F-35シリーズの導入が進む一方、垂直離着陸機として知られる「ハリアーII」が姿を消しつつあります。同機と後継機たるF-35Bはまったく別物ですが、おもに離着陸という観点からだと、どのような違いが見えてくるのでしょうか。
イギリスが開発し、垂直離着陸を確立した「ハリアー」。艦載機型の「シーハリアー」はフォークランド紛争で活躍し、一躍世界にその名を轟かせました。その後、改良型のAV-8B「ハリアーII」が登場しアメリカ海兵隊を中心として、各国で運用されました。
2015年より、後継機種としてF-35Bの配備が開始されましたが、どのような点が異なるのでしょうか。
短距離離陸と垂直着陸が可能なF-35B(2016年、石津祐介撮影)。
アメリカ海兵隊で長年に渡り運用されているAV-8B「ハリアーII」。湾岸戦争やアフガニスタン紛争などで活躍し、海兵隊の強襲揚陸艦にもヘリや「オスプレイ」と共に搭載され運用されています。
その「ハリアーII」の後継機種として、F-35シリーズのなかで垂直着陸が可能なF-35Bが開発され配備が始まっており、2017年には山口県の岩国基地に配備されました。

空中でホバリングのデモを行うF-35B。

岩国基地でデモ飛行を行う第214攻撃飛行隊(VMA-214)のAV-8B「ハリアーII」。
このときの配備先である第121海兵戦闘攻撃飛行隊(VMFA-121)は、F/A-18D「ホーネット」からの機種更新で、またアメリカ国外でF-35Bが配備されたのは初めてのことでした。
強襲揚陸艦での運用、離着陸方法の違いとは?2017年5月には、岩国基地にローテーション配備されていた第311攻撃飛行隊(VMA-311)のAV-8B「ハリアーII」がアメリカへ帰還し、岩国基地における同機の配備は終了しました。

岩国基地に配備された第121海兵戦闘攻撃飛行隊(VMFA-121)のF-35B。

第121海兵戦闘攻撃飛行隊(VMFA〈AW〉121)のF/A-18D。後にF-35Bに機種更新。
AV-8B「ハリアーII」とF-35Bは強襲揚陸艦での運用が前提となっています。同艦は、地上部隊の揚陸が主任務となるため、空母のように機体を射出するカタパルトやフックを用いて短距離で機体を停止させるアレスティング・ワイヤーが装備されておらず、そのため運用される航空機は短距離離陸と垂直着陸が可能な機体となります。

離陸する第501海兵戦闘攻撃訓練飛行隊(VMFAT-501)のF-35B(2016年、石津祐介撮影)。
AV-8B「ハリアーII」は垂直離着陸と短距離離陸で運用するV/STOL機(Vertical/Short TakeOff and Landing)で、一方F-35Bは短距離離陸と垂直着陸で運用するSTOVL機(Short TakeOff and Vertical Landing)。つまり、AV-8B「ハリアーII」は運用上、垂直離陸を行いますがF-35Bは行わないということです。

デモ飛行でホバリングを行うAV-8B「ハリアーII」(2016年、石津祐介撮影)。
しかしAV-8B「ハリアーII」は実際には、ほとんど垂直離陸を行いません。なぜなら実戦で武装した状態で垂直離陸を行うと相当な燃料を消費するため運用効率も悪く、さらに不整地からの垂直離陸は砂塵を巻き上げエンジンが損傷する可能性があるからです。
F-35Bはコンピューター制御により自動で垂直着陸を行うことが可能で、難しいと言われているAV-8B「ハリアーII」の垂直離陸に比べると、より安定性のある運用が可能と言えます。また、「ハリアー」にはできなかったCTOL(Conventional TakeOff and Landing:通常離着陸)運用が可能となっています。

第542海兵攻撃飛行隊(VMA-542)のAV-8B「ハリアーII」。

第2海兵戦術戦飛行隊(VMAQ-2)の電子戦機EA-6B。
F-35Bは多用途性を備えているマルチロール機で、ステルス性能も有します。これまでアメリカ海兵隊に配備されていたF/A-18「ホーネット」、EA-6「プラウラー」、AV-8B「ハリアーII」が行ってきた任務全てを遂行できる能力があり、将来的には、海兵隊の戦闘機は全てF-35Bに置き換えられる可能性もありますが、当然コストの問題もあり当面は併用して運用されていくでしょう。