護衛艦「かが」が就役しました。結局のところ、「かが」や「いずも」といったヘリ空母にF-35Bは搭載できるのでしょうか。
2017年3月22日(水)、海上自衛隊の新型護衛艦であるヘリ空母「かが」が就役し、同艦を建造したジャパンマリンユナイテッド磯子工場において式典が実施されました。「かが」はいずも型護衛艦の二番艦であり、海上自衛隊においては「いずも」およびひゅうが型の「ひゅうが」「いせ」に加えて4艦目のヘリ空母になります。
アメリカ海軍の強襲揚陸艦「ワスプ」から発艦するF-35B(画像:アメリカ海軍)。いずも型はひゅうが型に比べてはるかに大きく、また武装に充実したひゅうが型とは異なり個艦防御用には最小限の20mm機関砲と短射程ミサイルしか搭載しないことから、航空母艦としての航空機運用能力をより重視した護衛艦であるといえます。
それゆえいずも型に対しては、アメリカ海兵隊において2015年に就役したばかりの最新鋭短距離離陸・垂直着陸戦闘機F-35B「ライトニングII」を艦載する能力について、かねてより議論があります。防衛省が公式の場でF-35Bの艦載について言及したことはありませんが、各種メディアなどではたびたびF-35B搭載論が登場します。
結論から言うと、いずも型にF-35Bを搭載すること自体には何ら物理的な障害はなく、可能であると推測されます。戦闘機を運用する上で阻害となる飛行甲板に設置された20mm機関砲「ファランクス」の移転や、必須ではありませんが船首に勾配を設けた飛行甲板「スキージャンプ」を設けるなど、それほど大きくない改修のみで対応は可能とみられます。
可能であってもそれを実行しないワケいずも型にF-35B戦闘機を搭載することは可能でしょう。ただ、それだけでは戦力として機能しないので、戦闘機以外にも緊急脱出したパイロットを救助するためのMCH-101やV-22といった救難捜索機または輸送ヘリ・ティルトローター機を3機から4機、さらにMCH-101ないしV-22を原型とした早期警戒管制機3機から4機、加えて既存のSH-60K哨戒ヘリが3機から4機必須であり、また可能ならばV-22空中給油機型が1機から2機欲しいところです。
以上のように、少なく見積もっても戦闘機以外に十数機程度のヘリを搭載しなくてはならないので、いずも型で実際に運用可能なF-35Bは8機程度、ヘリを減らしても12機が限界となるでしょう。

ただしこれらはあくまでも物理的な話であり、日本の安全保障においてはいずも型でF-35Bを運用する合理的な理由はまったくありません。なぜならば本国から遠く離れた地に対して戦闘機を派遣する必要が無いからです。
日本およびその周辺において戦闘機を運用する必要があるならば、陸上の飛行場を使えばこと足ります。たとえば那覇基地から約400km離れた尖閣諸島で有事になったとしても、超音速巡航が可能な通常離着陸型F-35Aならば片道20分で到着できます。
さらに、海上自衛隊には戦闘機運用の基盤がありません。いずも型に対して8機ないし12機の戦闘機を搭載するならば、60年にわたる戦闘機運用の基盤がある航空自衛隊において、F-35Aを一個飛行隊(約20機)増強するか、KC-767やKC-46といった空中給油機を数機増やしたほうが、はるかにコストパフォーマンスに優れた選択であるといえるでしょう。
以上はしかし、すべてを合理的に判断した場合の考察です。
合理的ではなくとも可能ならば実行しかねないワケ「守るも攻めるもくろがねの 浮かべる城ぞ頼みなる」
『軍艦行進曲』でうたわれる「頼みなる城」とは、かつて巨大な戦艦でした。そしていま、城の役割は空母へと移り変わっています。城は純粋に要塞として機能するだけではなく、ときに国家の威信や象徴としても機能します。
戦闘機を搭載する本格的な空母を導入し一国一城の主となることは、海上自衛隊ひいては日本政府にとって悲願であり、ペーパープランに限っても、古くは1950年代の海上自衛隊創設期にまでさかのぼることができます。
これまでこうした計画はすべて潰えてきましたが、安全保障に限らず政府による政策のすべてが合理的であるとは限らないことを考えるならば、「いずも」「かが」という器を手にした日本が、F-35Bという酒を注ぎこむ未来は十分にあり得ると言えるのかもしれません。
【写真】「かが」の同型艦「いずも」
