ゴルフ場で使われるヤマハ製電動カートを改造した車両を用い、国土交通省が公道での自動運転実験を行います。同様のサービスはすでに石川県輪島市で導入されていますが、車両はさらに進化しているといいます。
ゴルフ場などで使用される電動カートを活用し、公道で自動運転を行う実験が、熊本県芦北町で2017年9月30日(土)から始まりました。
「道の駅 芦北でこぽん」での実験に使用されるゴルフカートを改造した7人乗り車両(画像:ヤマハ発動機)。
これは、国土交通省が「中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービス」事業の一貫として、「道の駅」などを中心に全国13か所で行う実証実験のひとつ。同省は「超高齢化が進行する中山間地域における人流・物流の確保をするため、(中略)2020年の自動運転サービスの社会実装を目指しています」としています。この事業での実験は、9月初旬にインターネットサービス大手ディー・エヌ・エー(東京都渋谷区)のバス型車両を用いて行われた栃木県栃木市に続き、2例目です。
ヤマハ製の電動カート「ゴルフカー」による公道での自動運転は、これまでも各地で実験が行わているほか、石川県輪島市では市街地における無料の新交通システムとして導入されています。どのような特徴があり、輪島市のものはとのようなちがいがあるのか、ヤマハに聞きました。
――今回の熊本での実証実験はどのような内容でしょうか?
ルートの延長は約6.3kmで、全て公道を走行します。うち、運転手が手動で運転する区間が2.2km、運転手が運転席で監視しながら行う「自動運転レベル2」の区間が3.7km、運転手不在で行う「自動運転レベル4」の区間が0.4kmです。ただしレベル4の区間は車両や歩行者の立ち入りを規制し、係員も運転席以外の座席に座り緊急対応に備えます。
輸送対象は旅客をメインとしていますが、「道の駅 芦北でこぽん」周辺の畑で採れた農作物を、そこまで運ぶことも行います。
――今回の実験で使われる車両や走行システムはどのような特徴があるのでしょうか?
地中に埋設された電磁誘導線を車両のマグネットセンサーで感知して自動走行する点は、輪島市のものと同じですが、車両には大きな違いが2点あります。
もう1点は、自社開発した障害物検知用のカメラを搭載した点です。走路上にある障害物を検知し、自動的に減速、停止します。
カメラで検知した障害物、自動で回避可能?――走路上の障害物も自動で避けられるのでしょうか?
いえ、その点は輪島のものと同様で、人の手が必要です。ハンドルを操作するとすぐに手動運転に切り替わり、障害物を避けて誘導線上に車両を戻すと、自動運転を再開します。
――今回、特に注力して検証したいことはありますでしょうか?
自動運転を公道で行っていくため、制度面の知見を得ることです。当社はこの「ゴルフカー」のシステムを20年以上にわたり培ってきたこともあり、自動でクルマを動かすノウハウはある程度蓄積されていますので、「社会実装」に向けた課題を洗い出すことに重点を置きます。

「道の駅」と農作物集荷場や公共施設、病院、役場などを結ぶ約6.3kmのルートを走行する(画像:国土交通省)。
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「ゴルフカー」は最高時速19km/h。今後行われる国土交通省の実験では、40km/h程度の走行を想定した乗りものも使われる予定ですが、低速であるぶん安全性が高く、「ゆっくり、のんびり走ることがひとつの特徴」(ヤマハ)だといいます。
「20km/h未満のスピードであれば、人命に関わる事故が少ないことが統計的に裏付けられており、シートベルトも不要です。窓にさえぎられることなく、風や土地のにおいを感じながら走ることができます。このことから、おもに観光地での導入を想定しています」(ヤマハ)
なお、現時点では公道を走れる「ゴルフカー」は市販されていません。このシステムを用いた公道での自動運転実験は、2017年内に秋田県上小阿仁村でも行われる予定です。
【図】ゴルフカーによる自動運転の仕組み

走路に埋設された誘導線を車両のマグネットセンサーで感知し自動走行。車体前方のカメラ(ステレオビジョン)で走路上の障害物を認識する(画像:ヤマハ発動機)。