北海道新幹線の延伸工事が進む中、並行する函館本線の通称「山線」区間の廃止について沿線自治体が合意しました。とりわけ利用が多い余市~小樽間も、結局廃止に。

転換バスの在り方について、まだまだ課題は残っています。

函館本線「山線」全長約140kmをバス転換

 2030年度の開業を目指して北海道新幹線 新函館北斗~札幌間の工事が進む中、並行するJR函館本線のうち「山線」と呼ばれる長万部~小樽間(140.2km)について、沿線自治体が廃止・バス転換の合意に至りました。2022年7月に行われた「第14回北海道新幹線並行在来線対策協議会」では、そのバスについて「4区間に分けて運行形態を検討」との方針が示されています。

 これまでは、該当区間の中でも比較的利用者が多い余市~小樽間の存続に向けて話し合いが持たれていましたが、存続にかかる初期投資・コスト負担の問題をクリアできず、最後まで存続を模索していた余市町も廃止を容認。一部地域では新幹線駅開業に伴う再開発のために転換を前倒しする要望も出ており、今後は「どのような転換バスを作っていくか」というプランの形成が急がれます。

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余市駅。朝7時02分発の小樽・札幌方面行きに通学生が集中する(宮武和多哉撮影)。

“山線”沿線の1市8町が鉄道廃止・バス転換に向けて抱える悩みはさまざま。例えば前述の小樽~余市間は輸送密度(1kmあたりの1日平均旅客輸送人員)が2144(2018年度)とJR北海道管内のなかでも高く、余市駅では朝7時台の小樽・札幌方面への列車に200人ほどの利用があり、乗降で発車に手間取るほど。余市町は国勢調査の分類で「札幌都市圏」(通勤・通学が10%以上)に入るほどに小樽・札幌への移動需要が多く、現状でも60往復程度運行されている既存の路線バス(北海道中央バス余市小樽線など)で、朝晩の鉄道に集中する需要をどれだけこなせるかが課題となります。

 一方、長万部~倶知安間は利用が極端に少なく、特に長万部方面では1日の利用者が10人以下にまで落ち込んでいる駅が続き、本数も1日5往復まで減少します。そして一部区間で並行するバス(ニセコバス福井線、長万部線)も1日1~2往復ほど。

既存のバス路線を生かしつつ行われる転換バスづくりの課題が、地区ごとにまったく違うこともあり、7月の対策協議会でも4区間に分割して検討が行われました。

 実際の現地を見ると、ピーク時の移動実態や、転換バスが走る道路状況など、地域ごとに課題が異なります。

1000人の通学生 どうバスを「待つ」? 【余市~小樽】

 小樽市内には6つの高校があり、余市~小樽間は小樽方面に1000人以上が移動するという朝晩の通学需要によって支えられてきました。所要時間は鉄道なら20分少々、既存の路線バスでは40分少々かかりますが、鉄道廃止後は、学校が集積するエリアへの余市小樽線の直通や、そのほか塩谷線・最上線も含めた再編などでカバーすることが想定されています。

 そしてもう一つ、今回の会議で掘り下げられていない転換バスの課題は、バスを「待つ環境(乗車場所)の整備」と「交差点のバス渋滞対策」ではないでしょうか。

 現在のJR余市駅は観光センターと併設された駅舎があり、寒い冬でも発車直前まで列車を待てるほか、駅前のロータリーも広く、家族による送迎も多く見られます。

 しかし、現在の路線バスの中心である「余市駅前十字街」バス停周辺は歩道が狭く、最も発着本数が多い国道5号沿いのバス停はバスベイ(退避場)が何とか1台分。片側1車線のこの国道は余市町内の24時間交通量が2万台前後と混み合うことも多く、現状でもバスの遅延などによって、退避できない後続のバスが車線を塞いでしまうケースも見られました。

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余市町内の中の川橋バス停。山線沿線のバス待合室の中でも、かなり堅牢な作りだ(宮武和多哉撮影)。

 今回の会議でも利用者が「待てる」環境として、余市駅前の乗り継ぎ拠点整備(余市駅前ロータリーへのバス乗り入れ)が想定されていますが、現行のロータリー乗り入れ便のダイヤから推察すると、バスに2~3分のロスが生じると推測されるほか、後志地方の国道5号の中でも交通量の多い交差点への負担や、敷地内で送迎のクルマやタクシーとの交錯も心配されます。この周辺では国道と鉄道がある程度並行していることもあり、鉄道の廃止後は駅前後のわずかな距離でも、線路やホームをバス専用道に転用するといった策を打てないものでしょうか。

 国道5号上にあるバス停のなかには、石積みの待合がつくられたものもいくつか見受けられますが、こうした待合が老朽化しているケースも。余市駅や仁木駅に集中する家族送迎を分散して“近所で乗れる”状態にするには、改築が必須でしょう。

転換バス出しても都市間バスに食われる?【余市以南】

 余市町以南の後志(しりべし)地方南部(ニセコ町・倶知安町・共和町など)では、バスをできるだけ速達化させる要望もあるようです。

 現在、これらの地域から小樽・札幌へ直通する手段として、然別駅~小樽駅間でほぼ鉄道と並走する都市間バス「いわない号」、余市~小樽間で併走する「よいち号」「しゃこたん号」などがありますが、これらは国道5号経由です。

 しかし2018年に高速道路の後志自動車道が余市IC(余市の市街地から3kmほど南東、JR塩谷駅近辺)まで開通したことで、国道5号の余市中心部を経由せず移動できるようになりました。

 余市町以南の仁木町・共和町などでは、都市間バスの後志道利用を望む声もあるようです。また余市町も、いま市街地(ニッカ蒸留所横)にある道の駅をIC近くに移転させてバスターミナル化する構想を持っており、今回の協議会でも一部のバスを後志道経由に振り替える構想も話し合われています。

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仁木町内を走行する「高速いわない号」(宮武和多哉撮影)。

 かたや鉄道転換バスは倶知安~余市間で忠実に鉄道ルートをトレースし、余市で系統が区切られる見込みです。現状でも鉄道より本数が多い(1時間1~2本)「いわない号」などの動向によっては、ローカル輸送を担うであろう転換バスの需要が食われてしまう可能性もあります。

 ただし後志道は新幹線・新小樽駅予定地の近辺を通っているものの、そこは小樽市街地からかなり南側の山の中で、ICやバスストップの設置も現状では困難との判断がなされています。余市以南からの都市間バスが後志道を使うことで、札幌方面への直通ならば間違いなく時間を短縮できますが、小樽への移動を後志道でどこまで担えるかはまだ不透明です。

そもそも運転手確保できるの? 求められる「次」を見据えた話し合い

 今回のように140kmもの長い鉄道路線を一挙にバス転換するケースは珍しく、その距離は、道内でJR発足後に相次ぎ廃止された名寄本線、天北線などに匹敵します。その代替バスの運転手確保には、相当の苦労を要するでしょう。

 というのも、現在では道内のバス事業者の7割が人員不足で、かつ大型免許保持者の8割が50歳以上という状況です。札幌からの距離を考えると“通い勤務”は困難ですから、一部の人には後志地方へ移住してもらう必要があると考えられます。

 山線沿線のバス会社でも、たとえばニセコバスはコロナ以前から経営不振と運転手不足に悩まされ、鉄道との並行区間である黒松内~長万部駅間を2019年に1日1往復まで減便したばかり。苦戦が予想される蘭越駅以南では、早い段階で大型免許を必要としない車両への転換などが図られるかもしれません。

 この地方に限りませんが、北海道における冬のバス運行環境は厳しく、鉄道の「駅舎がある」「渋滞がない」「揺れにくい・遅れにくい」といった部分は、鉄道の大きなアドバンテージとなっていました。しかし、バスの走行環境は変わってきています。海際の断崖絶壁を延々と走り、海からの強風が乗り心地にも影響していた余市~小樽間の国道5号は、平成中期ごろから改修が進み、冬場の運行のネックとなっていた余市町・小樽市境のフゴッペ・忍路の新トンネルが開通するなど、大半の区間が内陸経由になりました。

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国道5号で2021年に開通したばかりの新塩谷トンネル(左)。旧道は封鎖された(宮武和多哉撮影)。

 後志道という非常時のバックアップとなるルートも完成したいま、鉄道がバスに転換されることで失われるものを取り返すよりは、共和町・仁木町境の「稲穂峠」の迂回路となる倶知安余市道路(後志道の延伸部)の早期整備など、「少しでも車や転換バスが通りやすいようにしてください」と動くしたたかさがあっても良いのではないでしょうか。

 今後の動きとしては、駅構内に調査員を配置しての移動需要の調査が2022年7月中旬の平日3日間に予定され、その結果を踏まえて9~10月に行われる「第15回北海道新幹線並行在来線対策協議会」で中間報告が行われる予定です。沿線自治体による次回の協議会は具体的な転換バスについて方向性を話し合う重要な場所となります。前出の通りバス転換は、新幹線開通をまたず、早ければ2026年度にも行われる見込みです。

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