リニア中央新幹線の建設にともない、貨物列車の運行が始まりました。“地の利”を活用し、「鉄道貨物輸送のメリット」を最大限に発揮することが目指されます。

“地の利”を生かした工事

 2027年の品川~名古屋間開業に向け、JR東海が建設を進めているリニア中央新幹線。これにともなう専用の貨物列車が2017年5月26日(金)、走り始めました。神奈川県川崎市の内陸部にある梶ヶ谷貨物ターミナル駅と、同市臨海部の三井埠頭を結ぶ列車で、積み荷は中央新幹線の工事で発生した土砂です。

リニア中央新幹線の専用貨物列車が出発進行 その目的とは?(写...の画像はこちら >>

午前6時過ぎ、梶ヶ谷貨物ターミナル駅から三井埠頭へ向けて発車した、リニア工事発生土輸送の貨物一番列車(提供:JR東海・JR貨物)。

 中央新幹線は、梶ヶ谷貨物ターミナル駅付近の地下を通過。そして同貨物駅付近には、梶ヶ谷非常口と資材搬入口、線路保守用車両の留置施設が設けられます。

 そのうち、梶ヶ谷非常口と資材搬入口の工事が2017年3月30日にスタート。この工事にともない発生した土砂を輸送するため今回、貨物列車の運行が始まりました。

 鉄道貨物輸送には、ダンプカーなどの営業用貨物車と比べCO2排出量がおよそ10分の1である、道路交通への影響を抑えられるといったメリットが存在。「貨物駅付近での工事」という“地の利”を生かし、環境負荷を低減した形です。

似た事例があった川崎市

 JR東海の中央新幹線建設部 担当部長の永長口昭(ながおさたかあき)さんによると、中央新幹線が梶ヶ谷貨物ターミナル駅付近で工事を行うことになった当初から、同駅付近の工事では鉄道貨物輸送の利用を考慮していたといい、今後、環境への影響を抑えられる鉄道貨物輸送をできる限り活用していくといいます。

リニア中央新幹線の専用貨物列車が出発進行 その目的とは?(写真13枚)

リニア中央新幹線工事の発生土輸送専用につくられた「オレンジ帯」のコンテナ(提供:JR東海・JR貨物)。

リニア中央新幹線の専用貨物列車が出発進行 その目的とは?(写真13枚)

発生土をコンテナに積み込む(提供:JR東海・JR貨物)。
リニア中央新幹線の専用貨物列車が出発進行 その目的とは?(写真13枚)

フォークリフトで貨車へ(提供:JR東海・JR貨物)。

 また梶ヶ谷貨物ターミナル駅と川崎市臨海部のあいだでは、川崎市の内陸部で発生した生活廃棄物などを臨海部の処理施設へ運ぶ貨物列車「クリーンかわさき号」が、1995(平成7)年より、環境負荷の低減を目的に運行されています(一般廃棄物の鉄道貨物輸送はこれが全国初)。同様の形になる今回のリニア工事にともなう発生土輸送は、そうした事例の存在によってスムーズに実現した面もあるだろうと、JR貨物 環境事業部の前田 望部長は話します。

貨物線で運ばれた発生土は、船に積み替えられ千葉へ

 貨物列車のルートは、梶ヶ谷貨物ターミナル駅から「武蔵野南線」「尻手短絡線」と呼ばれる貨物線を通り、尻手駅付近で南武線に入って浜川崎駅、続いて鶴見線に入り扇町駅、その先にある三井埠頭へ、というのが基本。三井埠頭へ到着した土砂は、船に積み替えて千葉県に輸送されます。採石場の跡地に運び、その埋め戻しに利用するそうです。

リニア中央新幹線の専用貨物列車が出発進行 その目的とは?(写真13枚)

リニア中央新幹線専用貨物列車の基本的なルート(提供:JR東海)。
リニア中央新幹線の専用貨物列車が出発進行 その目的とは?(写真13枚)

梶ヶ谷貨物ターミナル駅の風景(提供:JR東海・JR貨物)。
リニア中央新幹線の専用貨物列車が出発進行 その目的とは?(写真13枚)

梶ヶ谷非常口と資材搬入口の概要(提供:JR東海)。

 梶ヶ谷非常口と資材搬入口の工事における発生土の運搬は、状況によって異なるものの、1日あたり最大でダンプ80台分近くになるという想定です。JR東海によると、貨物列車の運行は当面のあいだ1日1往復(機関車を除き9両編成、ダンプ27台分)の予定ですが、できる限り鉄道で運べるよう、ダイヤの調整や車両の増結といった取り組みを積極的に行っていくとのこと。

また今回の貨物列車運行にあたり、発生土専用のコンテナが150個、製作されています。

直径50mと30mの穴

 中央新幹線は、品川駅から名古屋駅に向かって大深度地下(地下40m以深)を進行。川崎市内も16.3kmの全区間が大深度地下で、途中、地上と結ぶ非常口が5か所に設けられます。

 そのうちのひとつが梶ヶ谷非常口で、直径およそ50mの“穴”が、地下80mまで掘られます。またこの梶ヶ谷非常口付近の地下には、中央新幹線の線路保守作業車を留置する施設が置かれるため、そこへ必要な資材を届けるための資材搬入口(直径およそ30m)も掘られています。

 貨物列車で運ばれる、このふたつの“穴”による発生土は29万立方メートルが見込まれており、「東京ドーム約4分の1杯分」にあたります。また、発生土の鉄道貨物輸送は現時点ではこのふたつの“穴”に関するものだけで、中央新幹線の本線トンネル工事などそれ以外の発生土に関しては、まだ決まっていないそうです。

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