戦略爆撃機B-52「ストラトフォートレス」といえば、1960年代のベトナム戦争におけるアメリカ軍の象徴ともいえますが、これが2050年まで運用される見込みとなりました。100年も実用に耐えうるとされるのには、どのような理由があるのでしょうか。

「成層圏の要塞」は100年運用へ

 アメリカ国防総省は2019年度の予算要求で、老朽化した戦略爆撃機B-52のエンジンを新型に換装する予算を計上しました。これによりB-52は2050年まで運用が続けられる見通しとなります。

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エンジンを換装し2050年までの運用が決定したB-52(2017年、石津祐介撮影)。

 現在、B-52Hのエンジンは、ボーイング707やDC-8にも使われたプラット・アンド・ホイットニー社製ターボファンエンジンJT3Dの軍用型TF33を8発搭載しています。当初ボーイングは現行の8発から、4発の高バイパスターボファンジェットエンジンRB211に換装するプランを提案していましたが、主翼の構造変更などが必要となるためエンジン数は変更しないようです。

 新たに換装するエンジンについて、ロールスロイスはすでにアメリカ空軍の通信中継機E-11や要人輸送機C-37で採用しているBR710の改良型であるBR725を提案し、一方プラット・アンド・ホイットニーは現行のTF33のシステムをアップグレードする案を提案しています。今回、予算が計上された事でより具体的なプランが出てくると見られます。

100年乗っても大丈夫!? 爆撃機B-52はなぜこれほど長寿命なのか

B-52Hの機首部分。ノーズアートが施されている(2017年、石津祐介撮影)。

 そのB-52ですが、アメリカ空軍で運用が開始されたのは1955(昭和30)年。計画の通り2050年まで運用されると、なんと100年近くも現役となることになります。なぜ、それほど長期間運用されることになったのでしょうか。

コンセプトは長距離で高速、核搭載も可能

 B-52は長距離を飛べる大型爆撃機として開発され、1952(昭和27)年に初飛行しました。米ソ冷戦時代には先制攻撃や報復攻撃のために、核爆弾を搭載して常時上空待機を行いました。

100年乗っても大丈夫!? 爆撃機B-52はなぜこれほど長寿命なのか

アメリカ空軍の戦略爆撃機。左からB-2、B-52、B-1。
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空軍基地に配備されているB-52H。
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ベトナム戦争をはじめ様々な戦争に参加したB-52。

 そして初の実戦参加はベトナム戦争でした。1965(昭和40)年から開始された、いわゆる「北爆」で絨毯爆撃を行うB-52は、ベトナム戦争を象徴するシーンとしてよく知られています。その後、インド洋にあるアメリカ軍の基地、ディエゴ・ガルシア島(イギリス領)を拠点として、湾岸戦争やアフガニスタン、イラク戦争に参加しています。

 B-52以降も、後継機種として様々な戦略爆撃機が開発されます。高速で高高度から核攻撃を行う超音速爆撃機が開発されましたが、アメリカ本土から直接攻撃が可能な大陸弾道ミサイル(ICBM)の配備や敵国の防空ミサイル網の発達により、そのコンセプトは失われます。

 やがて1986(昭和61)年には可変翼の超音速爆撃機B-1、1997(平成9)年には全翼機のステルス爆撃機B-2と、それぞれコンセプトの異なる戦略爆撃機が配備され、B-52と共にアメリカ空軍を支える戦略爆撃機として活躍しています。

長寿命のヒミツは戦争の変質

 大国同士の総力戦ならともあれ、近年の地域紛争などアメリカ軍の圧倒的な制空権下で爆撃機に求められるのは、超音速やステルス性ではなく、航続距離が長くより多くの爆弾を落とせる、いわば純粋な爆撃機です。

100年乗っても大丈夫!? 爆撃機B-52はなぜこれほど長寿命なのか

B-52は数多くの爆弾を搭載できる戦略爆撃機(2017年、石津祐介撮影)。

 B-1ではスペックが過剰で、B-2は高額な運用コストと爆弾搭載量の点で劣るため、現状においてこの要求を満たせるのはB-52以外に見当たらず、あえて新しい爆撃機を作るよりは延命した方がいいと判断されたようです。

 これは引退するはずだった攻撃機A-10が湾岸戦争で活躍し、ほかに変わる機体が無いため無期限で運用延長したのと似たようなケースとなります。

 すでにB-1と B-2は退役が決定しており、2025年ころには新型のステルス爆撃機B-21に置き換わる予定となっています。その先当面のあいだはB-21とB-52が戦略爆撃機として配備される見通しです。

 時代遅れと思われていた機体が、新たなテクノロジーを持った最新機種よりも使い勝手がいいと評価されたB-52。B-21は無人での運用が可能になるといわれていますが、この両極端な爆撃機が現代の戦争を物語っているのかもしれません。

【画像】米軍の新型ステルス爆撃機B-21「レイダー」

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開発中の新型ステルス爆撃機「レイダー」。名称は日本本土を初空襲したドゥーリットル攻撃隊「ドゥーリットル・レイダーズ」にちなむ(画像:アメリカ空軍)。

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