電車や気動車の車体に表記されている「モハ」や「キハ」のカタカナ。これらは車両の仕様や設備などを表す記号です。
鉄道車両を外から眺めてみると、車体の側面に「クハ115-1044」「モハE235-1」などといった文字が並んでいます。これらは車両の形式と製造番号を表したものです。
JRの電車や気動車の車体には、車両の種類がカタカナ記号で表記されている(2017年1月、草町義和撮影)。
国土交通省令「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」は、「車両には、車両の識別等ができるよう必要な表記をしなければならない」(第82条)と定めています。1両ごとに番号を付け、個々の車両を「識別」できるようにしなければならないことが、法令によって定められているのです。
具体的にどのような法則で表記するかは鉄道会社がそれぞれ決めており、数字だけのものもあれば、アルファベットと数字を組み合わせる場合も。また同じ文字を使っていても、その意味が鉄道会社によって異なる場合もあります。
ただ、JRの電車と気動車(ディーゼルカーなど)は、カタカナと数字の組み合わせが一般的。カタカナの意味もほぼ共通です。JRは1987(昭和62)年に分割民営化されるまでは全国1事業体の国鉄だったため、車両の表記もほぼ共通化されているのです。
キーワードは「モーター」と「運転台」JRでは一般的に、架線から取り入れた電気でモーターを回して走る電車の場合、カタカナは2文字以上。

「ク」は運転台を設けた車両を示す。

「モ」は走行用のモーターを搭載している。

運転台とモーターの両方ある車両は「クモ」になる。
「モ」はモーターを搭載した車両のこと。「ク」は運転台が付いている車両を表し、「サ」はモーターも運転台もない車両を表しています。
「電車なのにモーターの付いていない車両があるのはおかしいじゃないか」と思うかもしれません。しかし、電車は1両だけでなく2両以上の編成を組んで運転されることが多く、編成中の一部の車両はモーターが付いていない場合もあるのです。
それでは、運転台が設置されていてモーターも搭載している車両の表記はどうなるのでしょうか。この場合は「ク」と「モ」を並べて「クモ」と表記します。
ちなみに、「モ」の由来は文字通り「モーター」から来ていますが、「ク」は「くっついて走る」、「サ」は「差し込む」が由来とされています。
グリーン車を意味する記号は「ロ」…なぜ「ロ」?カタカナ記号はこれだけではありません。
もっともよく使われているのが「ロ」「ハ」で、「ロ」はグリーン車、「ハ」は普通車を意味しています。モーターを搭載した普通車は「モハ」、運転台が設置されていてモーターも搭載したグリーン車なら「クモロ」になります。

JR九州787系のクモロ787-12。運転台(ク)とモーター(モ)が付いているグリーン車(ロ)だ(2017年5月、草町義和撮影)。
それにしても、グリーン車なら「グ」、普通車は「フ」を使えばよさそうですが、なぜ「ロ」「ハ」なのでしょうか。
国鉄の旅客車両はかつて「3等級制」で、旅客列車には最上級クラスの1等車と、次に高級な2等車、そして最下級の3等車が連結されていました。このとき使っていたカタカナ記号は、1等車が「イ」、2等車が「ロ」、3等車が「ハ」。そうです、「いろはにほへと~」のイロハ順です。
しかし、国鉄は1960(昭和35)年に2等級制へ移行し、「イ」を使っていた1等車が廃止。「ロ」の2等車は「1等車」、「ハ」の3等車は「2等車」に改称されましたが、車両のカタカナ記号はそのままでした。さらに1969(昭和44)年には1等車がグリーン車、2等車が普通車に変わり、現在に至っています。
このほか、寝台車を表す「ネ」があります。由来はもちろん「寝る」。ただし「ネ」が単独で用いられることはなく、A寝台車は「ロネ」、B寝台車は「ハネ」と2文字で表記します。3等級制のころは1等寝台車が「イネ」、2等寝台車が「ロネ」、3等寝台車が「ハネ」でした。
「キロ」「キクハ」…気動車の場合はまた異なるルールディーゼルエンジンなどの内燃機関(以下、エンジン)を使って走る気動車も、JRではカタカナと数字の組み合わせが一般的です。ただし、エンジン搭載や運転台の有無に関する法則は、電車とは少し異なります。

JR北海道キハ40系の「キハ40 1804」。内燃機関を搭載(キ)した普通車(ハ)であることが分かる(2017年9月、乗りものニュース編集部撮影)。
エンジンを搭載した車両は、「気動車(きどうしゃ)」を意味する「キ」を単独で使います。運転台が付いていても「キ」、運転台がなくても「キ」です。このため、カタカナ記号だけでは運転台が付いているかどうか分かりません。カタカナに続く数字で運転台の有無を区分する必要があります。
一方、エンジンを搭載していない車両の場合、運転台が付いていれば「キク」、運転台がなければ「キサ」と表記します。気動車は電車に比べ馬力の小さいことが多く、編成中すべての車両にエンジンを搭載していることが多いです。そのため「キク」「キサ」を名乗る車両は少数派です。
旅客設備などに関する記号は、電車と共通です。エンジン付きの車両でグリーン車なら「キロ」、普通車は「キハ」になります。
最近はカタカナ使わない車両もなお、近年はJRでもカタカナ記号を使わない電車や気動車が増えています。
JR東日本は、電車と気動車の機能を兼ね備えたE001形(豪華寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」の専用車両)や、非電化区間も走れる蓄電池電車のEV-E801系、電気式気動車のGV-E400系など、アルファベットと数字を組み合わせた表記の車両を増やしています。

電気式気動車GV-E400系。JR東日本は従来の「電車」「気動車」に当てはまらない車両では、カタカナを使わずアルファベットと数字で表記(2018年1月、恵 知仁撮影)。
これらの車両は従来の「電車」「気動車」の枠組みとは異なる動力システムを採用しており、車両の表記も従来とは異なるものに変えたのです。
また、JR四国は1987(昭和62)年の発足後、新たに導入した車両は4桁の数字で表記しています。カタカナ記号はキハ32形など国鉄から引き継いだ車両を除き、ほとんど使っていません。
モ:電車/モーターを搭載した車両(電動車)
ク:電車/運転台を設置した車両(制御車)
サ:電車/モーターを搭載せず運転台もない車両(付随車)
クモ:電車/モーターを搭載し運転台も設置した車両(制御電動車)
キ:気動車/エンジンを搭載した車両(内燃車または制御内燃車)
キク:気動車/エンジンを搭載してないが運転台を設置した車両(制御車)
キサ:気動車/エンジンを搭載せず運転台も設置していない車両(付随車)
ロ:グリーン車
ハ:普通車
ロネ:A寝台車
ハネ:B寝台車
シ:食堂車
ニ:荷物車
ル:配給車
ヤ:事業用車

制度上消滅した1等車「イ」と1等寝台車「イネ」は近年、JRの豪華寝台列車で復活した。写真はJR西日本の豪華寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の「キサイネ86-501」(2017年2月、草町義和撮影)。