福井県永平寺町で、廃線跡を整備した遊歩道を活用し、自動運転車両による輸送サービスが行われています。まもなく本運行から1年となるこの路線、乗り心地や利用状況はどのようなものでしょうか。

全国初の「無人・自動運転バス

 福井県永平寺町の鉄道廃線跡で、無人車両による自動運転モビリティ「Zen Drive」の運行が行われています。

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福井県永平寺町で運行されている自動走行車両(乗りものニュース編集部撮影)。

 無人運転が行われている現場は、旧・京福電鉄永平寺線の終点・永平寺駅付近の廃線跡約2km。鉄道は2002(平成14)年に廃止され、廃線跡は「永平寺参ろーど」と名付けられた歩行者自転車道として整備されていました。

 政府の掲げた「ラストマイル自動運転」(最寄り駅などから最終目的地までを自動運転移動サービスで結ぶシステム)の実現に向け、2018年11月から実証運行が開始。その結果をうけ、2020年12月から本運行となりました。

 車両は定員6名の電動カート。スタッフは司令所から遠隔で車両を操作します。操作と言っても、通常は操縦に類する作業を行わず、あくまで乗降確認と発進確認のみです。

 操縦の主体が運転手ではなくシステムである「自動運転レベル3」で、さらにスタッフが車内にいない「完全無人運転」で、客を乗せて運行するバス路線というのは、全国初の事例でした。2021年10月現在、茨城県境町で2路線を運行する自動運転バスとあわせて2例のみとなっています。

バスというより「新交通システム」?

 荒谷ののりばに来てみると、そこには2台の小型車両がぽつんと佇んでいました。

運転手はいません。好きに乗り込み、発車時刻が来ると自動で発車する仕組みです。座席の手すりには金属板を組み立てた貯金箱のようなものがあり、そこに運賃の100円を投入します。

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のりば付近に設置されている「荒谷」の駅名標(乗りものニュース編集部撮影)。

 のりばには「荒谷」の駅名標がありますが、旧永平寺線の駅はのりばから約700m北西にありました。当時の駅名は「市野々」で、1930年代の開業当初の駅名が「荒谷」でした。

 発車するとモーターの音とともに、永平寺参道下の志比停留所に向けて緩やかな勾配をのぼっていきます。ディスプレイの表示では、運転速度は12km/h程度。路面を見ると、赤茶色に塗られた中に一筋の黒い線が引かれています。これは「電磁誘導線」と呼ばれ、車両はこの線と沿線に埋め込まれたタグチップに導かれる形で経路を認識しているのです。

 運行ダイヤでは、荒谷と志比の両側から同時発車となります。そして中間地点で行き違いが行われます。

上り車両が待避所で待機。下り車両が横を通過していきます。

 バスでありながら、運転士はおらず、走る車内には自分ひとりだけ。しかし新鮮な乗車感覚ではありませんでした。無人の電動車両が路面をタイヤで走っているのは、振動や音、速度感などがむしろ、ゆりかもめをはじめとする「新交通システム」のほうに似ているのです。

 10分ほどで志比に到着。

無人で動く乗りものを見て、物珍しさに写真を撮る人もいます。永平寺への参拝客の多くは自動車で直接参道下まで来るのか、写真だけ撮って引き返す光景もちらほら。とはいえ、20分間隔で1日14往復の頻発運転のためか、運賃箱はずっしり重く、そこそこの利用者がいるようでした。

平日と休日で「異なる顔」、今後はどうなる?

 旧永平寺線の廃線跡を活用した「永平寺参ろーど」には、平日はえちぜん鉄道の永平寺口駅(旧永平寺線との分岐駅)付近にある東古市停留所から志比まで、同じ車両を利用し自動運転が行われています。こちらは無人ではなく、補助要員つきの「レベル2」自動運転。上下線各4便運行されています。

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永平寺町の自動運転サービスの運行ルート(国土地理院の地図を加工)。

 今後、残りのこの区間で無人運転が行われることはあるのでしょうか。永平寺町の担当者は「無人化によりコスト削減などメリットも多く、町としては希望もある。ただ、国の施策との兼ね合いもあるため、町だけで進めることも難しい」と話します。

 東古市(永平寺口駅)を発着する補助員つきの「通し運転」が平日のみとなっているのは、実証実験の結果、「土休日は観光客の利用が大半だが、その観光客で東古市から志比まで通しで乗る人がほとんどない」ことが分かったためです。低速運行のため、並行して国道を通行する路線バスに比べて時間がかかるなどの背景があります。逆に平日は、えちぜん鉄道からの乗り継ぎや、沿線から永平寺までの移動などで、非無人化の区間を利用する地元利用者は多いといいます。

 平日と休日、異なる自動運転レベルで、異なる客層を持つ「Zen Drive」。1日あたり平均30~40人の利用があります。また、沿線にある志比南小学校の児童の足として、下校専用便が両方向へ運行。毎日6~7人の児童が通学に利用するほか、雨天や猛暑日にはより多くの児童が利用し、続行便で対応する場合もあるとのこと。

「Zen Drive」という名称にも込められた「自動走行という先端技術が、人に寄り添うものであり、永平寺町に根差した文化と、自動走行という文明が調和し、共生できる社会になる」という期待をうけて、着実に現地に浸透していることがうかがえます。