アメリカの大手防衛企業「レイセオン」のミサイル&ディフェンス部門を見学しました。現在進行形で、ウクライナで戦果を挙げている「パトリオット」用のレーダーも手掛けています。

どのような生産体制なのでしょうか。

アメリカ大手防衛企業の巨大工場

 2023年5月21日から26日にかけて、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)はアメリカ東海岸に面したマサチューセッツ州アンドーヴァーにある、アメリカの大手防衛企業「レイセオン」のミサイル&ディフェンス部門のオフィスおよび工場設備を取材しました。

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2023年4月、欧米が供与した地対空ミサイルシステム「パトリオット」がウクライナに到着した。ウクライナ国防大臣のツイートより。

 このアンドーヴァー工場は、広さ約200万平方フィート(東京ドーム約4個分)という広大な敷地内に、約5000人の従業員が働く9つの建物が配置されています。ここでは、現在ウクライナで大きな戦果を挙げている地対空ミサイルシステム「パトリオット」用のレーダーや、最新のイージス艦に搭載される艦載レーダー「SPY-6」など、レーダーをはじめとする数多くの製品が開発、製造されています。

イマーシブ・デザインセンターとは

 アンドーヴァー工場は、大きく分けて4つの施設に分けられます。

 まずは、レーダーの開発や各種シミュレーションを実施する「イマーシブ・デザインセンター」です。こちらでは最新のデジタル技術を活用して、実際の製品を作る前に、実物と寸分違わぬ精巧な3Dモデルをデジタル空間に作り出すことができます。これにより、事前に問題点を洗い出したり、運用時の使い勝手を良くするための工夫を試したりできます。

 つまり、ここで試行錯誤を繰り返すことで、実物を製造する前にその完成度を限りなく高めることができるのです。

巨大工場の特徴は「垂直統合」

 検証が終わると、続いて各部品の製造がはじまります。

アンドーヴァー工場には、レーダーを含めた電子機器には欠かせない半導体と、電子機器の性能を飛躍的に高める「窒化ガリウム(GaN)」をイチから製造する「GaNファクトリー」が置かれています。

 ここで製造された半導体は、続いて「レーダー生産ライン」に送られます。ここでは、半導体を各種の基盤回路に組み込んでレーダーの送受信モジュールを製造したり、レーダー用の各種金属部品を製造したりしています。

ウで大活躍「パトリオット」のレーダー製造工場へ潜入 フル稼働していないワケとは
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レーダーの送受信モジュールを製造する「アドバンスド・マテリアル・アセンブリ・ファクトリー」の様子(画像:レイセオン)。

 そして、これらの各種部品が最終的に集められるのが「ハードウェア・インテグレーション・センター」です。ここですべての部品が組み合わさって、ひとつの大きなレーダーが組み立てられます。

 このように、半導体から金属部品に至るまであらゆる構成要素をイチから製造し、それを組み立ててひとつの製品を製造する様子を、レイセオン社では「垂直統合」と表現していますが、アンドーヴァー工場ではまさにこの垂直統合を視覚的に体験できました。

 そして取材を通じて感じたのは、この「垂直統合」に加え「自動化」と「拡張性」という3つのキーワードです。順に見ていきましょう。

稼働率6割程度の部署も!?

 垂直統合では、以下のメリットを得られます。

(1)部品の製造段階から徹底した品質管理ができる
(2)電波の特定の周波数帯に最適化された半導体など、自社ならではの工夫ができる
(3)どこで誰がどの部品を製造しているのかが把握できるため、自社製品への信頼が高まる

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完成した部品を組み合わせてSPY-6を製造する様子(画像:レイセオン)。

 次に自動化ですが、アンドーヴァー工場では特に「レーダー生産ライン」と「ハードウェア・インテグレーション・センター」において、その作業の多くがロボットアームや精密製造機械などにより自動化されていました。

これにより、常に一定の精度を維持しながら大量生産が可能となっています。

 そして最後の拡張性は、工場の電気配線などは当初から施設の拡張を前提に組まれており、工場の建物を増築しそこに機械を置けば、すぐに生産能力を拡大することができるというものです。ちなみに取材時点でも、とある部署はそもそも稼働しているのが生産能力の6割程度ということで、施設の増築をせずとも、ある程度の需要増大には対応できる体制が整えられていました。

 昨今、日本でも防衛産業の規模を拡大し、海外への装備品輸出を目指そうという動きが高まっています。その観点から、レイセオン社の工場におけるこれらの取り組みは、今後日本でも重要になってくるように思われます。