川崎市臨海部の産業構造が大きく変わろうとしています。JFEスチールが2023年9月に京浜地区(扇島)の高炉を休止したことを受け、同市では跡地を水素エネルギーや先進物流の拠点として再生する計画を進めています。
【だいぶ具体になってる!】これが「立入禁止の島」の道路計画です!(地図/画像)
この「扇島」は現在、国際条約で一般人の立ち入りが制限されています。首都高湾岸線が島を横断していますが、通過するのみです。扇島地区へのアクセスは、JFEスチールの構内通路である「海底トンネル」(水江町-東扇島)と、「扇島大橋」(東扇島-扇島)のみで、島内の道路は全て構内道路という位置づけです。
このため、2028年度からの一部土地利用開始に向けて、構内通路の「公道化」が急務となっています。
川崎市とJFEホールディングスは2024年5月に「扇島地区先導エリアの整備推進に関する協定」を締結。この協定に基づき、JFEが公共施設用地等を無償提供し、川崎市が道路整備と維持管理を担当することで合意しました。2025年度は詳細設計や一部工事が始まります。
ただし、扇島の全ての施設が利用転換されるわけではないため、既存工場の操業を継続しながら一般交通にも対応することとなりました。
湾岸線の北側に並行する扇島大橋および構内道路「東西1号」は、現在の車道4車線のうち、2車線は構内通路として機能を維持し、残り2車線を公道として整備する方針です。うち、扇島大橋については拡幅が必要となり、川崎市とJFEで役割分担を設定しました。
湾岸線の南側に並行する「東西2号」については、歩道を整備のうえ車道2車線の公道に転換されます。また、東扇島の国道357号(首都高湾岸線の側道)と扇島大橋のあいだには連絡道路がつくられます。
さらに、高速道路のアクセス拠点として、東西1号・2号の真ん中に首都高の出入口を4方向すべての出入りが可能な形で新設する計画です。こちらも2028年度の一部供用開始を目指すといいます。
これらが扇島の公道の基本部分として、2028年度に予定されている先導エリアの一部利用開始時に合わせて整備されます。ただし、川崎市は国道357号の未開通部となっている扇島内区間について国による早期整備を要請しており、それまでのあいだ、扇島大橋と東西1号・2号が国道357号の代替となります。
ん? 海底トンネルどうなるの…?このほか、水江町と東扇島のあいだに建設が進められているシンボリックな斜張橋を含めた「臨港道路東扇島水江町線」には、扇島方面から水江町方面への入口ランプが追加建設される予定です。これは扇島の道路整備に伴う「東扇島の交通負荷軽減策」として決まり、2031年頃の完成が目指されています。完成後は、これが扇島に最も近い内陸側(川崎駅方面)とのアクセス拠点となります。
建設中の臨港道路東扇島水江町線の斜張橋(2024年)。右はJFEスチールの工場で、海底トンネルも工場内から延びている(乗りものニュース編集部撮影)
今後、2028年度の先導エリア一部利用開始後、2030年度の先導エリア概成時、さらに2050年頃の全体概成時と、道路も段階的に拡張していく計画です。
ただ、JFEの構内道路である海底トンネルについては、これらの計画で言及されておらず、扇島への公道アクセスルートには組み込まれない見込みです。
JFE側が他の構内道路の公道転換後も、構内道路としての機能を一部残すとしているので、海底トンネルも当面は構内道路として存続すると考えられますが、前出した建設中の臨港道路東扇島水江町線は、実質的にトンネルの代替路といえます。建設から半世紀を経ている海底トンネル自体の老朽化も懸念されるため、今後の行方は不透明と言わざるを得ません。
ちなみに、扇島地区では複数の大規模プロジェクトが同時進行しています。2024年7月に日本水素エネルギーがJFEスチールと土地賃貸借契約を締結し、「液化水素サプライチェーンの商用化実証」における液化水素受入地として活用が始まりました。また、「高度物流拠点」のほか、大水深バースを活用した公共埠頭や臨港道路の整備も計画に位置づけられています。