F-16の生産ラインが、19機ぶんの受注を残し、これまでのフォートワース工場から別の工場へ移転するといいます。コストにはまるで見合わない引っ越しには、どのような意図があるのでしょうか。
ロッキード・マーチンは、同社の戦闘機製造拠点であるフォートワース工場(テキサス州)におけるF-16「ファイティングファルコン」戦闘機の生産ラインを、閉鎖することに決定しました。
1974年初飛行したF-16のプロトタイプ、YF-16(画像:ロッキード・マーチン)。
ロッキード・マーチン(開発当時ジェネラル・ダイナミクス)は1974(昭和49)年に最初のプロトタイプYF-16を製造して以降、実に40年にわたってF-16のラインを維持しており、F-16総生産数4500機のうちほとんどをフォートワース工場において製造してきました。
そして2017年中にイラク空軍向けとなる最後の機体を引き渡し、フォートワース工場の生産ラインはその歴史に幕を閉じる予定となっています。
ところがF-16の生産自体はまだバーレーン空軍向けに19機の残受注があり、またロッキード・マーチンはインド空軍に対して最新鋭のF-16「ブロック70」のセールスを行っています。さらにそのほかの中小国の空軍に対してもF-16の潜在的な需要があると見込んでいるようです。
もしF-16ブロック70がこれらの国に採用されたならば、100機以上受注数を増やす可能性も十分に考えられます。
そのため、F-16の生産ラインはフォートワース工場からグリーンビル工場(サウスカロライナ州)へ移される予定であり、少なくとも19機はグリーンビル工場で製造される予定となっています。
19機では割が合わない? 工場を移したワケ前記の通りF-16の総生産数は4500機を上回り、その絶大な量産効果によって機体自体はかなり安価に製造できることが大きな特徴となっています。しかしながら生産冶具をグリーンビル工場に移し、新たに生産ラインを立ち上げるには追加投資が必要となり、これを回収するには19機の生産では明らかに割が合いません。
ではロッキード・マーチンはなぜ、フォートワース工場のF-16製造ラインを閉鎖したのでしょうか。最大の理由はF-35の生産にあります。

F-35の製造が進む、ロッキード・マーチンのフォートワース工場(画像:ロッキード・マーチン)。
現在F-35は、低率初期生産ながらすでに200機以上をフォートワース工場において製造しており、300機超えも目前の状況です。また今後2018年からはいよいよF-35の全規模量産が始まり、ピーク時には実に年産約200機、すなわち平日はほぼ1日1機が工場から出荷される予定です。
現在のところF-16とF-35は同じ工場の内部で製造されていますが、F-16のラインは片隅に追いやられているのが実情であり、ロッキード・マーチンとしてはF-16を細々と生産し続けて、F-35の生産を阻害しかねない事態だけは許容できなかったと見られます。
もうひとつの理由はT-Xかそしてもうひとつの理由は、現在アメリカ空軍において行われている次期練習機選定T-Xの存在です。ロッキード・マーチンは韓国のKAIと共同開発したT-50A「ゴールデンイーグル」を候補として提案しており、もしT-Xに勝利した場合は最低でも350機、最大で1000機以上の仕事をグリーンビル工場にもたらすことになり、F-16の生産終了からスムーズに製造機種を転換することができます。
しかしながらT-Xはボーイングとスウェーデンのサーブによって共同開発されたBOEING T-Xと一騎打ちの状態にあり、T-50Aが勝利するかどうかはいまのところ五分五分の状況です。もしロッキード・マーチンがT-Xに敗北した場合、グリーンビル工場の航空機製造はバーレーン向けF-16を19機製造して終了という最悪のシナリオも十分に考えられます。

2012年4月、F-16は4500機のデリバリーを達成、セレモニーが開かれた(画像:ロッキード・マーチン)。
グリーンビル製F-16ブロック70は今後さらに受注数を伸ばし、F-16の命数をさらに延ばすことができるでしょうか。戦闘機市場最大の勝利者だったF-16「ファイティングファルコン」、最後の戦いが始まろうとしています。
【画像】既存F-16も改修で性能向上、「F-16V」コンセプト

既存のF-16に対する近代化改修も盛んに行われている。