名古屋~長野間の特急「しなの」に新型車両の投入が決定。車体傾斜機構として次世代の「振子式」が採用されます。
JR東海は2023年7月20日、名古屋~長野間の特急「しなの」383系電車を、新型の385系に置き換えると発表しました。まずは量産先行車を製造して走行試験を約1年間実施、目玉となる「次世代振子制御技術」の確認を行うとしています。
現行「しなの」383系(画像:JR東海)。
新型385系は、初代「しなの」の国鉄381系、2代目のJR東海383系に続き、「振子式」と呼ばれる技術を踏襲します。この振子式は、「しなの」とともに生まれ、発展していきました。
振子式は車体傾斜機構の一種。カーブ通過時に車体を内側に傾斜させることで、遠心力を緩和させ、高速で通過できるようにするとともに、乗客がカーブの外側に振られるのを防ぎ、乗り心地の向上にもつなげる目的で開発されました。膨大なコストをかけて線路を改良していくのではなく、車両技術でサービスアップを図ろうとしたのです。
車体傾斜機構は現在こそ複数の方式があるものの、国鉄が“自然振子式”の591系試験車両で試験を重ね、その結果を踏まえて誕生した初の量産車が381系でした。急カーブが多い中央西線(中央本線 名古屋~塩尻)と篠ノ井線が実用化路線として選ばれ、1973(昭和48)年7月、名古屋~長野間の電化にあわせて登場しています。
ただ、この方式ではカーブを通過した後に揺り戻しが起こるため、酔う人が続出。
現行の方式は、線路上の地上子で列車の位置を検知し、カーブまでの走行距離を計算しつつ、カーブの通過前から通過後までの傾きを制御しています。これにより「しなの」は現在も、基本の速度+最大35km/hという国内最速のカーブ走行を可能にしているといいます。
しかし、それでも“酔う”という人は後を絶ちません。
よりシンプルかつ正確に「振子傾斜」JR東海によると、現行方式では雨による滑走などが生じると、車輪の回転数などから割り出す走行距離の計算に誤差が生じ、振子傾斜の開始タイミングがずれる、いわゆる「振り遅れ」が乗り心地に影響するのだそう。
そこで、次世代の振子式では、線路の地上子によらず、車両のジャイロセンサーで車両とカーブの位置関係を常時監視、カーブ進入時の車体の動きを検知し、その時点から振子傾斜を開始させるように制御するといいます。
これにより、振子式車両で用いられる乗り心地評価指標について、次世代振子制御は現行と比べて約15%改善するそうです。

初代「しなの」381系。リニア・鉄道館にて(画像:写真AC)。
現在では車両傾斜機構として、簡易車体傾斜とも呼ばれる空気ばね方式が新幹線でも多く採用されているほか、一時期はJR北海道が空気ばねと振子式を組み合わせたハイブリッド車体傾斜システムなどを開発していました。それらではなく、車体の傾斜が大きい振子式が踏襲されたのは、やはり中央西線の線形ゆえのことなのかもしれません。
なお、いまも381系が現役の伯備線特急「やくも」の新型として2024年春以降の登場が予定されている273系では、「車上型の制御付自然振子方式」を採用します。
新型385系は走行試験ののち、2029年度頃を目標に量産車を投入する方向で検討を進めるといいます。テーマは「アルプスを翔ける爽風」。車両の両端の前面展望を確保し、中央本線を味わう旅を演出するということです。