日本では知名度が低いものの海外では長年生産が続くロングヒットのホンダ製オートバイがあります。「CG125」という名のこのオートバイ、耐久性、メンテナンス性、経済性に優れているため、意外な組織からも支持を集めています。

知られざるロングセラー車 ホンダ「CG125」

 日本ではまったく無名ながら海外では知名度が高く、世界的なベストセラーとなっているホンダ製のバイクがあります。それは輸出専用車の「CG125」です。

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2025年4月20日に埼玉県八潮市で開催された「第3回カブミーティング『ハラミ』」にエントリーしていた「CG125」(山崎 龍)。

「CG125」の歴史は古く、開発が始まったのは半世紀ほど前の1970年代です。東南アジアや中近東をはじめとした発展途上国向けの整備性に優れたミニバイクというスタンスでした。

 当時、すでにホンダのラインナップには「スーパーカブ」がありましたが、モータリゼーションの遅れた前出の国々では、クルマはおろかバイクすら満足に普及しておらず、庶民の足といえば、馬車や牛車、リヤカー、自転車がほとんどという状況でした。これらの地域では、「スーパーカブ」が積む横型エンジンでは弁機構が複雑なSOHCとなるため、販売店やユーザーにそれを取り扱う知識や技術がなく、修理やメンテナンスに対応できないという問題があったのです。

 ライバル他社はこれらの国々に簡便な2ストロークエンジンのバイクを輸出していましたが、これには耐久性や排気ガスの汚さという課題が横たわっていました。そこでホンダは製造コストが安く、堅牢で実用性が高いうえに、経済性にも優れた125cc空冷単気筒OHVエンジンを新開発し、組み合わせるギアボックスは使い勝手の良い5速ロータリーミッションを採用。一方、車体は簡素な設計ながらデザインにこだわり、角形ヘッドランプの採用など、当時のトレンドを取り入れたスポーティなルックスとしました。

 こうして1976年に誕生した「CG125」は、輸出先の税制や免許制度に対応するため排気量を縮小した「CG110」とともに世界各国に輸出され、ミニバイクのベストセラーとなったのです。

 日本では2008年に生産を終了しましたが、海外工場でのノックダウン生産やライセンス生産も盛んに行われています。

また、中国や発展途上国のなかには、ホンダに無断で生産した「CG125」のコピーバイクが相当数流通しており、海賊版も含めて小型バイクのデファクトスタンダードとなっています。

現在でも海外での生産は継続中

 これまでに「CG125」および「CG110」を生産した国は、韓国、台湾、インドネシア、トルコ、ナイジェリア、ブラジルなどで、中国やパキスタン、メキシコは独自に改良を加えるなどして現在も製造が続けられています。また、イギリスやフランスなどの先進国は現地生産こそ行われなかったものの多数輸出され、とりわけ後者はブラジル製の「CG125」を郵便配達用バイクとして大量採用したほどでした。

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ホンダ「スーパーカブC50」。堅牢で経済性に優れる同車だが、搭載される横型エンジンは弁機構が複雑なSOHCとなることから、より単純な構造で、堅牢かつメンテナンスフリーなOHVエンジンの心臓を持つ「CG125」が新たに開発された(画像:ホンダ)。

 また、貧困国で支援活動にあたっている国際連合児童基金(United Nations Children’s Fund)、通称「UNICEF(ユニセフ)」では、人員や物資の移動用機材として採用・現地住民に供給しており、まさに国連機関の“お墨付き”を得たバイクでもあります。

 国内で生産していたバイクであるにもかかわらず、輸出専用車ということで日本ではまったく無名の「CG125」でしたが、2000年代に入ると中国で生産されたスズキ「GN125」が並行輸入業者によって輸入され、安価に販売されて人気を博したこともあり、ほぼ時を置かずして「CG125」も同様に輸入されるようになりました。

 なお、当時の店頭乗り出し価格は10~13万円ほどで、「GN125」が15~18万円で販売されていたことを鑑みると、よりリーズナブルなプライスがつけられていました。

 ただし、国内正規販売されていた時期のある「GN125」とは異なり、ホンダブランドといえども日本のユーザーになじみのない車種ということから、残念ながら「CG125」の販売は少数にとどまったようです。しかし、すでに生産が終了した「GN125」とは違い、「CG125」は現在でも取り扱い業者がおり、おおよそ20万円前後の乗り出し価格で購入できます。

イスラム過激派も太鼓判「神が遣わしたオートバイだ」

 高い耐久性と信頼性、そして優れた経済性を持つ「CG125」は意外なユーザーからラブコールが届いています。それは、中東のアフガニスタンで内戦をしていたイスラム過激派「タリバン」の兵士たちです。

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2012年8月にアフガニスタンのカンダハール州ザライ地区にて、米陸軍によるタリバン指導者を捕らえる作戦中にタリバンの拠点で撮影された写真。2台の「CG125」が映り込んでいる(画像:米国防総省)。

 2013年12月に刊行されたタリバン機関誌『アザン』に「司令官ムハンマド・ビン・ファルーク」と名乗る人物が寄稿した記事によると、「ホンダ『CG125』は、我々にとっての軍馬であり戦友だ。わずか700ドル(1ドル110円換算で7万7000円)で購入できるこのバイクは、ライダー以外に戦士をもう1人乗せられ、作戦に使用する武器や弾薬なども充分に運べる。『CG125』はアッラーとホンダが我らムジャヒディン(聖戦士)に遣わした最高のオートバイである」と絶賛しています。

 事実、アフガニスタンでは1979年の旧ソ連による軍事侵攻以来、「CG125」はジハード(聖戦)戦士たちの相棒としてカラシニコフ小銃(AK-47ライフル)とともに半世紀近くに渡って使用されています。それは2021年のタリバン暫定政府の発足後も変わっておらず、ロシア製や中国製、米軍から奪った装備とともに使い続けています。その一方、タリバン政府に敵対する反政府組織も同車を運用しています。

 ホンダにとって彼らは歓迎されざるユーザーなのかもしれませんが、戦場のような過酷な状況でもへこたれない「CG125」の耐久性と性能はホンモノです。ましてや平和で交通インフラの整った日本の交通環境なら、定期的なメンテナンスをするだけでトラブルなく末長く使えることでしょう。

 安価で実用的なアシ代わりのバイクを考えている人は、1度「CG125」を検討しても良いかもしれません。

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