円安進行が想定されることは、今後の収益改善に大きく貢献するとの見方もできそうです。
4 ショーボンドHD(1414・東証プライム)
橋梁(きょうりょう)を始めとして、トンネルや鉄道、港湾などインフラ建造物の補修・補強を専門とする総合メンテナンス企業です。発注者別の2025年6月期売上高構成比は、高速道路が61%、地方自治体が20%、国土交通省が15%であり、民間その他は4%ほどの水準にとどまっています。メンテナンス専業のため、建設セクターの中でも利益率が高いことが特徴となります。
海外事業のビジネスモデル再構築や周辺領域の強化・新領域の拡大にも取り組んでいます。現在海外市場はタイや米国が中心のようです。中期計画では、2027年6月期売上高1,000億円、総還元性向90%などを目標としています。
2025年6月期営業利益は207億円で前期比5.7%増となり、11期連続での増収増益を達成しています。
2026年6月期は215億円で同3.4%増の見通しとしています。工事受注高は820億円で同10.9%増を見込んでいます。高速道路各社の工事発注の回復が見込みにくい中、国や地方自治体の案件で受注を積み上げていく計画のようです。年間配当金は前期比6.5円増の182円を計画し、17期連続での増配を見込んでいます。
高市自民党新総裁は、老朽インフラの更新を国土強靭(きょうじん)化の重要な柱として位置づけているようです。
南海トラフ地震や首都直下地震、さらには高潮や洪水などの大規模災害に備え、事前にインフラ整備を進めることで、事後の災害に伴う経済的な損失、さらには財政負担の増大を抑制させていきたいと考えているもようです。国や自治体案件が中心であり、かつ、メンテナンス専業である同社の活躍余地は今後も広がりを見せていくものと期待できるでしょう。
かつては株価の割高感が意識されていた銘柄ですが、現在では配当利回りの上昇など割安感も意識される状況となってきており、中長期感覚での押し目買い好機と考えます。
5 東北電力(9506・東証プライム)
東北6県と新潟県を事業エリアとする電力会社です。主に寒冷地が主要エリアとなるため、冬に電力需要が膨らむ傾向にあります。発電量は火力が主力ですが、水力発電所の数は国内で最多となっています。
また、原子力発電所は宮城と青森に3カ所保有、うち、女川原子力発電所2号機は2024年11月に再稼働しました。13年ぶりの発電再開となります。女川原発3号機、東通原発1号機は稼働停止中です。
再生エネルギーでは地熱発電で実績が上位となっているほか、石狩湾新港洋上風力発電事業への参画も決定しています。火力の脱炭素化など、2030年度までに戦略投資を3,000億円程度実施する計画になっています。
2026年3月期第1四半期(4-6月期)の営業利益は643億円で、前年同期比31.5%減となっています。女川2号機再稼働による収益改善効果はあったものの、販売電力量の減少に加え、需給調整費用の増加に伴う送配電事業の収支悪化が響いたもようです。
2026年3月期通期では2,200億円で前期比21.5%減の見通しです。エリア内での顧客獲得競争の激化により、販売電力量は前年比横ばいにとどまると想定し、燃料費調整制度のタイムラグ影響による差益の減少なども見込んでいるもようです。年間配当金は前期比5円増の40円を計画しています。会社側ではDOE2%を目安としています。
女川原発3号機は安全審査の準備段階にあり、2027年以降に規制委員会への審査申請が見込まれています。東通原発1号機に関しては、安全対策工事の完了時期の公表延期が続いており、現状では2027年3月ごろとなるようです。
ただし、高市自民党新総裁は原発推進派とされており、今後再稼働に向けた動きは加速化していく可能性もあるでしょう。また、もともとエリア的には成長期待などが高まりにくい状況にありましたが、ここにきて、東日本でのデータセンター向け需要の増加メリットを期待する声も高まっています。
東京電力ホールディングスが管轄する関東エリアでは、データセンターの新増設がなされるなど、今後の需要拡大期待が高いと考えられるためです。
半導体・AI関連銘柄をけん引役に日経平均株価は大幅に上昇
9月(9月1日終値~10月3日終値)の日経平均株価(225種)は8.5%の上昇となりました。期間中の安値は9月3日の4万1,863.20円で、同日には終値が4月23日以来の25日移動平均線割れとなりました。ただ、その後はすぐに切り返し、結局、終値が25日移動平均線割れとなったのはその1日だけでした。
9月9日には8月19日につけた上場来高値4万3,876.42円を更新し、9月19日には高値4万5,852.75円まで高値を伸ばしています。なお、この期間(8月29日~10月3日)のダウ工業株30種平均は2.7%の上昇となっています。
月初は米長期金利の上昇などを背景にもたつきましたが、その後は、米ハイテク株の上昇を映して、AI・半導体関連株などを中心に切り返す動きとなりました。米国では雇用統計、生産者物価指数(PPI)が下振れたことで、9月の利下げ期待が高まりました。また、7日には石破茂首相が辞任表明し、財政拡張派の新政権誕生を期待する動きも優勢となった格好です。
中旬にかけては、米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利下げが決定され、政策金利の見通しも年内にあと2回の利下げと、前回の想定よりもペースが加速するとの見方がでました。国内グロース株の好感材料ともなって、半導体関連銘柄の一段高につながりました。
同時期に行われた日銀金融政策決定会合では、市場コンセンサス通りに金融政策の据え置きが決まりましたが、上場投資信託(ETF)の市場売却を行うことも発表。一時ネガティブサプライズが強まる形となりましたが、売却期間が極めて長期間とされたことで、すぐに影響は乏しいとの見方に変化しました。
期間中後半には、米国の政府機関閉鎖が懸念される局面もありましたが、(実際に一部閉鎖が行われたものの)株価へのネガティブな影響は限定的でした。米国のADP雇用統計が予想外の減少に転じたことから、米国の10月利下げ継続期待が高まる展開にもなりました。
この期間は半導体関連株の大幅な上昇が目立ちました。エヌビディアと100倍速SSD開発へと伝わった キオクシアホールディングス(285A) は2.3倍に急騰。
そのほか、 KOKUSAI ELECTRIC(6525) 、 JX金属(5016) 、 アドバンテスト(6857) 、 日本マイクロニクス(6871) 、 レゾナック・ホールディングス(4004) 、 東京エレクトロン(8035) 、 SUMCO(3436) などが40%を超える上昇率となっています。
ソフトバンクグループ(9984) も30%近い上昇となり、日経平均株価の上昇をけん引しました。経営陣による買収(MBO)を発表した マンダム(4917) 、投資ファンドの株式取得が伝わった メガチップス(6875) なども大幅高となっています。
半面、内需系銘柄が総じて下落率の上位となりました。日経平均への新規採用が決まった SHIFT(3697) は、想定線として出尽くし感が優勢となりました。また、不正会計問題に対する警戒感から ニデック(6594) も大幅安となりました。
国内外の期待材料が株価の下支え材料に:高市新政権と米利下げ期待
10月4日に投開票された自民党総裁選では、事前の予想に反して高市候補が勝利を収めました。株式市場にはポジティブなサプライズと受け止められ、6日の株式市場では日経平均株価は一時2,000円を上回る上昇幅を記録しました(終値が2,000円超の上昇となったケースは過去4回のみ)。
高市新首相が財政拡張派であることから、今後の景気刺激策や成長投資の促進などが期待されています。今後の政策運営に失望感が広がってこない限り、当面は株式市場にとって追い風となるでしょう。
特に注目されてくるのが、日銀の金融政策運営に対する影響となるでしょう。高市新首相の就任により、日銀にとって利上げのハードルが高まることとなり、今後も追加利上げの観測は後退していく可能性が高いでしょう。
これは、銀行株にとっては利ザヤ拡大の期待が低下するため悪材料となり、不動産など有利子負債の大きい企業にとってはプラス材料となります。また、為替相場で円高が進みにくくなるので、輸出関連株にとっても安心材料とされてきます。
これまでの高市氏の発言からは、原発、防衛、核融合発電、量子コンピュータ、宇宙、レアアース、介護などの関連銘柄が、今後折に触れてテーマ物色されてくる余地が大きいとみられます。短期的には防衛関連への注目度が高まる公算です。今月後半に予定されているトランプ米大統領の来日を機に、あらためて防衛費の拡充議論が広がる可能性が高いためです。
米国では政府機関が一部閉鎖に追い込まれる事態となっていますが、閉鎖に伴うショック安は避けられる状況となっています。閉鎖状態が長期化すれば、マイナス要因となりますが、ひとまずは雇用統計、消費者物価指数(CPI)、小売売上高などの重要な経済指標の発表が延期されました。
これは、10月のFOMCでの継続利下げに対してノイズが広がる可能性の低下につながるため、ポジティブにも捉えられているようです。
こうした期待感は今後の米国株の下支えとなり、それに伴って、半導体株を中心とした国内株式市場の底堅い動きにもつながっていくでしょう。なお、10月は米国主力企業の決算発表が本格化するタイミングですが、短期的には出尽くし感が先行したとしても、格好の押し目買いの場となっていく公算も大きそうです。
国内の半導体・AI関連株には過熱警戒感が拭い切れません。足元では、 日立製作所(6501) がオープンAIと提携、キオクシアHD(285A)や 富士通(6702) が米エヌビディアと連携して製品開発を進めるなど、新たな期待材料が相次いで表面化しています。
日本企業では電子部品や半導体材料で高シェアを占めているものも多く、今後もこうした材料が多く顕在化する余地は大きいと考えられます。また、トランプ米大統領と習近平中国国家主席の会談が1カ月以内に行われる予定となっており、中国関連銘柄の見直しにつながる可能性も注目されます。
(佐藤 勝己)