神奈川県の厚木基地に駐留するアメリカ海軍の戦闘機部隊が今年、移駐になります。長らく騒音問題が取り沙汰されてきた同基地ですが、今後は静かになるのでしょうか。

厚木基地の米海軍戦闘機部隊、まもなく岩国へ

 南関東に唯一存在する戦闘機が配備された飛行場「アメリカ海軍厚木航空施設(NAF Atsugi)」は、日本の戦闘機基地の中でも特に騒音問題が取り沙汰される基地として知られます。しかし、その問題もまもなく根本的な解決を迎えようとしています。

 厚木基地の歴史は古く、太平洋戦争時代には首都圏防空の要であった旧帝国海軍の局地戦闘機「雷電」が配備されており、戦後はGHQ総司令官マッカーサー元帥(当時)が最初に日本に降り立った地でもあります。

 現在はアメリカ海軍の航空部隊「第5空母航空団(CVW-5)」が駐留しており、これは横須賀を母港とした歴代空母「ミッドウェイ」「インディペンデンス」「キティホーク」「ジョージワシントン」そして現在の「ロナルド・レーガン」が艦載する部隊です。

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富士山をバックに飛ぶ米海軍第5空母航空団の艦載機。先頭からE-2C、C-2A、F/A-18F、F/A-18E(以下2機同じ)、EA-18G(写真出典:アメリカ海軍)。

 その配備総数は艦載機の中で最も騒音が酷いF/A-18E/F「スーパーホーネット」戦闘機ないしF/A-18E/Fの派生型EA-18G「グラウラー」電子戦機がおよそ50機。ほか比較的静かなE-2C「ホークアイ」早期警戒管制機、C-2A「グレイハウンド」輸送機、MH-60R/S「シーホーク」哨戒・多用途ヘリコプターがあり、F/A-18E/F、EA-18Gとあわせて総計60機以上の大所帯となっています。

騒音がまったくなくなるわけではない?

 日本には戦闘機が配備された自衛隊ないし在日米軍の飛行場が、北海道から沖縄まで全国12か所に存在します。たいていこうした基地は人里離れた地域にあることが多いのですが、厚木基地は人口23万の大和市、8万の綾瀬市に渡って敷地が広がり、周辺の自治体には人口42万の藤沢市、43万の町田市、72万の相模原市、そして370万の横浜市が隣接。日本でもっとも人口密度の高い地域の一つである神奈川県東部の中心に位置するがゆえに、どうしても騒音の問題が切り離せない戦闘機基地になっています。

厚木基地は静かになるのか 在日米海軍の戦闘機部隊、まもなく移駐 そのあとは…?

着陸するF/A-18EF「スーパーホーネット」。
左翼端(向かって右)にAIM-9Xサイドワインダー高性能短射程ミサイルを装備している(関 賢太郎撮影)。

 しかし今年2017年、第5空母航空団にとっては厚木基地との別れの年になる見込みです。前述の騒音問題対策の一環として、第5空母航空団は岩国基地(山口県)へ移駐することになりました。岩国基地ではその受け入れに向けた工事が進んでおり、格納庫などの施設はすでに建設されています。また同基地が海に面していることから、周辺住宅地への騒音を低減させるため滑走路は沖合へと移されました。

 厚木基地には海上自衛隊のP-3CやP-1哨戒機、UP-3C試験機、C-130R輸送機などがそのまま残ります。

また、もともと岩国基地に配備されていたEP-3電子諜報機、OP-3C写真偵察機、UP-3D電子戦機、U-36A多用途機といった海上自衛隊機が、逆に厚木基地へ移駐してくるため、騒音がゼロになるわけではありません。

 さらに、アメリカ海軍としての厚木基地がなくなるわけではありません。厚木基地には日本飛行機(横浜市金沢区)が受託するF/A-18E/Fなどの整備格納庫もあり、移駐後も厚木に里帰り飛来することが予想されます。

 とはいえ第5空母航空団は、1年の半分ほどを空母出航にともない日本を離れます。またマザーベースが岩国になりますから、飛来する頻度は比較にならないほど激減することになるでしょう。

まもなく去りゆく米海軍戦闘機、見るならいつがいい?

 数が増える厚木基地の海上自衛隊機にしても、特に次世代のP-1哨戒機は自動車運転中窓を閉め切っていれば真上を通過しても気付かないレベルの騒音しかないので、この件で特に話題に挙がる「スーパーホーネット」と「グラウラー」が居なくなることによる騒音低減は著しい効果が見込めます。

かつて裁判で違法状態ともされた厚木基地の騒音問題は、解決に向け大きく前進することになるでしょう。

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厚木基地に着陸進入するP-3Cオライオン哨戒機。祝日は公園に離着陸を見学する多くの人たちが集まる(関 賢太郎撮影)。

 ちなみに厚木基地の滑走路端には公園が整備されているので、離着陸する戦闘機を間近に眺めることができます。それもあとわずかの期間しかありませんから、戦闘機に興味のある人はいまのうちに遊びに行ってみるとよいかもしれません。

 滑走路北側の大和市「ふれあいの森」公園ならば相鉄線・小田急線の大和駅から徒歩約10分。

新宿や横浜から1時間とかかりません。なお土日およびアメリカの祝日は休日となっているので、平日ならびに週末にかさならない日本の祝日がねらい目です。日本の祝日は海上自衛隊がお休みですが、前述のように米軍機と、任務中の海自P-3Cは関係なく離着陸します。

【写真】かつての厚木のヌシ「雷電」

厚木基地は静かになるのか 在日米海軍の戦闘機部隊、まもなく移駐 そのあとは…?

かつて厚木基地のヌシだった第二〇三海軍航空隊 局地戦闘機 三菱「雷電」。プレーンズオブフェイム博物館(アメリカ)所蔵の唯一の現存機(関 賢太郎撮影)。