飛行機のように飛び、ヘリコプターのように離着陸するティルトローター機「オスプレイ」。陸上自衛隊も運用を始めた機体ですが、新形態の航空機ゆえに、従来の飛行機やヘリコプターでは護衛できないそう。

どういうことでしょうか。

目には目を ヘリコプターの護衛にはヘリコプターを

 飛行機と違い、狭い場所でも離着陸できるヘリコプター。その特性を活かして実施される戦術が「ヘリボーン」と呼ばれる空中強襲戦術です。

 ヘリコプターであれば、山や谷、河川や海洋などを飛び越えていくことができるため、短時間で敵に攻撃を仕掛けることが可能です。そのため、陸上自衛隊においても有用視されており、離島防衛などではヘリコプターによる部隊展開が考えられていますが、ヘリボーン作戦、空中強襲戦術にも弱点はあります。

 それは、主にヘリコプターから味方部隊を降ろしているときです。

この間は、敵がミサイルや機銃を撃ってきても退避行動をとれるわけでもなく、どうしても無防備な状態を一定時間さらす形になります。かといって、周辺警戒のために戦車を始めとした地上車両の支援を受けようにも、事前に現地へ進出していない限り、ヘリコプターと同じ速度で展開することはできず、なおかつ地形を超越していくことは無理です。

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千葉県にある木更津駐屯地に配備された陸上自衛隊の「オスプレイ」(画像:陸上自衛隊)。

 一方、同じように空飛ぶものであっても、飛行機(固定翼機)で支援する場合は、ヘリコプターと異なり、その場にとどまること(ホバリング)ができないため、攻撃しつつ航過(飛び去る)せざるを得ず、次の攻撃位置に着くまでに時間がかかり、敵を漏れなく掃討するのが難しいという欠点があります。

 また飛行中も、ヘリコプターは飛行機と違い速度が遅く、動きも緩慢なため、戦闘機では護衛しづらいという点もあります。

 だからこそ、輸送ヘリコプターに終始随伴でき、護衛や周辺警戒、敵に対する攻撃を常時行える機体として、機関銃やロケット弾を搭載した武装ヘリコプターや攻撃ヘリコプターが開発されたのです。

「オスプレイ」の護衛どうする? 米海兵隊が考えたやり方とは

 とはいえ、アメリカ海兵隊は1996(平成8)年頃、もしくはそれ以前から次世代機による空中強襲作戦で護衛が付けられなくなるのではないかと不安を抱くようになりました。というのも、ヘリコプターよりもスピードが出るティルトローター機、すなわちV-22「オスプレイ」の導入を進めていたからです。

 ヘリコプターの護衛にはヘリコプターを付けて解決となったものの、ティルトローター機ではそのようにはいきません。なぜなら軍用として配備されているティルトローター機は「オスプレイ」しかないからです。2020年現在、ティルトロータータイプの戦闘機など存在しません。そこでアメリカ海兵隊は、試行錯誤の段階ではあるものの、戦術(ソフト)および装備(ハード)の両面から解決方法を見出そうとしています。

陸自オスプレイ「護衛」に課題 戦闘機も攻撃ヘリも力不足? 米海兵隊はどうしたか

千葉県にある木更津駐屯地に配備された陸上自衛隊の「オスプレイ」(画像:陸上自衛隊)。

 まず戦術でカバーする方法としては、飛行中は飛行機でエアカバーの回廊を作り、着陸地点にはAH-1Z攻撃ヘリを先回りさせ護衛を行わせようというものです。

「オスプレイ」はヘリコプターよりも速いスピードで飛びます。その高速性ゆえに攻撃ヘリが随伴できないのならば、「オスプレイ」が飛ぶ間は追従可能な飛行機が護衛を担い、離着陸時は滞空(ホバリング)できる攻撃ヘリでフォローさせようという、向き不向きによる役割分担を考えたといえるでしょう。

 一方、装備については「オスプレイ」の重武装化です。攻撃ヘリコプターが誕生したように攻撃型「オスプレイ」を生み出してしまおうというもので、開発中のJAGM空対地ミサイルや、空対地ロケット弾、12.7mm機関銃または7.62mmガトリングガンを装備した対地攻撃型「オスプレイ」が検討されています。

試行錯誤する米海兵隊 陸自はどうする?

 なお装備(ハード)に関しては、別の航空機を用いるプランも検討されているようです。具体的な方法としては、KC-130空中給油輸送機に「HarvestHAWK」と呼ばれる武装キットを取り付けます。これを装着したKC-130は、AH-64「アパッチ」攻撃ヘリなどが搭載するAGM-114「ヘルファイア」空対地ミサイルやMk44「ブッシュマスターII」30mm機関砲などを装備できるようになるため、これらを用いることで、「オスプレイ」が最前線で離着陸する際の護衛が行えるようになるといいます。

 ほかにもUAV仕様の無人ティルトローター機に攻撃、監視、偵察の能力を持たせるプランもあります。ティルトローター機であれば、「オスプレイ」と同じように飛行できるため、発進から上空移動、最前線での離着陸まで一貫して護衛できるとしています。

陸自オスプレイ「護衛」に課題 戦闘機も攻撃ヘリも力不足? 米海兵隊はどうしたか

千葉県にある木更津駐屯地に配備された陸上自衛隊の「オスプレイ」(画像:アメリカ海兵隊)。

 このように、アメリカ海兵隊は様々な方法を模索していますが、自衛隊の場合はどうでしょう。陸上自衛隊のAH-1S「コブラ」対戦車ヘリコプターは航続距離が短く、武装の積載力も低いほか、エンジンが単発なので洋上飛行時の安全性にも不安が残ります。一方、AH-64D「アパッチ」戦闘ヘリコプターは機体自体の性能は問題ないものの、そもそも機数が10機強しかないため、その点で不安が残ります。

 いっそのこと、陸上自衛隊の「オスプレイ」は最前線には出ず、敵の脅威が低い場所で運用し護衛の必要をなしとするか、もしくは敵国が上陸し領土の一部を占領する前に、航空自衛隊や海上自衛隊と緊密な統合運用により空中強襲を行うかです。

 しかし海上自衛隊には海上自衛隊の、航空自衛隊には航空自衛隊の使命があり、有事の際に陸上自衛隊の「オスプレイ」を護衛するために人員や装備を割いてくれるのか、さらにいうと統合運用そのものができるのかという不安が残ります。

「ヘリボーン」ならぬ「オスプレイボーン」、その不安を払拭するためには常日頃から訓練をして信頼関係を醸成することが重要といえるのではないでしょうか。