世界で初めて「気動車で振り子」を実現したJR四国。しかし新しい特急車両では、「振り子装置」ではなく「車体傾斜装置」を採用しました。

そこにはいくつもの利点があるといいます。

革新的だった先代の特急車両

 2017年秋のデビューが予定されている、JR四国の新しい特急形気動車(ディーゼルカー)2600系。1989(平成元)年に登場し、現在は特急「しまんと」や「宇和海」などで使用されている2000系特急形ディーゼルカーの老朽置換え用として新製されたものです。

 1989年に登場した2000系ディーゼルカーは、革新的な車両でした。線路のカーブに合わせて、車体をカーブの内側へ傾斜させることで乗客へ働く遠心力を抑え、高速でカーブを通過しても乗り心地を維持できる「制御付き自然振り子装置」を、気動車として世界で初めて実用化したのです。2000系は最大で5度、車体を傾斜できます。

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2017年秋にデビュー予定のJR四国2600系特急形ディーゼルカー。「空気バネ式車体傾斜装置」を採用(2017年2月、恵 知仁撮影)。

 しかしこのたび登場する2600系には、同じ「乗り心地を維持したままカーブを高速で通過する」という目的で、2000系の「制御付き自然振り子装置(以下、振り子装置)」ではなく、「空気バネ式車体傾斜装置(以下、車体傾斜装置)」が採用されました。車体と台車(車輪のある部分)のあいだに存在する、風船のような「空気バネ」という、いわば“クッション”に空気を入れたり抜いたりすることで車体を左右に傾けるもので、2600系は最大で2度、車体を傾斜可能です。ちなみに東海道・山陽新幹線のN700系など、「車体傾斜装置」を採用する車両は近年、しばしば見られます。

なぜ従来の「振り子装置」不採用? いくつもある「車体傾斜装置」のメリット

 新型の2600系ディーゼルカーは傾斜角度が、従来車両2000系ディーゼルカーの5度から3度減ったものの、JR四国の担当者によると、2600系も2000系と同等の速度でカーブを通過できるほか、乗り心地も、状況によって異なるためどちらが良いか一概にはいえず、また大きくは変わらないとのこと。

2度の傾斜角度でも、安全に安定して走行できるそうです。

JR四国の新型特急車2600系「空気の力で高速走行」を選んだワケ

1989年にデビューしたJR四国の2000系特急形ディーゼルカー(2013年4月、恵 知仁撮影)。

 新型車両の2600系ディーゼルカーが「振り子装置」ではなく、「車体傾斜装置」を採用したことについて、JR四国の担当者はいくつものメリットがあるといいます。

 ひとつは、「振り子装置」とくらべて構造が簡素なこと。そのため低コストで、メンテナンスに要する費用も抑えられるのです。また「振り子装置」と異なり、汎用(はんよう)的な台車を使えるのもメリットであるほか、「車体傾斜装置」を採用した、2600系ディーゼルカーの電車版ともいえるJR四国8600系電車(2014年デビュー)と部品の共通化も実現できるといいます。

人口減少、過疎化、自動車やバスとの競争など、決して状況を楽観視できないJR四国にとって、安全・安定を維持しながらのコスト削減は重要な課題です。

「見えない線」の制約を受けにくい「車体傾斜装置」

 車体を大きくできるのもポイントです。かんたんにいえば線路上には、この“線”から車両がはみ出てはいけない、という制限が存在。よって車体を大きく傾斜させたとき、その“線”から車体がはみ出ないようにするため、「振り子装置」の車両は車体サイズ(断面積)が小さめなことが一般的です。

 しかし「車体傾斜装置」は傾斜角度が小さいことから、それを採用する2600系ディーゼルカーは「振り子装置」の2000系ディーゼルカーより、車体の断面が大きくなりました。つまり室内空間が広がり、居住性が上がっているのです。

特に車体のすそ部分など、2000系は2600系とくらべ絞り込まれているのが分かります。

JR四国の新型特急車2600系「空気の力で高速走行」を選んだワケ

2600系の車体床下に搭載されている「空気バネ式車体傾斜装置」関係の機器(2017年2月、恵 知仁撮影)。

 また最高速度について、既存の2000系は一部車両が130km/h(それ以外は120km/h)なのに対し、このたび登場した2600系は120km/h。カーブが多いJR四国の路線において、130km/hという在来線トップクラスのスピードを出せる場所は限られていることが理由といいます。

 2017年2月に高松運転所へやってきた新型車両の2600系は今後、予讃線、土讃線、高徳線で試運転を実施。営業運転の開始は2017年秋の計画ですが、どの路線でデビューするかは未定だそうです。

【図解】「振り子」と「空気バネ式車体傾斜」どう違う?

JR四国の新型特急車2600系「空気の力で高速走行」を選んだワケ

左が「振り子装置」、右が「空気バネ式車体傾斜装置」の概略図。右図の赤と青の部分が空気バネ(画像出典:JR北海道)。