鉄道にとって、「足」ともいえる台車(車輪部分)のメンテナンスは重要です。高速で走行する新幹線はどのようにして、世界に誇るその「能力」を維持しているのでしょうか。

普段は隠れているけれど

 安全で安定した高速大量輸送を実現した日本の高速鉄道「新幹線」。普段、ホームやカバーなどで隠れ、あまりよく見ることはないかもしれませんが、その車両の足元を支える台車(車輪のある部分)は「安全で安定した高速大量輸送」を実現するにあたって、特に重要な部分のひとつです。モーターもそこに搭載されており、文字通り「縁の下の力持ち」といえるでしょう。

N700系の最高速度、実は305km/h? 「新幹線の足」守...の画像はこちら >>

N700系新幹線の台車。1両の両端にひとつずつ存在する(2017年1月、恵 知仁撮影)。

 JR東海の新幹線車両は、36ヵ月または走行距離120万km以内に同社の浜松工場(静岡県浜松市)で「全般検査」という定期検査を受けます。いわば「車両のオーバーホール」で、そこでは台車も入念に整備。「新幹線の足」の能力と安全が維持されています。なお、新幹線車両が受ける定期検査はほかにも「台車検査」などがありますが、この「全般検査」がもっとも徹底的な内容です。

 全般検査を受けるため浜松工場に「入場」してきた新幹線車両は、「車体上げ」という作業で車体と台車を分離。台車は「台車検修場」へ送られます。

削られる車輪、その目的は?

 台車検修場へやってきた台車は解体され、大きく「台車枠」と「輪軸」に分けられます。

「台車枠」はいわば台車の骨格、「輪軸」は車輪と、ふたつの車輪をつなぐ棒状の車軸をあわせたものです。

N700系の最高速度、実は305km/h? 「新幹線の足」守る現場

解体されたN700系の台車。つり上げられているのが「台車枠」、下にあるのが「輪軸」。輪軸の両端にあるのが「車輪」、それをつなぐのが「車軸」(2017年1月、恵 知仁撮影)。

 台車枠は「台車枠検修ライン」へ進み、洗浄、検査、塗装といった流れで整備が進行。そして輪軸は、より多くの工程からなる「輪軸検修ライン」での整備へ進みます。

 輪軸検修ラインでは洗浄ののち、車軸から車輪が抜き取られます。そして「安全走行のため最も重要」という車軸は、超音波により、中空になっているその内部のチェックが行われます。

N700系の最高速度、実は305km/h? 「新幹線の足」守る現場

台車から外されたN700系のモーター(2017年1月、恵 知仁撮影)。

 ふたたび車軸と車輪が組み合わされ、輪軸の状態になったところで、次は「車輪削正」です。車輪のレールと接する面が滑らかでないと振動や騒音が発生し、乗り心地などに影響を与えます。車輪を削ることによって、そうした問題がないようにするのです。

浜松工場では、10分の1mmの精度で車輪を削っているとのこと。

 なお浜松工場では2017年1月、全般検査のライン(設備や検査の流れ)がリニューアルされ、台車検修場では専用設備による検査の自動化などが図られました。これによって検査の精度が向上したほか、労働災害の防止といった効果もあるそうです。

新幹線が最高速度を出すのは工場のなか?

 こうして整備された輪軸や台車枠が、別にメンテナンスされたモーターなどとともにふたたび組み立てられ、台車の形に戻ったところで走行試験に入ります。

N700系の最高速度、実は305km/h? 「新幹線の足」守る現場

“新品同様”という状態に整備されたN700系の台車(2017年1月、恵 知仁撮影)。

 とはいえ、普通に線路上を走るのではなく、台車だけでの走行試験です。「ルームランナー」の上で輪軸が回転するイメージでしょうか。「台車走行試験機」を用い、その場で振動や音、発熱に問題がないかといった試験を行うのです。

N700系の最高速度、実は305km/h? 「新幹線の足」守る現場

浜松工場の台車走行試験機(2017年1月、恵 知仁撮影)。

 営業運転を開始した新幹線車両にとって、一部の例外を除きこの試験時が、最も速くその輪軸が回転するときかもしれません。

 東海道・山陽新幹線を走るN700系の営業最高速度は、東海道区間で285km/h、山陽区間で300km/hです。しかしこの台車走行試験機では、それを上回る305km/h相当の速さで試験が行われます。

なお、最高速度が東海道区間で270km/h、山陽区間で285km/hである700系の場合は290km/hです(2017年1月で浜松工場における700系の全般検査は終了)。

 こうして整備された台車は「ぎ装場」へ送られ、車体と再び結合。「のぞみ」などとして、「日々の安全・安定輸送」という任務へ戻っていきます。

【写真】新幹線のモーター、そのパワーは?

N700系の最高速度、実は305km/h? 「新幹線の足」守る現場

700系新幹線に使用されているモーターのカットモデル。N700系の場合、モーター出力は1基で305kW、415馬力あり、16両編成では2万3240馬力になる(2016年7月、恵 知仁撮影)。

編集部おすすめ