少し離れた線路どうしを結ぶ「短絡線」。路線図にはまず載らず、距離も短いなどと地味な存在です。
2つの鉄道路線が直交していたり少し離れて並行していたりする場合、その間に短い線路を建設し、列車が行き来できるようにすることがあります。その線路は往々にして短絡線と呼ばれます。
短絡線は長くても2kmほど、通常は数百mと短いものばかりですが、路線によっては旅客流動を大きく変えたものも存在します。今回はそのような「歴史を変えた短絡線」を5つ紹介してみます。
福島駅・盛岡駅の新在短絡線(アプローチ線)矢印の高架線が東北新幹線と田沢湖線をつなぐ短絡線(アプローチ線)。「こまち」はこの短絡線を通って秋田へ向かう(1998年、児山 計撮影)。
新幹線と在来線を結び直通列車を走らせることで、乗り換えをなくし所要時間を短縮する「ミニ新幹線」は、1992(平成4)年の山形新幹線開業により実現しました。
場所はJR福島駅。奥羽本線の南側に新在短絡線を設け、ここを経由することで東北新幹線と奥羽本線が結ばれ、山形新幹線として運行が可能になりました。同様の例はJR盛岡駅から田沢湖線に乗り入れる秋田新幹線にも見られます。
ミニ新幹線の実用化によってフル規格では採算が難しい地域でも、比較的安価に新幹線の恩恵を受けられるようになりました。
こういったミニ新幹線の開業もあり、2002(平成14)年以降は東北全県に新幹線が到達。福島・盛岡両駅の短絡線が、東北地方の交通網の充実に大きく寄与しているといってもいいでしょう。
近鉄特急には絶対に欠かせない短絡線大阪、京都、奈良、そして三重、愛知にネットワークを展開する近畿日本鉄道(近鉄)では、特急の運行で重要な短絡線が2か所存在します。
中川短絡線・八木新ノ口短絡線

京都線の賢島行き特急は八木新ノ口短絡線を通って京都と伊勢・志摩を直結。近鉄の観光ルート拡大に寄与している(児山 計撮影)。
ひとつは伊勢中川駅(三重県松阪市)を短絡する中川短絡線、もうひとつは大和八木駅(奈良県橿原市)を短絡する八木新ノ口短絡線です。いずれの短絡線も近鉄特急ネットワークにはなくてはならないもので、中川短絡線は名阪特急が、八木新ノ口短絡線は「しまかぜ」「伊勢志摩ライナー」なども含めた京伊特急が走行します。
中川短絡線は名古屋線と大阪線をつなぎます。両線は並行するように伊勢中川駅に入りますが、そのままでは直通列車はスイッチバックしなければなりません。短絡線を通ることで、駅を通らず直通が可能です。
八木新ノ口短絡線は、ほぼ直角に立体交差する大阪線と橿原線をつないでいます。
大崎支線

大崎支線を通って大崎駅に進入する湘南新宿ラインの電車。横浜以遠と副都心をダイレクトに結び、首都圏の旅客流動を大きく変えた(児山 計撮影)。
JR西大井駅(東京都品川区)を上り方面に発車してしばらくすると、品川方向と新宿方向に線路が分岐します。一帯は蛇窪信号所と呼ばれ、新宿方向の線路はここから大崎駅へ向かいます。この2kmの路線が通称 大崎支線と呼ばれる短絡線で、元々は戦前に貨物列車用として建設されました。
現在は湘南新宿ラインや相模鉄道からの直通列車がここを通って新宿へ向かいます。それまで横浜方面から副都心である渋谷・新宿へ向かうには、品川など山手線の駅まで出て、乗り換えが必要でしたが、大崎支線を経由することにより、東海道本線や横須賀線沿線から副都心方面への直通を実現。首都圏の流動を大きく変えたといえるでしょう。
阪和短絡線・梅田貨物線JR阪和線はその前身が私鉄の阪和鉄道ということもあり、ターミナルの天王寺駅は櫛形ホームとなった行き止まり式でした。阪和線から大阪環状線への短絡線は古くからありましたが、当初は貨物列車の受け渡しに使われていました。

西九条駅から梅田貨物線に入る関空特急「はるか」。
旅客列車が常時、短絡線を走るようになったのは、1989(平成元)年7月に新しく阪和短絡線が完成してから。この短絡線は2008(平成20)年、複線化などさらに改良が加えられ、現在は関空快速や関空特急「はるか」などが頻繁に運行されています。
ちなみに「はるか」は西九条駅から梅田貨物線を通って東海道本線へ直通するなど、短絡線や貨物線を巧みに利用して京都駅へ向かいます。
これらの短絡線や貨物線が、関西国際空港や和歌山方面から多彩な行先の列車を設定可能にしており、「はるか」はライバルの南海電鉄にはできない京都へのダイレクトアクセスを実現しています。
西武・秩父鉄道短絡線

短絡線を通過し秩父鉄道線に入る西武4000系電車。この列車は自社線の終点を通過するというユニークな運転を行う(児山 計撮影)。
西武秩父駅(埼玉県秩父市)は秩父農工高等学校の跡地に造られた関係で、乗換駅とされている秩父鉄道の御花畑駅(同)とは離れた位置にあります。両線を利用する場合は一度改札を出て乗り換えなければなりません。しかし、観光需要はもとより秩父鉄道沿線から通勤する利用客からの要望もあり、1989(平成元)年、西武秩父駅に短絡線が建設されました。西武線から秩父鉄道の長瀞方面に向かう列車は、ひとつ手前の横瀬駅(埼玉県横瀬町)から短絡線を通って秩父鉄道に乗り入れます。
これによって西武鉄道は秩父観光にさらなる力を入れることとなり、一方で同じく秩父鉄道に直通していた東武東上線は乗り入れを縮小ののち、1992(平成4)年に廃止しました。
ここで紹介した路線のほかにもたくさんの短絡線が日本全国に建設されています。普段何気なく乗っている列車も、もしかしたら短絡線のお世話になっているかもしれません。
※誤字を修正しました(12月16日21時30分)。
【映像】東京メトロ「路線図にない線路」を行く――前面展望