空港と結ぶアクセス鉄道が、本来想定していなかったローカル線だという場合があります。JR最南端の“空港アクセス鉄道”の最寄り駅の1つから空港へ歩いて向かうと、想定以上のハードな道のりが待ち受けていました。
米子空港(鳥取県)の最寄り駅がJR西日本境線の米子空港駅(旧名・大篠津駅)だったり、山口宇部空港の場合はJR西日本宇部線の草江駅だったりと、空港の近くをローカル線が通っていることがあります。筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)がJR最南端の隠れた“空港アクセス鉄道”の最寄り駅の1つから歩いてみると、まるでハイキングのような起伏の激しい道のりでした。夜間には絶対にオススメしません。
鹿児島空港に駐機中のソラシドエアのボーイング737(大塚圭一郎撮影)
この“空港アクセス鉄道”とは、JR九州の肥薩線です。2020年7月の豪雨で大きな被害を受けた八代(熊本県)~吉松(鹿児島県)間の86.8kmは運休していますが、残る吉松~隼人間37.4kmは、国鉄時代に製造されたディーゼル車両キハ40などを使った普通列車が走っています。
肥薩線には鹿児島空港の5km圏内に嘉例川(かれいがわ)、中福良、表木山と3つも駅があります(いずれも霧島市)。うち、鹿児島空港行きの路線バスが唯一ある実質的な「最寄り駅」が嘉例川です。普通列車の吉松方面が1日に12本、隼人行きが11本しか止まらないローカル線の小さな駅ですが、地元の“名所”でもあります。
「空港アクセス駅」は明治生まれ嘉例川駅は国の登録有形文化財に登録されている鹿児島県最古の駅舎です。1903(明治36)年1月の開業時に建てられた木造の建物で、2025年に誕生から122年を迎えました。乗降客はまばらで、筆者が25年3月に肥薩線で降りた時は唯一の利用者でしたが、レトロ感あふれる駅舎を見学するためにマイカーや貸し切りバスで訪れる観光客は多く、駅前に駐車場が整備されているほど。
地元の方々は駅舎の手入れを欠かさず、花を飾ったり、木製ベンチには座布団を敷いたりしています。
筆者が肥薩線に乗ったのは3回目となり、過去2回とも嘉例川のレトロ感あふれる駅舎に魅了されて下車したくなる誘惑に駆られました。しかし、停車時間が短かったため2回とも断念せざるを得ませんでした。そこで「三度目の正直」とばかりに鹿児島空港経由で帰京する際に思い切って降りたところ、空港へ向かう最適解は「徒歩」だと判断しました。
バスはもうない。歩くか!嘉例川駅前には鹿児島交通の嘉例川駅停留所があります。鹿児島空港行きに乗れば11分で着きますが、1日にわずか3本。最終便は16時42分のため、肥薩線で嘉例川駅に17時21分に着いた筆者は間に合いませんでした。

JR肥薩線嘉例川駅を出発するキハ40(大塚圭一郎撮影)
歩いて約5分の県道56号沿いには嘉例川停留所があり、鹿児島交通の霧島いわさきホテル発鹿児島空港行きのリムジンバスが通ります。しかし、最終便の通過時刻は14時56分です。
嘉例川駅にはタクシー会社2社の電話番号を書いた貼り紙があり、タクシーを呼ぶことも可能です。
駅からまっすぐ行って突き当たりにある、東西に結ぶ道路を右(西)へ向かって進みます。雑木林の中を曲がりくねりながら続く舗装道は、幅が狭く、歩行者と自動車が行き違うのもやっとです。幸いなことにすれ違ったクルマは2台だけでした。
また、マイカーが主な移動手段となっている地方部だけに、他の歩行者とすれ違うこともありませんでした。ただ、ソラシドエアの小型旅客機ボーイング737が低い空を飛来するのを眺めて「空港に近づいている」との確信を深めました。
夜はヤバイぞ…道が二股に分かれ、道順通りに空港がある左(南)へ向かうと、丘への上り坂になっていました。思い出したのはパイロットから聞いた「鹿児島空港の滑走路は勾配があり、スムーズに着陸できるように工夫している」という言葉でした。
道沿いに街灯は全くなく、坂道には太陽を遮る木もまばらです。よって夜間に通るのは絶対に避けた方が良く、かんかん照りの夏などもやめるべきです。
突き当たりを右折し、県道56号を進むと空港の敷地内が見えました。
南北に延びる国道504号との交差点を左折し、南下すると鹿児島空港の旅客ターミナルビルに到着しました。空港の脇の西郷公園にある腕組みをした西郷隆盛像は、東京・上野公園の像と違って愛犬は従えていません。
ほとんどハイキング その前にゲットしたい名物も「最寄り駅」嘉例川から空港までの所要時間はちょうど1時間で、ハイキングを終えたような気分でした。もしも挑戦する場合、歩行の負担になるような大きな荷物を抱えておらず、気温が落ち着いている日中に、時間に十分な余裕を持ってお出かけください。

鹿児島交通の路線バスの嘉例川駅停留所。鹿児島空港へ向かうバスは1日に3本だけ(大塚圭一郎撮影)
もし、この「ハイキング」を楽しむならば、土休日にぜひ狙いたい嘉例川駅のもうひとつの“名物”もあります。
2025年の「九州駅弁グランプリ」(JR九州主催)に輝いた弁当「百年の旅物語かれい川」(森の弁当やまだ屋)です。特急「はやとの風」(22年に運休)の運行開始に合わせて04年に登場し、販売するのは土曜と日曜、祝日だけで早々と売り切れるため「幻の駅弁」とも呼ばれます。2日前までに電話で予約することも可能です。
竹皮で作られた弁当箱に入った炊き込みご飯に地元で原木栽培したシイタケとタケノコの煮物が載せられており、コロッケ、ナスの味噌田楽、サツマイモを使った鹿児島県の郷土料理「がね」などのおかずも味わえます。
霧島市職員は「すごく人気があり、県外の方からも『食べてみたい』という声をよく聞きます」と解説。「私たちにとっては昔、普通に食べていたような味です」とおっしゃったので、筆者はすかさず「それこそ私も含めた旅行者が求めている懐かしさなのですよ」と申し上げました。筆者が嘉例川駅を訪問したのは平日だったため、今も自分のなかでは「幻の駅弁」であり続けています。