私鉄第3位の総営業距離を誇る名鉄。その名古屋市内を走る短距離路線に、日本唯一といえる鉄道どうしの直角平面交差、いわゆる「ダイヤモンドクロッシング」があります。
一般道の交差点でいう「十字路」、道と道が直角に交わる平面交差は、鉄道においてはほとんど見かけません。鉄道でこうした交差は「ダイヤモンドクロッシング」と通称され、安全性や運行ダイヤのネックになることなどから、2021年5月現在、国内では路面電車(軌道)で2か所、普通鉄道で1か所のみとなっています。
その普通鉄道で唯一残る場所というのが、名古屋市内を走る名鉄(名古屋鉄道)築港線のなかにあります。同線の終点である東名古屋港駅(名古屋市港区)の手前およそ350mほどのところで、名古屋臨海鉄道の東築線と平面で交差しています。
築港線の「ダイヤモンドクロッシング」部分を走る名鉄の新5000系電車(2021年4月、柘植優介撮影)。
名鉄築港線は、名古屋の中心部と中部国際空港方面を結ぶ常滑線の大江駅(名古屋市南区)と、前出の東名古屋港駅を結ぶ路線です。大江駅と東名古屋港駅のあいだに途中駅はなく、また東名古屋港駅に接続する路線もありません。わずか1.5kmを3分程度で結ぶ、いわゆる「盲腸線」です。
1.5kmであれば、20分弱で歩けます(1分80m換算)。また東名古屋港駅の周辺にはバス路線も複数走っています。加えて築港線は、朝8時半ごろから16時半過ぎまでの日中、約8時間のあいだは運行本数がゼロ。
このように路線そのものが少々特殊であるうえに、日本唯一の「ダイヤモンドクロッシング」が残っているのには、名鉄築港線のある役割が関係しています。
日中の約8時間は運行しない特異路線まず名鉄築港線の大きな役割として、港湾エリアの工業地帯に通勤する人の輸送が挙げられます。東名古屋港駅の周辺には三菱重工 大江工場(名古屋航空宇宙システム製作所)や東レ名古屋事業場、愛知機械工業 大江工場などがあります。
とはいえ、逆に民家や学校などほとんどない場所であるため、朝夕の通勤時間帯以外は利用者が極端に少なくなることから、前出の通り日中は列車が運行されないのです。ちなみに似たような運行ダイヤを組む路線としてはJR鶴見線の大川支線などが挙げられます。

名鉄築港線の終点、東名古屋港駅(2021年4月、柘植優介撮影)。
また築港線は東名古屋港駅が終点ですが、線路は非電化ながらその先、名古屋港の岸壁(大江ふ頭)まで伸びています。この区間は途中で名古屋港管理組合の専用線となり、管理が名鉄ではなくなります。この区間をふだん、貨物列車が走ることはありませんが、岸壁へ何らかの理由で鉄道輸送などが必要になった場合には対応できるのかもしれません。
車両輸送で必要 でも不定期だからそのままほかにも名鉄築港線は、鉄道の車両輸送(甲種輸送)においても重要な路線となっています。たとえば名鉄や名古屋市営地下鉄などで使用するために新造した車両を、遠方の工場からJR東海道本線経由で運んでくる場合のルートになっているのです。
東海道本線から車両を名鉄線に入れる際、笠寺駅から名古屋臨海鉄道を経由し、先ほどのダイヤモンドクロッシングを通過したのち、連絡線を通って名鉄築港線に入ります。そして、大江駅を経由して名鉄および名古屋市営地下鉄の各線へ運ばれていくのです。

名古屋臨海鉄道東築線。不定期の貨物線であるため、踏切には遮断機がない(2021年4月、柘植優介撮影)。
とはいえ、名古屋臨海鉄道東築線は定期的な貨物輸送に用いられている路線ではなく、また名鉄築港線も朝夕の計9時間(土休日は8時間)以外は定期運行がないため、立体交差などに改良する必要もないのでしょう。ないと困るが、頻繁に使うわけではない。そういう理由から、ダイヤモンドクロッシングが残っているようです。