鉄道会社のなかには、特急といった優等列車の停車駅を、準急など下位の列車が通過するパターンを採用している場合があります。列車種別によって停車駅を振り分けるのは俗に「千鳥停車」と呼ばれますが、どういった背景があるのでしょうか。
多くの鉄道会社で列車の種別は、特急や快速急行などの最優等列車は停車駅が少なく、急行や準急など下位の列車は、さらにいくつかの停車駅が追加されるといった「階級構造」のようになっています。
しかし時には、その構造を無視するかのごとく、下位の列車が、特急などの優等列車の停車駅を通過していくような、「下剋上」のような例もあります。
停車駅の設定が複雑な西武池袋線、阪神本線(画像:西武鉄道、写真AC)。
石神井公園を通過 西武池袋線の「通勤準急」
西武池袋線には2020年12月現在、有料の特急を含め、9つの列車種別があります。平日の昼間は各駅停車のほか準急・急行・快速急行(Fライナー)・特急が運転され、ラッシュ時などに通勤準急・快速・通勤急行・S-TRAINが加わります。
料金不要で乗車できる最速の列車は、快速急行です。池袋~所沢間の停車駅は、石神井公園・ひばりヶ丘のみ(地下鉄直通の快速急行は練馬駅にも停車)。この2駅には準急・急行も停車し、池袋線の主要駅と言えるでしょう。
しかし、「通勤」の付く種別は停車駅が異なります。通勤準急は石神井公園を通過し大泉学園以西は各駅停車、通勤急行は石神井公園には停車するものの、ひばりヶ丘を通過し、急行が停まらない大泉学園、保谷、東久留米が停車駅に加わります。
このように、種別のヒエラルキーを無視するような形で、停まる駅と停まらない駅が種別ごとに交互に配置されている状況は、「千鳥足」と同じ由来で「千鳥停車」と呼ばれることがあります。
千鳥停車が行われる一番の理由が、混雑の分散です。
ちなみに、関東ではほかに、つくばエクスプレスの例などが挙げられます。平日夕ラッシュ時の下りダイヤを見ると、区間快速は六町を通過し三郷中央に停車。逆に通勤快速は、六町に停まる代わりに三郷中央は通過します。
千鳥停車の「王国」阪神関西では、阪神が千鳥停車の代表格と言えるでしょう。最優等の特急(直通特急含む)が停車する御影を、快速急行は通過。さらに土休日は、芦屋も通過となります。平日朝に運転される区間特急は、魚崎~今津間8駅のうち、他の全列車が停まる西宮「のみ」通過、といったありさまです。
これらもやはり、特急と利用者を分散させ、混雑緩和を図る施策と言えるでしょう。ただし、快速急行が御影駅を通過するのには、また別の理由があります。
快速急行はすべて尼崎から阪神なんば線経由で近鉄奈良線に相互乗り入れしていますが、阪神の車両の長さが1両18mに対し、乗り入れてくる近鉄車両は1両21m。御影駅ホームは急カーブになっているため、近鉄車両が停車すると、一部のドアで電車とホームの隙間が大きくなってしまうのです。またホームの長さも阪神の車両がギリギリ停車できるほどしかなく、近鉄車両はに収まりきらないのです。そのため、通過せざるを得ないという「物理的」事情があります。

阪神に乗り入れる近鉄車両(乗りものニュース編集部撮影)。
なお、かつて阪神の停車駅はさらに複雑で、停車駅が多く「通過駅を数えたほうが早い」とも言われる準急が、特急停車駅の芦屋を通過。快速急行が停車する魚崎を急行が通過するなどは序の口で、芦屋~御影間6駅では特急から準急までの5種別の停車駅がすべてバラバラになっており、地元住民でも把握するのが困難だったといわれます。ただ阪神線は、駅が比較的高密度で設置され、平均駅間距離は1km未満と短いのが特徴。乗る列車により最寄り駅を使い分ける地元住民もいたのではないでしょうか。
千鳥停車とは違う「特別停車」で対応した名鉄千鳥停車をもたらす「特殊な停車パターン」は、ラッシュ時など時間帯限定で運転される種別で多く見られます。一方で名鉄は「通勤〇〇」といった時間帯限定の種別を設定していません。その代わり既存の種別が、必要に応じて、正規の停車駅以外の駅に「特別停車」を行う方法で対応しています。

名鉄名古屋駅の豊橋方面行きの時刻表。イレギュラーな停車駅が不規則に設定されている(画像:名古屋鉄道)。
名鉄の特別停車の発生ぶりは、かつては「正規の停車駅で運転する列車のほうが少ないのでは?」と言われるほど。ラッシュ時には同じ種別でも、乗る便によって停車駅がそれぞれ異なる例もありました。現在は比較的シンプルになりましたが、時刻表にはまだ停車駅の補足がびっしりと記載されています。種別を増やしすぎるのも、それはそれで煩雑になりかねません。種別を増やさず、それぞれの駅のニーズを突き詰めたのが名鉄と言えるでしょう。