アメリカでは、発展途上国の空軍よりも充実した規模と装備を持つ「CAP」なる民兵組織が活動しています。航空自衛隊よりも長い歴史を持つこの組織は、日本にも参考になるかもしれません。

空軍州兵や予備役とは異なる組織「CAP」

 昨今、南シナ海などで漁船を装いながら武装した民兵組織が、巨大な船団を組んで海の平和を脅かしているというニュースを時々目にします。日本ではなじみのない「民兵」という組織ですが、発展途上国などに限らず、欧米先進国でも組織されていることがあります。

 なかでもアメリカには、世界最大の規模を誇る航空民兵組織があります。正式名称は「シビル・エア・パトロール」(Civil Air Patrol)。略して「CAP」と呼ばれ、連邦法でも空軍を補助する組織として位置づけられています。

 CAPの歴史は古く、始まりは1930年代に遡ります。

当時、自家用機として普及が始まったばかりの小型飛行機でしたが、その可能性をギル・ロブ・ウィルソン氏はいち早く予見し、小型機でアメリカ陸軍航空隊(のちの空軍)を補助する役割を提唱したのです。これをニューヨーク市長のF・ラガーディア氏らが中心となり、具現化する形で設立したのがCAPでした。

 この「ラガーディア」なる名前、飛行機に詳しい方ならお気づきかもしれませんが、ニューヨークにあるラガーディア空港の由来となった人物です。彼は空港整備を公約に掲げ、当選後はそれを実行、その功績をたたえて命名されています。ラガーディア氏は先見の明があった市長で、その頃すでに航空機の有用性に気づいていたと言えるでしょう。

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アメリカ空軍や空軍州兵が運用する主要機とともに写真に収まるCAPの隊員たち。
中央にあるのがCAPの主力機のひとつであるセスナ172/182(画像:CAP)。

 1941(昭和16)年に創立されたCAPは、軍用機を運用する州兵航空隊や空軍予備役とは異なり、自家用機などに使用される航空機と同形式の小型機を使用し、隊員は民間人で構成されています。

 2023年2月時点での隊員総数は6万125人。メンバーのほぼ全てはボランティアですが、一部のフルタイム・スタッフは有給の職員です。CAPボランティアになるためには18歳以上のアメリカ市民もしくは同国の永住権保持者であることが必須で、入隊に際してはFBIによる犯罪歴検査もあります。

 CAPは本部をアラバマ州のマックスウェル空軍基地内に置き、全米50州に1600の支部を配置していて、軍隊に準じた階級制度と指揮命令系統を持っています。

12歳からメンバー加入が可能

 CAPの主な役割は大きく分けて2つあり、それに応じて2種類の異なる隊員で構成されていることが、CAPの最大の特徴となっています。

 1つ目の役割は小型機を用いた飛行任務です。その舞台は、小型機に適した沿岸警備や国境警備、遭難者の捜索、大規模災害時の情報収集や連絡業務など。こうした任務はシニア・メンバーと呼ばれる成人の隊員で行われます。現在、3万4760人のシニア・メンバーが在籍しています。

 2つ目の役割は航空教育です。

これは日本でいうところの航空少年団の規模拡大版だと想像するとわかり易いでしょう。こちらは12歳から21歳までのジュニア・メンバーで構成され、もっぱら航空教育がメインです。具体的には、航空機や空港施設に関する勉強、そしてグライダーや小型飛行機での体験飛行などです。

 シニア・メンバーの多くは自家用操縦士や飛行教官の資格を有しているため、ジュニア・メンバーはCAPを通じてパイロット免許に必要な訓練の一部を受けることも可能です。現在のジュニア・メンバーは2万5365人と発表されています。

え、みんな一般人!? 世界最大の航空民兵「CAP」 アメリカ空軍顔負けのお仕事とは
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アメリカ空軍のC-17「グローブマスターIII」輸送機とともに写真に収まるCAPのセスナ172軽飛行機(画像:CAP)。

 CAPは全米各地に飛行隊を配置していて、およそ560機の小型機を運用しており、最大規模の小型機ユーザーでもあります。それらの機体の多くはセスナ172型や182型などの単発機です。

 こうした組織力や装備を持つCAPが大活躍した事例があります。2021年9月に起きた、大型ハリケーン「アイダ」による被災です。この時「アイダ」は、アメリカ南部から東部を縦断して広い範囲に深刻な災害をもたらしました。

 被害が特に激しかったルイジアナ州の被害状況を把握するために投入されたのが、サウス・ダコタ州のCAP飛行隊でした。

被災地上空を飛行して多数の写真を撮影し、被害状況に関する詳しい情報を収集したのです。

 CAP機が収集した情報から、被害の分布や状況に関する詳しい情報が州政府や軍に提供され、効率的な救援活動の実施に貢献しました。この功績が認められ、2021年12月CAPサウス・ダコタ飛行隊の隊員たちは表彰されています。

日本にも海岸や山岳パトロールで飛ぶ民間組織あり

 不安定な国際情勢に直面しつつある日本においても、CAPモデルは参考になると筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)は考えています。CAPが実証しているように沿岸警備や違法操業の監視、生存者の捜索や災害情報の収集活動などは小型機が適しています。

 日本もこうした任務にあたるのを小型機へ置き換えることで、既存の官公庁機を他の任務に充当することが可能になります。現在、我が国では、このような任務には高性能なヘリコプターが用いられていますが、小型機であれば時間当たりの運用コストを10分の1以下に抑えることが可能になります。

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式典で、儀仗を実施したCAPのジュニア・メンバー。階級章など細かい徽章類のデザインの違いを除けば、ほぼアメリカ空軍兵士と同じ制服である(画像:CAP)。

 また、近い将来発生が予測されている南海トラフ大地震では、太平洋沿岸の広範囲にわたり甚大な被害が想定されています。さらに最近では、南海トラフ大地震と富士山の噴火が同時に起きる可能性も指摘され始めました。

 大規模震災が発生した際には、消防や自衛隊を総動員しても救助や救援活動にあたる能力は深刻なキャパシティ不足に陥ることが予想されています。想像を絶する大規模災害時の救援・救助活動の効率化には、ハリケーン・アイダで実証された手法が役に立つでしょう。つまり有人小型航空機による情報収集活動を行い優先度に応じた救援活動を行う救援活動の効率化です。

 もちろん、日本はアメリカのように自家用機が数多く登録されているわけではないため、CAPほど大規模に組織化することは難しいかもしれません。しかし、日本赤十字社直轄の「赤十字飛行隊」という特殊奉仕団が、自家用機を保有する個人オーナーや航空関連企業などで編成され、活動してきた実績があります。

「赤十字飛行隊」は大規模災害時の出動だけでなく、血液輸送や臓器搬送、海岸・山岳パトロール、不法投棄物の監視などを普段から行っています。

 ほかにも駐車監視員や嘱託警察犬のように、警察制度の一部民間委託といったことは行われているほか、山岳遭難捜索の民間チームなども存在するため、日本でCAPのような組織を作るにあたっても、それほどハードルは高くないと筆者は考えます。

 海洋国家であることと同時に、世界有数の地震大国でもある日本。我が国で、災害活動支援と沿岸警備能力の効率化・強化などを考えた場合、CAPモデルの導入を真面目に検討してもよいのではないでしょうか。