2017年現在、東京都内で前列に3人掛けのベンチシートを備え、客を5人乗せられるセダン型のタクシーはあまり見られません。一般乗用車でとなるとさらにレアです。
セダンやコンパクトカーなど、一般的なタイプの乗用車は前列に運転席と助手席、後列には3人座れるシートを備えた5人乗りが主流です。東京都内ではセダンのタクシーもこのタイプが一般的で、客は4人まで乗ることができ、運転手含め5人乗りです。
古いアメリカ車によく見られるベンチシート。写真はイメージ(画像:whitestone/123RF)。
しかし一部では、前列に3人乗ることができ、客が5人まで乗れるセダンのタクシーも存在します。全タク連(全国ハイヤー・タクシー連合会。東京都千代田区)に話を聞きました。
――セダンのタクシーで客が5人まで乗れるものがありますが、ほかのタクシーとどうちがうのでしょうか?
前列の運転席と助手席がセパレートになっていない、いわゆるベンチシートのタクシーは、前列にお客様をふたり乗せることができます。東京でも以前はそのようなタクシーがありましたが、現在はセパレートの車両がほとんどです。ただ、東京でもゼロではなく、地方ではそちらのほうが主流のところもあります。
――なぜ都内では数が少ないのでしょうか?
東京ではお客様がおひとりで利用する場合が多いうえ、ゆったりとした高級感のある車両が求められるため、お客様によっては窮屈にも思えるベンチシートの需要が少ないのでしょう。
※ ※ ※
全タク連によると、「ユーザーのニーズを受けて、タクシー車両のメーカーでもベンチシートの用意は少なくなってきているのではないか」と話します。
前列ベンチシート型の「セドリック」を製造していた日産によると、「単純にニーズがあまりない」ことから、現在は一般の乗用車、タクシーともに、前列3席人掛けシートを設定する同社のクルマはないそうです。ミニバンなど、多人数乗れるクルマの需要はあるものの、「あえて前に3人乗せなくても、3列シートなどで対応できる」といいます。
あえて前に3人乗せなくても… ベンチシートはいま大型トラックや軽トラック、バスなどでは、運転席の横にふたり掛けというのは珍しくありませんし、たとえばトヨタ「ハイエース バン」の一部には前列3席の設定がりますが、確かにセダンやミニバン、SUVなどの一般的な乗用車において2017年現在、そうしたものはあまり見られません。トヨタが今後発売を予定している新型タクシー専用モデル「JPN TAXI」も、前列は独立の2席です。

前列3席、後列3席の6人乗りモデルとして1998年に登場したフィアット「ムルティプラ」(画像:Fiat Chrysler Automobiles)。
少し過去にさかのぼり、前列3席、後列3席というレイアウトに絞って一般乗用車を調べてみると、日産「ティーノ」(販売期間:1998~2003年)やホンダ「エディックス」(同:2004~2009年)、トヨタ「ビスタアルデオ」(同:1998年~2003年)、「プロナード」(同:2000年~2004年)、フィアット「ムルティプラ」(同:1998~2010年)などがありましたが、いずれも販売を終了しています。また、「エディックス」と「ムルティプラ」は前列3席ではありますが、それぞれが独立したシートであり「ベンチシート」とはいえません。

日産「ティーノ」。後期のモデルでは前列ベンチシートは廃止された(画像:日産)。

ホンダ「エディックス」。

「エディックス」は前列、後列ともに3席ずつ独立(画像:ホンダ)。
前列がベンチシートのクルマはコラムシフト(ハンドルの付け根から伸びるタイプのシフトレバー)である場合が多かったことから、このようなクルマは略して「ベンコラ」とも呼ばれます。「ベンコラ」の中古車を多く取り扱う名古屋オートガレージ(愛知県大府市)によると、「横幅が広いアメリカのクルマに多かったのですが、日本車の規格では窮屈になるので、あまり根付かなかったのでしょう」と話します。現在では、アメリカ車でも前列ベンチシートは少なくなっているそうです。
ちなみに、「前列ベンチシート」そのものは、軽自動車を中心にいまも見られます。「ムーヴ」「ウェイク」などで、ふたり掛け前列ベンチシートを採用しているダイハツによると、「ゆったりと座れて、横移動もしやすく使い勝手がよいといったメリットがあります。こうした車両ではパーキングブレーキもフットブレーキで、シフトレバーもインストゥルメンタルパネルから伸びる『インパネシフト』になっています」とのことです。