横須賀と北九州を結ぶ「東京九州フェリー」が就航しました。近年こそ首都圏~九州で貨物を運ぶRORO船の航路開設が相次いでいますが、2000年代は、首都圏から航路が消えていった時代でした。
安くモノを買って、仕事をし、食事して暮らす――この当たり前の生活を支えているのが海運です。国内を結ぶ内航海運は、国内貨物輸送で4割強(トンキロベース)のシェアを持ちます。トラック運転手の不足も解消されないなか、その重要性はますます高まっています。
そうしたなか、神奈川県の横須賀新港と北九州の新門司港を結ぶ「東京九州フェリー」が、2021年7月1日に就航しました。976kmの距離を約21時間で航行し、観光はもちろん、物流・トラックの安定輸送に寄与することが期待されています。
就航した東京九州フェリー「はまゆう」(中島洋平撮影)。
首都圏~九州間には「オーシャン東九フェリー」も就航していますが、東京湾の奥部である有明に拠点があることや、徳島新港へ寄港することなどで航行時間が約35時間と長くなります。東京九州フェリーの就航は、近年の長距離航路のトレンドといえる「集荷後3日目配送」(集荷・船積み後、翌々日早朝までに着荷)に対応するためのルートの複線化とも見ることもできます。
一方、関西~九州などは多くのフェリー航路があり、物流はもちろん旅客の観光やビジネスでも利用されているのに対し、関東発着の長距離航路は、東京九州フェリー、オーシャン東九フェリーのほか、大洗(茨城県)~苫小牧(北海道)を結ぶ商船三井フェリーのみです。首都圏では、フェリー自体にあまり馴染みがない人も比較的多いのではないでしょうか。
だからこそ、東京九州フェリーの就航に注目が集まっているといえそうですが、かつてはもっと、首都圏発着の航路がありました。
首都圏~九州のフェリー航路は、2000年代に相次いで撤退を余儀なくされています。それぞれの航路を振り返ってみましょう。
●シャトル・ハイウェイライン
・区間:久里浜港(横須賀市)~大分港
・2004(平成16)年就航、2007(平成19)年休止・廃止
2000(平成12)年にこの航路開設が発表された際は、性能の良い新造船の導入による約17時間での運航が想定されていました。しかし中古船の使用に変更されたことで、機関の古さからくる欠航・遅延や計画を大幅に上回る所要時間、かつ船員確保の遅れで就航が大幅に延期となるなど、その信頼性の低さが顧客獲得の妨げとなりました。
また両側の港は高速道路から遠く、特に大分港は現在の東九州自動車道が建設半ばで、設立に関わった北九州地方の荷主にすら敬遠されるような状態が続いていました。これに原油の価格が就航当時から倍以上まで跳ね上がったことや、高速道路ETCの振興策として2005(平成17)年から「コーポレートカード(大口顧客などトラックの一律割引)」が導入されたことなどでトラックの長距離陸送が多くなります。結果、この航路は運航会社の経営破綻によって、わずか3年で幕を閉じました。

現在は東京湾フェリーのみが発着する久里浜港。シャトル・ハイウェイラインの船は写真のフェリーの奥に停まっていた(宮武和多哉撮影)。
●マリンエキスプレス(京浜航路)
・区間:川崎港~高知新港~日向細島港、川崎港~那智勝浦港~宮崎港
・1971(昭和46)年就航(川崎~日向細島)、2005(平成17)年までに全航路廃止
現在の浮島IC(東京湾アクアライン)付近にあった川崎港ターミナルを拠点に、木更津などへの航路を持っていた日本カーフェリーが就航した航路です。1972(昭和47)年には、実際の航海中に撮影された特撮ドラマ「仮面ライダー」で、ショッカーや死神博士がそのままの格好で船内を歩き、船員に変装して尾行する一文字隼人(仮面ライダー2号)と同じ船上で旅を満喫したことでも知られています。
ただ、高速バスの台頭や高速道路の整備で、両航路とも旅客・貨物利用ともに低迷、2002(平成14)年には、那智勝浦港(和歌山県)、高知新港への寄港で打開を図ろうとしました。しかし、こちらも折からの原油高が最後の致命傷となってしまった感があります。
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2021年現在は原油高もかつてほどではなく、かつ東京九州フェリーは新造船で安定した高速航行ができ、高速道路を利用しやすい場所に港を構えています。そういった意味で就航のタイミングは、過去の航路より整っていると言えるでしょう。
これからの高速道路開通で一挙に優位に?しかし解決が必要な問題も一方、関東の近郊では2010年代後半から、クレーンを使わずトラックやシャーシをそのまま積み込めるRORO船(ロール・オン・ロール・オフ船)を使って九州へ向かう航路が相次いで誕生しています。代表的なものとしては、商船三井フェリーの東京~苅田(福岡県)航路や、川崎近海汽船の清水(静岡県)~大分航路などが挙げられ、貨物輸送にも期待が持たれている東京九州フェリーにとって、競合する場面も出てくるかもしれません。また最近では、コロナ禍の余波で運賃低落が著しい首都圏~大阪をトラック、そこから九州までフェリーを使うルートも存在感を増しています。
トラック輸送は、いわゆる「働き方改革」によって運転手の休憩時間や拘束時間の上限が厳密になってきており、2024年からはさらに、時間外労働の上限規制も適用される予定です。首都圏~九州間の海上輸送へのシフトは、CO2削減の面でも優位になることもあり、ゆっくりと続いている状況です。
その中で新規参入の東京九州フェリーは、貨物輸送の面でオーシャン東九と競合するというより、協力関係を築いていくことになりそうです。東九はもともとトレーラーだけを運ぶ無人輸送が多いうえ、時間がかかるぶん運賃も安めです。一方、コンテナ滞留・作業スペースが小さい横須賀新港を拠点とする東京九州は、有人トラックでの利用が主になると想定されます。

オーシャン東九フェリーの「フェリーびざん」(画像:写真AC)。
ただ横須賀新港という立地は、高速道路ネットワークの構築という意味では、未だ途上にあります。圏央道の一部として藤沢・茅ヶ崎などにつながる横浜環状南線と横浜湘南道路(2025年度までに開通予定)が、横浜横須賀道路に接続すれば、厚木や八王子方面からのアクセス性が高まり、東京九州フェリーの存在感は一挙に増すでしょう。
加えて往路・復路とも効率良い荷主どうしのマッチングは必須で、例えば既存の東九のように、3つの港を生かしたマヨネーズ出荷+生活雑貨出荷+パレット出荷で輸送効率・環境負荷を劇的に改善したような成功例が欲しいところです。
なお、横須賀新港をこれまで利用してきた自動車運搬船やマグロの荷役などにとっては、フェリー就航がこの妨げとなる問題が出ており、対策が必要とされます。
※一部修正しました(7月5日9時40分)。