鉄道車両の座席、座り心地がよいと嬉しいものです。ロングシートやクロスシートなど、目的や用途によって最適なデザインがなされますが、その中でもかけ心地がよいと思う座席を5つ、独断で選んでみました。
鉄道車両の座席は、その列車が果たす目的に合わせて設計・製造されています。今回は、これまで数百種類の座席に座ってきた筆者(児山 計:鉄道ライター)が利用して感銘を受けたものを5つ紹介します。
選ぶにあたり、収容力よりも閑散時のかけ心地を重視しました。着座した際に体が座席に密着する座席です。後述する「疲れない座り方」を実践すれば、長時間座っても快適な移動ができる座席ばかりでしょう。
しかし一方で、かけ心地がよくないからといって必ずしも悪い座席とは言い切れません。例えばかつてJR山手線や埼京線などで運用されていた6ドア車両の座席は浅く硬く、必ずしもかけ心地はよいとはいえませんが、短時間利用と割り切り、収容力を重視したデザインという意味では優れた座席でした。
では、順に見ていきます。
かけ心地自体はグリーン車の座席に匹敵する、N700系新幹線電車7000・8000番台の普通車指定席(2012年4月、児山 計撮影)。
JR特急の場合、普通車であれば自由席と指定席の座席は同じ場合であるケースがほとんどですが、山陽・九州新幹線のN700系電車7000・8000番台の普通車は、指定席と自由席で座席の形状が全く異なります。
自由席はほかのフル規格新幹線と同じ横2+3列のリクライニングシートですが、指定席は横2+2列となり、座席はグリーン車用に匹敵する重厚なものをあつらえています。グリーン車とはシートピッチやフットレストの有無こそ異なるものの、座席幅は自由席より広い460mm。
もし利用列車が「みずほ」「さくら」で指定席に空席があるならば、迷うことなく選びたくなる座席です。
転換座席も乗り心地追求 「長時間座りたいロングシート」も!?近鉄5800系電車を皮切りに普及しているロング/クロス転換座席は、最近は特にかけ心地が改善されています。有料のライナー列車にも使われる京王電鉄5000系電車や東武鉄道70090型電車などに採用された座席は、体をしっかりとホールドする形状となり、長時間の利用でも快適なかけ心地となっています。
着座の第一印象としては、これまでのロング/クロス転換座席に比べ建て付けがしっかりしており、座席の回転部分に生じるがたつきを感じません。形状もよく研究されており、座面が太ももをしっかりホールドし、体がピタッと座席に吸い付くような感じも好印象です。
座席の向きにこだわらないのであれば、可動機構のない車端部の席がおすすめ。座席の幅が転換タイプとして用いられている席よりやや広く、座席が壁に固定されているので安定感もあります。なお、京王電鉄は2022年度に導入する5000系からリクライニング機構を追加するとのことで、こちらも楽しみです。

阪神5700系電車の座席。かけ心地もさることながら、立客がもたれかかりやすい袖仕切りのデザインも秀逸(2016年11月、児山 計撮影)。
関西の私鉄各社は昔から、座席の質を特に追求してきたと筆者は感じます。
そのような中で最近感銘を受けたのが、阪神電鉄の普通列車向け車両である「ジェットカー」の最新型、5700系電車です。一部座席は短距離利用に特化した「ちょい乗りシート」が採用されていますが、それ以外の座席はつい大阪から神戸まで乗り通したくなるようなかけ心地です。
座面は奥行きを450mm(実測値)と深く取り、床面からの高さも400mm程度と、体重が臀部にまんべんなくかかる構造。さらに端部の袖仕切りがやや湾曲しており、着座している人にとっては簡易なひじかけに、立っている人にとっては簡易な腰かけになります。座っている人も立っている人も疲れにくい設計です。
「疲れない座り方」お教えします新交通ゆりかもめの7300系電車や、埼玉新都市交通ニューシャトルの2020系電車などに採用されている次世代シート「G-Fit」も忘れてはいけません。背もたれに15度の傾斜を持たせ、U字型に湾曲した座面は体重をしっかりホールド。座面高さもちょうどよく、長時間乗車でも疲れにくい座席です。惜しむらくは採用が、開発元である三菱重工製の新交通システム車両のみにとどまっている点でしょう。

JR東海211系電車の座席。上から見ると座面奥行きの深さが分かる。
315系電車の登場によって引退のカウントダウンが始まったJR東海の211系電車5000番台のロングシートは、数あるロングシートの中でも長距離利用に配慮した座席となっています。
座面は奥行きがあり、さらにバケットシート(座面が平面ではなく、左右のへりがやや高くなったシート)の深さも程よくホールド感は抜群。211系は国鉄で初めてバケットシートを採用した車両でもありますが、初期の座席とは思えないほどの高い完成度といえるでしょう。通勤ラッシュ輸送と、名古屋~中津川間や静岡~浜松間といった長距離利用を両立させるために考え抜かれたデザインを堪能できます。
さて、鉄道車両の座席を快適に利用するには、座席の性能もさることながら「疲れない座り方」を実践することも大切です。具体的には座席の奥深くまで体を落とし込み、足を組まないで体重が下半身に均一にかかるように腰かけます。
リクライニング機構がある場合は最後まで倒さず、10~15度程度に。大事なのは上半身の体重ができるだけ均等に座面にかかるよう、体を座席に密着させることです。
言い換えればこのような座り方をした時、違和感なく体が座席にぴったり密着すれば、かけ心地に優れた座席といえるでしょう。