埼玉県で「立ち止まった状態でエスカレーターを利用しなければならない」と定めた条例が成立しました。歩行中の事故の危険性や、体の不自由な人が不安な思いをしていることなどを受けてのことですが、人々の意識も確実に変化しています。
「立ち止まった状態でエスカレーターを利用しなければならない」などと定めた「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が埼玉県で成立、2021年10月から施行されます。
日本初とみられるこの条例は、動く歩道を含むエスカレーターの安全な利用の促進に向け、「県や利用者、関係事業者の責務を明らかにする」ことが狙いです。関係事業者や施設管理者などには、立ち止まって乗るよう周知・啓発することを求め、知事は、それが不十分な管理者への指導や助言、勧告ができるとされています。
エスカレーターを歩いてはいけないとする条例が埼玉県で成立した。写真はイメージ(画像:bee32/123RF)。
これは議員提案で可決された条例で、罰則などは特にないことからも、規制というより周知の目的が強いものといえます。業界団体である日本エレベーター協会によると、エスカレーターの安全基準はそもそも歩くことを想定しておらず、歩行中の事故が多発している実態があります。
また歩く人のためにエスカレーターの右側(関西ならば左側)を空ける習慣があることで、右側の手すりにつかまって利用したい身体の不自由な人が不安な思いをしていることから、東京では理学療法士の団体が2017年から、エスカレーターの両側に立ち止まって乗ることを啓発しており、埼玉県議会でもこの点が議論されていました。
そうは言っても、急ぐために歩きたい、あるいはエスカレーターの片側を空けることはマナーと思っている人も多いでしょう。しかし、ここ数年で人々の意識は、確実に変わってきています。
「歩いちゃう人」減少「歩くべきでないと思う人」増加日本エレベーター協会は、毎年11月10日「エレベーターの日」に合わせてエスカレーターの安全利用キャンペーンを実施し、利用者の意識調査を行っていますが、この5年間で次のような変化が起きています。
「エスカレーターを歩行してしまうことがある」と答えた人の割合は、2016年に83.9%だったのが、2019年には79.1%に、そして2020年には68.2%と大きく減少しました。
一方で、「エスカレーターの歩行は、やめたほうがいいと思う」と答えた人は、2016年に69.1%だったのが、2020年には86.9%まで増えています。なお、意識調査の回答数は毎年異なるものの、この5年間は毎年7000人以上の声を集めています。
日本エレベーター協会は全国の鉄道事業者などと連携し、毎年「みんなで手すりにつかまろうキャンペーン」と題して駅のポスターなどでエスカレーターの利用マナーを啓発してきましたが、2020年度からはこれを「歩かず立ち止まろうキャンペーン」に改めて展開しています。2019年から2020年で「エスカレーターを歩行してしまうことがある」と答えた人が大きく減ったのは、このことが一因しているのではないかとのこと。

2020年度「歩かず立ち止まろうキャンペーン」ポスターの例(画像:日本エレベーター協会)。
「2019年度の『手すりにつかまろうキャンペーン』で、歩かず立ち止まって利用することを、従来よりも強めにアピールしました。これに賛同の声が大きかったことから、2020度は『歩かず立ち止まろうキャンペーン』に改めました」(日本エレベーター協会)
埼玉県での条例制定とは無関係に、この問題について、以前よりもテレビなどで取り上げられることが多くなっているといいます。日本エレベーター協会は2021年度以降も引き続き「歩かず立ち止まろうキャンペーン」を展開する構えです。