南関東を中心に1都6県を守備範囲とする第1師団が、戦車大隊と偵察隊を廃止して偵察戦闘大隊を新編するという大改編をしました。新たに生まれた偵察戦闘大隊とはいったい何をする部隊なのか、陸自OBが解説します。

陸自屈指の伝統ある戦車部隊、3月末で廃止

 首都東京に司令部を置き、周辺1都6県の防衛警備や災害派遣、国民保護などを担うのが、陸上自衛隊の第1師団です。この師団は「1」の数字からわかるように陸自屈指の歴史を持つ部隊で、1962(昭和37)年の発足から今年(2022年)でちょうど60年を迎えました。

 このような伝統ある部隊が、節目の年に大きく編成を改めました。一体どのような改編だったのか、そして改編されたことで今後どうなっていくのか、ひも解きます。

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長年在籍した駒門駐屯地を出発する第1戦車大隊の16式機動戦闘車。次に来るときは演習などの際にゲストとして訪れることになる(武若雅哉撮影)。

 今回の第1師団改編では、2つの部隊が廃止され、代わりに1つの部隊が新編されました。始まりは2022年3月15日で、まず静岡県の駒門駐屯地に所在する第1戦車大隊が、そして翌16日には東京都の練馬駐屯地に所在する第1偵察隊が隊旗を返還し、17日にそれぞれなくなりました。

 そして新たに生まれたのが、17日に発足した第1偵察戦闘大隊です。この部隊は、東京都と埼玉県の境に位置する朝霞駐屯地に新編されています。

 そもそも第1戦車大隊とは、1952(昭和27)年に群馬県の相馬原駐屯地で発足した「警察予備隊総隊特別教育隊」を母体とした戦車部隊です。その2年後の1954(昭和29)年9月に前身となる第1特車大隊へと改編。

そして1962(昭和37)年1月に第1戦車大隊と名称を変更し、静岡県にある駒門駐屯地へと移駐しました。

 第1戦車大隊は過去にM4A3E8「シャーマン」中戦車やM24「チャーフィー」軽戦車といったアメリカ軍供与戦車の運用から始まり、戦後初の国産戦車第1号となる61式戦車、そして近年では74式戦車と10式戦車を装備するなど、90式戦車を除いて、陸上自衛隊が過去導入した戦車のほぼすべてを扱ってきた実績を有しています。

2つの部隊を廃止し1つの部隊を新編

 一方、第1偵察隊は、1951(昭和26)年に警察予備隊第1管区隊偵察中隊として発足したのが始まりです。1962(昭和37)年に第1管区隊は第1師団へと改編しますが、それに合わせて偵察中隊は第1偵察隊へと改称します。なお、当時は第1戦車大隊と同じ群馬県の相馬原駐屯地に所在していましたが、このときの改編で練馬駐屯地へと移駐しています。

 第1偵察隊は、当初こそ三菱ジープ(1/4tトラック、のちに73式小型トラック)や偵察オートバイ、レーダー装置などを装備していましたが、のちに82式指揮通信車や87式偵察警戒車、軽装甲機動車などを用いるようになり、一定の装甲車両の運用も行うようになっています。

創設60年目の大改編 第1師団に新編の「偵察戦闘大隊」とは 首都の護りどう変わる
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練馬駐屯地を出発して国道を走る第1偵察隊の車列(画像:陸上自衛隊第1師団)

 いうなれば第1戦車大隊は、第1師団の決戦戦力としての役割を持ち、第1偵察隊は師団直轄の情報収集部隊として敵情の解明などを担っていました。

 この両者を廃止して新たに誕生した第1偵察戦闘大隊。名称に「偵察」と「戦闘」の両方の単語が入っていることから、普通に考えたら「戦車大隊」と「偵察隊」が合体してひとつ部隊になったと考えがちです。しかし、初代の第1偵察戦闘大隊長に就任した徳永2佐が訓示の中で述べたのは、「偵察戦闘大隊はあくまでも新しい部隊であり、昔の騎兵に戻った」ということでした。

 この徳永2佐のコメントが意味するところは、どこにあるのでしょうか。

従来装備、10式戦車&74式戦車の行方

 調べてみると、第1偵察戦闘大隊は、その部隊名のとおり、まずは「偵察」を行います。

有事の際には敵の状況を監視し、災害派遣などでは被災地の状況をつぶさに確認して、各種情報を第1師団のトップである師団長へ報告するのが本分になるようです。しかし、これだけでは従来の偵察部隊、すなわち第1偵察隊と大差がありません。そこで登場するのが、偵察だけでなく機動打撃も得意とする16式機動戦闘車です。

 16式機動戦闘車を運用する戦闘中隊が隷下に編成されていることで、偵察戦闘大隊の役割である偵察を実行しつつも、即応機動連隊が移動した地域に展開して通信を中継し、さらには偵察中に発見した敵部隊に対して必要に応じ射撃を行うなど、積極的な威力偵察ができるようになっているのです。

 また、騎兵の名の如く、膠着した戦闘場面を打開するため高い機動性を活かして敵の側方に迂回、敵に対して不意急襲射撃を行うことで、敵部隊をかく乱させることもできるのではないでしょうか。

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朝霞駐屯地で行われた第1偵察戦闘大隊の編成完結式で隊旗を受領する第1偵察戦闘大隊長(武若雅哉撮影)。

 陸上自衛隊全体でみても、偵察戦闘大隊の発足は、福岡県に所在する第4師団隷下の第4偵察戦闘大隊に続き2例目です。現場レベルでの部隊運用はまだまだ手探り状態ですが、普通科連隊や即応機動連隊などと連携することで、偵察戦闘大隊は新たな時代の国防に必須となる骨幹的部隊へと成長することでしょう。