鉄道車両に書かれている漢字とカタカナの組み合わせは何を意味しているのでしょうか。情報伝達をスムーズにすべく、あるルールに則って表記されていますが、そのまま読むとおもしろいものもあります。
JRの鉄道車両を見ると、車体の端に1文字の漢字と2文字のカタカナの組み合わせが書かれています。たとえば東京を走る山手線の電車なら「東トウ」、中央線の電車なら「八トタ」といった具合です。これらは何を表しているのでしょうか。
JR総武線の電車に見られる「八ミツ」の表記(2018年12月、伊藤真悟撮影)。
結論をいえば、これは車両がどこの基地のものかを示す電報略号です。漢字は本社や支社などの所属組織、カタカナは車両基地を表します。冒頭の例では、「東トウ」はJR東日本東京支社の東京総合車両センター、「八トタ」はJR東日本八王子支社の豊田車両センターをそれぞれ意味します。
「電報略号」とは国鉄時代から使われている省略記号のことです。この電報略号では、駅名や車両基地名は原則カタカナ2文字に縮めて表記されます。電報は英数字とカタカナが送受信できましたが、カタカナが長く続くと読みにくく、また、読み間違えのリスクも生じます。そこで略号を用いたのです。2文字に縮めるため他駅と重複することもありますが、同一路線や同一管区内ではなるべく回避するよう設定されています。
なお通信技術が発達した現代でも、新駅には電報略号が付されます。2020年3月に開業した高輪ゲートウェイ駅は「タケ」です。ちなみに「タケ」は鹿児島本線の竹下駅(福岡市博多区)にも使われています。
小文字 濁点 旧仮名遣い… いろいろなルール電報略号は必ずしも、通常の読み方そのままで略されるわけではありません。例えば総武線の電車には「八ミツ」と記載があります。なんともおいしそうですが、これはJR東日本八王子支社の三鷹車両センターのこと。現場では三鷹を「ミツタカ」と読ませていたため、頭2文字を取って「ミツ」にしたといわれています。

JR東日本大宮支社の川越車両センター所属を表す「宮ハエ」(2002年1月、草町義和撮影)。
寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」に使われる285系電車の一部には「海カキ」と書かれています。これはJR東海の大垣車両区を意味します。濁点や半濁点は原則使用しないという規則に従い「ガキ」にはなりません。
ほかにも小文字を大文字にしたり、旧仮名遣いを用いたりします。
ところが機関車は上記のルールとは別です。所属する車両基地の名称が、漢字1文字あるいは2文字で表記されます。その略号は運転席の横などに札で掲示。JR東日本田端運転所であれば「田」、JR西日本下関総合車両所は「関」といった具合です。
もともと通信における制約を克服するために生まれた略号ですが、時代が下っても情報伝達がスムーズに行えるという点で廃れることなく用いられています。