北海道紋別市が建造した最新鋭の観光砕氷船が、横浜港にやってきました。この船は自衛隊や海上保安庁などが保有する砕氷船とは異なる特徴があるとのことで、関係者に話を聞くことができました。

重さでは倍以上に 速度も乗り心地もアップした3代目

 北海道紋別市で流氷観光に就役する最新型の砕氷船「ガリンコ号III IMERU」が2020年11月12日(木)、横浜港で報道陣に公開されました。

 同船は大分県佐伯市にある三浦造船所が建造したもので、船名の「IMERU」(イメル)とはアイヌ語で「光」という意味です。11月5日(木)に大分県佐伯港を出港し、三重県の尾鷲や静岡県の清水を経たのち、11月8日(日)に横浜に入港しました。

船首のドリルで氷をガリガリ砕く! 最新の砕氷船「ガリンコ号I...の画像はこちら >>

「ガリンコ号III IMERU」の船首ローター部分を横から見たところ(2020年11月12日、柘植優介撮影)。

「ガリンコ号III IMERU」の一番の特徴は船首に装備した2本のドリル。これはローターと呼ばれ、氷塊に乗り上げ回せば氷を割ることができます。ローター式砕氷船の特徴は船体が小型であっても高い砕氷能力を付与することができる点です。また船首に加わる衝撃が小さいため、船体構造を強固にする必要がないのもメリットです。

 加えて、万一後部のスクリューが破損しても、ローターを回すことで一定の推進力を得ることができるため、航行不能になりにくい長所もあるといいます。

 実に23年ぶりの新造ローター式砕氷船となった「ガリンコ号III IMERU」。既存の「ガリンコ号II」と比べて総トン数で倍以上の370トンあり、サイズは全長45.55m、全幅8.5mで、座席数は235席と拡大しています。バリアフリー機能も各所に取り入れられ、身障者用トイレや、車いす用スペースなども設けられており、これらにより、さらに快適な流氷観光を楽しんでもらえると関係者は話していました。

用途は流氷観光だけじゃない 海洋観測支援も期待

 横浜港で実施された「ガリンコ号III IMERU」の報道公開では、オホーツク・ガリンコタワー株式会社の山井 茂船長と村井克詞研究員の両名から話を聞くことができました。

 山井船長のお話では、「ガリンコ号III IMERU」は最高速力約16ノット、航海速力13~14ノットの性能とのこと。なお「ガリンコ号II」がプロペラ1基だったのに対し、IIIではプロペラが2基になり、さらに「アジマススラスター」と呼ばれるポッド式になったため、舵が不要になるとともに安定性や操舵性が向上したそうです。

船首のドリルで氷をガリガリ砕く! 最新の砕氷船「ガリンコ号III」そもそもなぜドリル付き?

ブリッジ(船橋)で操船方法を解説する山井 茂船長(2020年11月12日、柘植優介撮影)。

 また「ガリンコ号III IMERU」は、大学を始めとした研究機関の海洋観測などを支援する任務にも従事する予定だそうですが、村井研究員の話ではそのための装備として、船体後部に多用途クレーンと大型のAフレームクレーンを装備していると説明を受けました。

 多用途クレーンは各種機材の積み降ろしや乗降用タラップの設置などにも用いるそう。一方Aフレームクレーンは、プランクトンなどを採取するネットの繰り出しなどに使うとのこと。

「ガリンコ号III IMERU」は観光船としてだけでなく、海洋の研究観測支援にも就く予定で、その点でも既存の「ガリンコ号II」と比べて大幅に能力向上が図られていることがわかりました。

 今後のスケジュールは、11月13日(金)に横浜を出港し、宮城県の石巻や青森県の八戸、北海道の広尾や根室、網走などを経由して、11月22日(日)に紋別に到着する計画といいます。そののち「ガリンコ号III IMERU」は2021年1月9日にデビューし、紋別港を拠点に「ガリンコ号II」と2隻体制で流氷観光に用いられる予定です。

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