いまミャンマーの鉄道で、日本から輸出された中古車両が多く活躍しています。いったいどのように現地を走り、またどのように、現地の人々から受け入れられているのでしょうか。
一般的に、30~40年といわれている鉄道車両の寿命。近年、廃車になった車両の一部が海を渡り、外国で「第二の人生」を送っています。
日本からミャンマー最大の都市・ヤンゴンまでは、飛行機で約8時間。空港からタクシーに乗って、さっそく国鉄の駅へと向かいます。窓口で切符を買ってホームへ入ると、そこには前面に「回送」と表示した車両が停まっていました。
この車両は、元・JR東海のキハ11形です。1988(昭和63)年から製造が始まり、高山本線(岐阜・富山県)や紀勢本線(三重・和歌山県)などで活躍。新型車両への置換えのため、2015年にほとんどの車両が廃車になりました(一部を除く)。それがミャンマー国鉄へ譲渡されたのです。
外観はJR東海時代と同じく、白地にオレンジと緑色の帯ですが、運転席の窓下には「RBE3017」の文字が。「RBE」とは「Rail Bus Engine」の略で、数字の前2桁はエンジンの出力(この場合は30、すなわち300ps程度)を表します。つまり、日本風にいうと「RBE30形の17号車」といったところでしょうか。
車内へ乗り込みます。日本では向かい合わせのボックスシートが並んでいましたが、ミャンマーでは樹脂製のロングシートに改造されました。
ほどなく列車は発車。4~5分走るごとに駅で停車し、乗客をひろっていきます。5両編成の列車は立ち客が出るほどの乗車率で、かなり利用されているようです。
1時間ほど走り、ヤンゴン中央駅へ到着。列車は10分ほど停車し、来た線路を再び戻っていきました。
日本の中古車両、なぜミャンマーで愛される?この日乗車したのは、ヤンゴンと周辺都市を結ぶ環状線。1周3時間ほどで、環状線といっても1周する列車は少なく、大半の列車は途中で折り返し運転をしています。
そしてここでは、日本からやってきたディーゼルカーが多く活躍。翌日やってきたのは、日本の国鉄が製造した元・JR東日本のキハ40系でした。こちらもカラーリングはそのままで、JRでの車番表記も残っています。
車内の端部には、日本の国旗が描かれていました。「この車両の輸送費や保守技術は、日本の援助で行われた」と、英語とビルマ語で書かれています。車外にも日本とミャンマーの国旗が。
写真を撮っていると、ミャンマーの人たちが話しかけてきました。私が日本人だというのがわかると、「この車両は日本から来たんだよ」と教えてくれます。もちろん知っている、この車両を見るために私はミャンマーへ来たんだ、というと、「日本の車両は乗り心地がいいし、クーラーがあるから涼しくて最高だよ」と話してくれました。
ちなみに、ミャンマーではエアコンのついた車両はまだまだ珍しく、運賃も少し高くなります。列車は「全車エアコンあり」か「全車エアコンなし」のどちらかで、つまり列車によっては強制的にエアコン車、つまり運賃の高い車両に乗せられるのですが、ミャンマー人はその点をあまり気にしてはいないようです。
別の日には、ヤンゴンからひたすら北を目指しました。やって来た車両は、かつて石川県の能登半島を走っていた元・のと鉄道(石川県七尾市)のNT100形。ミャンマーに来た日本車のなかでも、初期のグループに属します。
列車に揺られて12時間、着いた駅には、元・JR北海道のキハ141系がいました。
熱帯のミャンマーですが、厳しい冬の車内保温を目的にした北海道ならではの二重窓構造も健在。列車には、学校帰りでしょうか、多くの子供たちが乗っていました。見わたす限りの草原地帯を、のんびりと走る日本のディーゼルカー。なんとも贅沢なひとときでした。
「これからもできる限り使い続けたい」ミャンマーで活躍する日本の鉄道車両は100両を越え、さらに増え続けています。古いものは輸出から10年が経ちますが、いまも多くが現役で活躍中。一方で、ここ数年でJR東海やJR東日本からまとまった数の車両が譲渡され、環状線で運転を開始。以前に日本から輸出された車両は地方の路線へ転属したり、エンジンを取り外し客車(自走せず機関車などにけん引してもらう車両)として運転されています。
ヤンゴン中央駅の留置線には、日本から海を渡ってきた多くの車両が整備を待っていました。
最後に、現在のミャンマーは治安が比較的安定しているものの、一部の地域では民族間の対立や武力衝突が続いています。また、ミャンマーだけでなく世界的に、鉄道施設は軍事施設の側面があり、写真撮影には許可が必要なこともあります。日本国内のように、気軽に駅や列車内を歩き回ったり、写真を撮ることは危険をともないます。
ミャンマーではビルマ語しか話せない人も多く、言葉が通じないなかでは私たちの何気ない行動が、あらぬ誤解を招くこともあります。写真を撮るときは必ず周りの人に許可を求める、出会った人には笑顔で挨拶をするなど、きちんとマナーやルールを守り、安全に旅行を楽しみましょう。