航空自衛隊のアクロバットチーム「ブルーインパルス」に使用される機体の1機が退役し、新しい機体へ更新されました。現在使用している機種が採用されて20年、次の機種も国産機になるかもしれません。
2016年12月7日(水)、航空自衛隊のアクロバットチーム、松島基地(宮城県東松島市)所属の「ブルーインパルス」こと第4航空団第11飛行隊にて使用されていたT-4 725号機(#46-5725)が退役しました。
「ブルーインパルス」は1996(平成8)年、従来使用していた三菱重工T-2練習機の後継機として、T-4へ機種更新しました。725号機はそのうちの1機であり、「T-4ブルーインパルス」として最初の勇退になります。
2016年の浜松基地航空祭で6番機を務めた「T-4ブルーインパルス725号機」。垂直尾翼の機番「6」は容易に変更でき、同機が1番から5番までを務めたことも(関 賢太郎撮影)。T-4はもともと、戦闘機の操縦者を養成するために用いるジェット練習機として開発され、川崎重工が主契約者として212機もの生産を担いました。「T-4ブルーインパルス」は練習機型T-4と同じ機体ですが、アクロバット専用とするために、燃料タンクの一部をスモークオイルタンクに変更、低高度警報システムの追加、バードストライク対策のために風防ガラスおよびヘッドアップディスプレイ(HUD)を強化、ラダー(垂直尾翼の方向舵)動作角度の増大といった様々な改良が加えられており、これまで11機が新造、2機が練習機型から改造されています。
「ブルーインパルス」のアクロバット飛行は、通常6機編成で実施されます。予備機ならびに整備ローテーションのために、当初9機体制でスタートしました。
2000(平成12)年には、悪天候から山へ衝突し2機が墜落、3名のパイロットが殉職しました。この事故をうけ1年間の休止期間を経たのちに、2001(平成13)年から暫定的に4機編成で活動を再開、そして2002(平成14)年には新造された2機を加え、完全復活を遂げました。
「ブルーインパルス」壊滅の危機も?2011年、東日本大震災によって生じた大津波が「ブルーインパルス」のマザーベースである松島基地を襲います。
ところが「ブルーインパルス」にとって不幸中の幸いだったことに、東日本大震災の翌日、2011年3月12日に予定されていた九州新幹線開通式典のため、芦屋基地(福岡県遠賀郡芦屋町)へ6機と予備1機が現地展開し、さらに1機が定期整備(IRAN)のために岐阜基地(岐阜県各務原市)の川崎重工へ送られていたのです。
そのため「T-4ブルーインパルス」の被害は、2002(平成14)年に新造された804号機ただ1機のみでした。さらに人的被害も無かったことから、わずか半年あまりで芦屋基地に拠点を移し復活。そして2年後の2013年には松島基地へ帰還しています。
もし九州新幹線開通式典において「ブルーインパルス」の飛行展示予定が組まれていなかったならば、定期整備中の1機を除いて8機全滅という最悪の事態は避けられなかったでしょうから、その復活は見通しが立たないほど先であったに違いありません。
「T-4ブルーインパルス」725号機は、こうした事故や災害による不幸を乗り越え、20年間にわたる任務を終えたのです。
いずれ来る全機の退役時期、後継に国産機の可能性は?通常の練習機型T-4は「T-4ブルーインパルス」に比べて強い負荷を掛ける頻度が少ないので、寿命が比較的長く残されています。そのため津波の被害による喪失や今回の退役機の後継には、既存のT-4をもとに「T-4ブルーインパルス」としての改造を加えることで対応しており、それぞれ787号機、790号機が新たに加わりました。
「ブルーインパルス」は1960(昭和35)年以来、初代使用機F-86F「セイバー」戦闘機、2代目T-2練習機、3代目「T-4ブルーインパルス」と機種更新してきました。いずれT-4も次世代機へ更新され、全機が退役する時期がやってくることになるでしょう。

自衛隊や各国空軍のアクロバットチームは、自国の航空産業をアピールする存在でもあるため、軍用機を製造している国では国産機を使用することに意義があります。「T-4ブルーインパルス」の後継機について考えるにはまだまだ時期尚早ですが、4代目「ブルーインパルス」も国産機になるかもしれません。
これに選定される機種としては、T-4の後継練習機が最有力候補であると考えます。1990年代の一時期には、当時「次期支援戦闘機FS-X」と呼ばれていた三菱F-2戦闘機を「ブルーインパルス」仕様にする案が検討されていましたが、これは実現しませんでした。4代目「ブルーインパルス」が、F-3という仮称で知られるF-2後継戦闘機になる可能性も、やや厳しいといえるかもしれません。
●2017年現在の「T-4ブルーインパルス」全機リスト
・720号機(#46-5720 新造 2000年:墜落)
・725号機(#46-5725 新造 2016年:退役)
・726号機(#46-5726 新造 現役)
・727号機(#46-5727 新造 2000年:墜落)
・728号機(#46-5728 新造 現役)
・729号機(#46-5729 新造 現役)
・730号機(#46-5730 新造 現役)
・731号機(#46-5731 新造 現役)
・745号機(#66-5745 新造 現役)
・804号機(#26-5804 新造 2011年:水没)
・805号機(#26-5805 新造 現役)
・787号機(#06-5787 改造機 現役)
・790号機(#06-5790 改造機 現役)
