各国の首脳が集った「G7伊勢志摩サミット」。要人輸送機もさまざまな機体が来日しましたが、アメリカだけは特殊でした。
2016年5月26日(木)、三重県で「G7伊勢志摩サミット」が開催されました。これにともない羽田空港や中部国際空港(愛知県)には、アメリカ大統領のVC-25(ボーイング747-200)、ドイツ首相のエアバスA340-300、イタリア首相のエアバスA319CJ、カナダ首相のCC-150「ポラリス」(エアバスA310-300)、フランス大統領のA330-200、イギリス首相のボーイング757-200(タイタンエアウェイズのチャーター機)と、各国の要人輸送機が次々に飛来しています。
そして日本国内における各国首脳らの移動は、陸上自衛隊が保有するボーイング/川崎重工CH-47JA「チヌーク」大型輸送ヘリコプターが担当しました。CH-47JAは通常、貨物室内の左右に人員輸送用の簡易座席が標準で装備されていますが、今回これは使用されず、貨物室内に別途、VIP輸送用の座席を固定したうえで各国の要人を迎え入れています。このVIP輸送仕様では、10名が搭乗可能です。
しかしアメリカのオバマ大統領だけは、ボーイングC-17「グローブマスターIII」大型輸送機によって、本国から自前の専用ヘリコプターを持ち込んでおり、自衛隊機には搭乗していません。これは今回だけが特別なのではなく、基本的にアメリカ大統領は、保安上の理由からアメリカ軍の航空機にしか搭乗しないのです。過去の歴代大統領が来日した際にも同様に、専用ヘリコプターを持ち込んでいます。
米大統領が乗る「エアフォース・ワン」=「ジャンボ機」は間違い?アメリカ大統領の専用ヘリコプターは、海兵隊第1ヘリコプター飛行隊が運用するシコルスキーVH-3D「シーキング」と、シコルスキーVH-60N「プレジデントホーク」の2種類。今回もVH-3DとVH-60Nの両機が持ち込まれましたが、多くの場合はそのうち、室内空間が上下に広いVH-3Dが用いられます。
また同部隊は、大統領の随行員や物資輸送用にベル・ボーイングMV-22B「オスプレイ」も運用。
そして、アメリカ大統領がこれら米海兵隊のヘリコプター、VH-3DやVH-60Nに搭乗した際、その機は「マリーン・ワン」というコールサインで運用されます。映画で一躍有名になった大統領専用のジャンボジェット機VC-25は「エアフォース・ワン」の名前で広く知られていますが、厳密には大統領が搭乗した場合にのみ「エアフォース・ワン」というコールサインが与えられるのであって、そうでない場合、VC-25は「エアフォース・ワン」ではありません。
大統領がVC-25ではない別の空軍機に搭乗した場合は、その機が「エアフォース・ワン」であり、海兵隊機ならば「マリーン・ワン」になります。映画『エアフォース・ワン』のクライマックスでは大統領がC-130輸送機に救出され、そのC-130が「エアフォース・ワン」を名乗り大団円を迎えましたが、これはとてもリアリティのある描写です。
ちなみに海軍機ならば「ネイビー・ワン」、陸軍機ならば「アーミー・ワン」になりますが、めったに使われません。
イメージと違う? 実は古くさい米大統領専用機アメリカ大統領専用のジャンボジェット機VC-25の原型機は、ボーイング747-200「クラシックジャンボ」と呼ばれる、日本の航空会社からはとうの昔に引退している非常に古いタイプの機体です。また大統領専用ヘリコプターのVH-3Dも、海上自衛隊が同型機を運用していましたが、これもまた10年以上前に退役しています。
意外に思えるかもしれませんが、アメリカ大統領専用機は「ジャンボ」もヘリも老朽化が問題になっており、どちらも後継機への機種更新が目前です。
後継機選定においては、ヨーロッパ製のジェット機であるエアバスA380や、フィンメカニカ社(イタリア)のAW101ヘリといった機種も候補になりましたが、結局、自国アメリカ製のボーイング747-8と、シコルスキーS-92(VH-92A)を採用することになりました。特にヘリのAW101については、一度それに決定されながらも、覆っています。
あくまでも筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)の想像にすぎませんが、“世界の盟主”たるアメリカ大統領の乗機が外国製であるという事実は、国家の威信にかけて許せなかったのかもしれません。