街着としてワークウェアをファッションに取り入れる流れのなか、ナッパ服と呼ばれた旧国鉄の作業着に注目が集まっています。これを再解釈したアパレル商品もつくられるほどですが、国鉄当時のナッパ服も、ヴィンテージのアイテムとして人気になっていくのでしょうか。

国鉄時代のナッパ服にインスパイアされたアパレルが続々!

 かつてナッパ服と呼ばれた現場労働者の作業着がありました。着用の代表例として挙げられるのが、旧国鉄の機関士や線路作業員など。青系のものが多く、その語源は「洗うと皺くちゃになり菜っ葉のようだから」「生地の表面がナップブランケット(毛布)のようにけば立ったから」など諸説あります。

 このナッパ服がいま、ワークウェア・ブランドのあいだで魅力的なデザインソースとして注目されているようです。

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ナッパ服を着た人。三笠鉄道村のSL体験運転にて(小坂弘之撮影)。

 たとえば、アメリカンワークウェアを現在風にアレンジしているPherrow's(フェローズ)は、アメリカ開拓時代の鉄道労働者(レイルローダー)たちが着ていたアメリカンヴィンテージに対する“ジャパニーズヴィンテージ”として、国鉄時代のナッパ服を題材にしたジャケットを作りました。

 ナッパ服ならではの懐中時計を入れるウォッチポケットなど意味のあるディテールを残し、シルエットを現代風に変え、アメリカンワークウェアのストライプ柄を取り入れています。購入する人のほとんどは、国鉄もナッパ服も知らない世代だといいます。

 メンズだけではなくレディースもありました。ファッションとしてワークウェアを提案するブランドNAPRON(株式会社Ray)の「NAPPA JACKET」です。ナッパ服は安価な量産品でしたから、機能を重視し無駄を排除しています。

作業のためにつけられたポケットの現代では見られない配置や、身頃のラウンドした形にセンスを感じたそうです。

 素材にはヨーロッパのワークウェアに使われる畝(うね)のサージ(スーツなどにも使われる滑らかな手触りの生地)を使い現代風にアレンジしています。こちらも、元のナッパ服を知らないバイヤーたちから多くの発注があったとか。

 このように日本のナッパ服が、一方ではアメリカンテイストとミックスされ、もう一方ではヨーロッパのムードが取り入れられ、新しいファッションが生み出されているのです。

ヴィンテージのナッパ服も人気? 鉄道趣味ショップに聞くと意外な答えが…

 では、国鉄時代に使われた古着としてのナッパ服は、どうなっているのでしょうか。鉄道趣味アイテムを扱う交通趣味ギャラリー東京新橋本店にて、代表の大谷 豪さんに話を聞くと、ちょっと意外な答えが返ってきました。

「ナッパ服は需要がなく、いわゆる死にスジ商品で棚出しすらしていませんでした。古着市場では古い本物の作業着にそれなりの需要と人気があるのですが、ナッパ服の場合、とにかく量が多すぎます。最盛期の国鉄職員の数は全国におよそ46万人、モノが豊富すぎるのです」

 近年は鉄道趣味の市場が活況を帯びていますが、ナッパ服の実態は全く反対であるようです。その背景について大谷さんは、「楽しみ方が広がったことで、モノを収集するファンが年々減少している」と話します。

 鉄道ファンが、撮り鉄、乗り鉄、音鉄などそれぞれの楽しみ方にお金をかけるようになる一方で、かつて人気のあった収集趣味は減ってきているのだとか。収集の対象を人気順にすると、第一に模型、第二に部品(車両の部品や備品、看板など)であり、その次が装備品。

その装備品に属するウェアもアイテムで人気に差があり、帽子、制服、スーツときて、その下が国鉄ナッパ服だそうです。

国鉄の「ナッパ服」に注目 ワークウェアブームで再評価の動き 鉄道ファン的には?

ナッパ服にインスパイアされたNAPRONの「NAPPA JACKET」(画像:Ray)。

「ファンが収集する対象は細分化していて、例えば好きな電鉄会社のものなどに絞りこまれます」と大谷さん。古いものよりも、出回りにくい現行品に希少価値を感じるのがマニアの心理のようです。

 交通趣味ギャラリーの販売品では、モノの状態にもよりますが、帽子がおよそ5000~6000円なのに対し、ナッパ服は上下セットアップでおよそ5000円。帽子には模型イベントなど催事での着用や、ファン仲間へのプレゼントといったニーズがある一方で、ナッパ服は仲間を喜ばせるアイテムとしてのインパクトに欠けるのかもしれません。

 鉄道ファンの間では存在感が薄くなっているナッパ服ですが、欧米の鉄道ファンの間では、機関士や鉄道員の作業服がヴィンテージ化することもあります。また、ナッパ服と同じように作業着として誕生したオーバーオールは、ファッションとして定番化し、古い本物がヴィンテージ化しています。これからナッパ服も、ファッションの領域で、オーバーオールのような存在になっていくのでしょうか。

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