三菱重工が液化CO2運搬船を完成。世界で排出削減が進められるCO2の輸送が、「新しいエネルギー産業」の一翼を担い、新たなビジネスチャンスとして世界の注目を集めています。

一体、どういうことなのでしょうか。

CO2を液化して運ぶ船

 液化CO2(二酸化炭素)輸送の実証試験船として建造が進められていた「えくすくぅる」(タンク容積1450立方メートル)の命名・引き渡し式が2023年11月28日、三菱重工業下関造船所で行われました。同船はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する「CCUS」(CO2の回収・利用・貯留)の実証事業に投入され、2024年10月頃から舞鶴~苫小牧間でCO2の輸送を行う予定です。

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三菱重工業下関造船所で完成した「えくすくぅる」(深水千翔撮影)。

 命名を行った経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部の笹山雅史氏は「地域レベルでの脱炭素化を達成するためには、CO2の国際的な輸出入が実現しなければならない。それを実現する鍵こそが、世界初の取り組みである低温低圧のタンクを実装したCO2輸送船であると考えている」と期待感を示しました。

 今回、竣工した液化CO2輸送船「えくすくぅる」は、CCUSを商用化する上で必要なCO2の液化・貯蔵・荷役と船舶輸送のプロセスを包括した船舶一貫輸送システムを確立するために建造されました。

 同船には新たに開発した船舶用のCO2カーゴタンクシステムが組み込まれており、中温・中圧(マイナス20度、2メガパスカルなど)から低温・低圧(マイナス5度、0.6メガパスカルなど)までの液化CO2を積載可能。これに加えて中温・中圧のLPG(液化石油ガス)も積載できます。

 建造に当たっては液化CO2のタンクシステムを含めて、三菱重工グループの三菱造船が設計から一貫して担っており、同社が持つLNG(液化天然ガス)船やLPG船の知見とガスハンドリング技術が活用されました。

 船主は山友汽船(神戸市)で、LPG輸送を専門としてきた日本ガスライン(松山市)が運航しながらCO2 の温度、圧力、流動などのデータ計測を実施し、最適な輸送方法や荷役手法を開発していきます。また、海運大手の川崎汽船も関わっており、日本ガスラインとともに実証データの解析を通じ、オペレーション技術の確立を図っていきます。

大気中に残るCO2の「輸送ビジネス」が生まれる

 NEDOは2030年頃までに、工場や火力発電所などから排出されたCO2を回収し、貯留・活用するCCUSの社会実装を目指しています。

 三菱重工によると2050年段階での世界のCO2 排出量は43~130億トン(2019年は約335億トン)。カーボンニュートラルを達成するには、残るCO2を大気中に放出せず全て回収し、資源として有効利用するか、地下800m以深の「貯留層」に封じ込めるといった対策が必要です。

 将来的にCCUSが広がった場合、CO2の輸送需要は10億トン以上に及ぶと予想され、バリューチェーンを構築するには、工場などから回収し液化したCO2を、海を隔てた貯留サイトやリサイクル拠点まで大量に輸送する船が必要となります。これまでも、炭酸飲料をはじめ食品用途などで液化CO2船が用いられていますが、これを運ぶ既存の1000~2000立方メートル型液化CO2船では、小型のため能力に限界がありました。

「二酸化炭素を大量に“運ぶ”船」ついに完成 まだ見ぬCO2輸送ビジネス「新しいエネルギー産業」の全貌とは
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「えくすくぅる」は巨大な液化CO2タンクを2つ積む(深水千翔撮影)。

「CO2の地下貯留を行うプロジェクトは、2050年カーボンニュートラルに向けて必要不可欠なプロジェクトだ。2050年には欧州、アメリカ、中国、インドの4地域で年間のCO2貯留量が40億トンを超える。これは日本のCO2排出量の約4倍にあたる数字で、まさに新しいエネルギー産業になると言えるのではないか」(資源エネルギー庁 笹山氏)

 こうした背景もあり、NEDOはCO2を供給地から利用・貯留地へ、年間100万トン規模で長距離かつ大量輸送することを想定した技術の研究開発に取り組んでいます。

日本の「造船復活」のカギに?

 実証試験では、石炭火力発電所(関西電力舞鶴発電所)で排出されたCO2を出荷基地で液化し、貯蔵タンクからローディングアームを通じて液化CO2を「えくすくぅる」に積載、北海道の苫小牧市まで海上輸送します。苫小牧では再びローディングアームを通じて液化CO2を陸上基地(北海道電力苫小牧発電所内)で荷揚げします。

 カーゴタンクには、さまざまな温度で液化したCO2を積載し、圧力などを含めタンク内の状態を変更して繰り返し輸送する計画です。

これにより、陸上基地の荷役設備や貯蔵用タンクの機能性も併せて評価し、船舶一貫輸送に最適なCO2の輸送条件を特定することで、大量輸送技術の開発につなげていきます。

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北海道苫小牧の液化CO2貯留実証施設(画像:NEDO)。

 こうした液化CO2輸送船の開発に、三菱造船は力を入れています。2022年6月には液化CO2船に搭載する球形カーゴタンクシステムの基本設計承認(AiP)をフランス船級協会ビューロベリタスから取得。2023年5月には日本シップヤード(NSY)と外航液化CO2輸送船の共同開発に向けた検討を開始したと発表しました。さらに6月には日本郵船と共に技術開発を進めていた「アンモニア・液化CO2兼用輸送船」のAiPを、日本海事協会(NK)から取得したことを明らかにしています。

 笹山氏が「液化CO2輸送船には日本だけでなく、アジア、欧州、中東の各産油国からも熱い視線が送られている。(造船の面でも)LNG船で失いつつあった市場を、液化CO2輸送船でしっかり取り戻すことにもつながるのではないか」と話すように、日本造船復活が「えくすくぅる」から始まるかもしれません。