2018年4月、世界が最も注目した場所といえば、朝鮮半島の板門店が挙げられるでしょう。その周辺も含め、実際どのような場所なのでしょうか。
朝鮮半島情勢は大きく動きました。世界を驚かせたのは、2018年4月27日に板門店で開催された南北首脳会談です。通算3回目となる会談でしたが、今回初めて軍事境界線の南側で行われました。
文在寅大統領が待ち、そこへ金正恩委員長が歩み寄り、軍事境界線を挟んで握手。その後両者は南北を行き交うという、朝鮮戦争以来のできごとでした。
文在寅大統領と金正恩委員長が行き交った、板門店の軍事境界線(菊池雅之撮影)。
続いて6月には米朝会談が行われる見通しです。場所については、再び板門店となるか、海外へと場所を移すか、と憶測が飛び交っています。まさにいま、世界で最も注目されている場所が、板門店を含む非武装地帯と言ってもいいでしょう。
実はこの場所、韓国政府が認可したツアーに参加する事で、一般人でも行くことができます。今回は参考までに、私、軍事フォトジャーナリスト菊池雅之が非武装地帯をご紹介しましょう。
まず、冒頭から書いている「非武装地帯」について。
DMZには、共同警備区域JSA(Joint Security Area)が設定されており、この場所は北朝鮮軍と国連軍が共同で警備することになっています。国連軍といっても実質は韓国軍とアメリカ軍です。
南側の玄関口となるのが国連軍駐屯地「キャンプ・ボニファス」です。軍事境界線の南側から400mのところにあります。見学者は必ずここに立ち寄ります。そして、「ここから先は何が起きても自己責任」という書類にサインを求められます。多数の軍人が見つめるなか、このような文面に名前を書くのはなかなか緊張します。
いよいよ、軍事境界線へ――。

板門店、軍事停戦委員会の会議場(菊池雅之撮影)。

軍事停戦委員会の会議場にて。境界線の真上にテーブル、マイクのスピーカーが置かれている(菊池雅之撮影)。

軍事境界線南側の平和の家。文在寅大統領と金正恩委員長による南北首脳会談が行われた(菊池雅之撮影)。
テレビでお馴染みの青い細長い建物が並んでいます。軍事停戦委員会の会議場です。なかに入ると、軍事境界線の真上にテーブルが置かれており、マイクのスピーカーが境界を示しています。会議場内だけは、南北自由に行き来ができます。一応韓国軍の憲兵がにらみを利かせてますが、とがめられることはありません。私はここぞとばかりに南北を行き来しました。
軍事境界線から北を見ると、金正恩委員長が歩いて出てきた「板門閣」があります。南を見ると、南北首脳会談が行われた「平和の家」があります。いまこの場所に行けば、まさにあのふたりが歩いた道程をたどることができます。
世界一ものものしい駅、それはトラサン駅!軍事境界線に最も近い、韓国最北の駅、それが京義線のトラサン(都羅山)駅です。
京義線は1902(明治35)年にソウルから北へと工事が行われ、1904(明治37)年、中国国境の新義州駅までつながりました。京城(現ソウル)と新義州を結ぶ線ということで、京義線と命名されます。
戦後、南北が分断されると、この路線も38度線でぶっつりと切られます。2000(平成12)年6月、金大中大統領と金正日委員長により、朝鮮戦争以来初となる南北首脳会談が行われ、京義線の再連結合意が盛り込まれました。2002(平成14)年2月20日、今度はブッシュ米大統領が金大中大統領とトラサン駅を訪れ、改めて全線開通を目指すことになります。
2002年9月18日に鉄道工事がスタート。線路は繋がり、2006(平成18)年5月25日に試運転を行うことになりました。しかし、その前日である24日、北朝鮮は突如キャンセル。
定期路線がない割に、トラサン駅の駅舎はとても豪華で近代的です。南北統一のひとつのシンボルとしようとしたのでしょう。ガランとした駅構内に、私の足音だけが響き渡ります。数か所に韓国陸軍兵士が立っていますが、警戒しているという雰囲気ではありません。少なからず観光客が訪れる場所であり、慣れているといった感じでした。

韓国最北の鉄道駅、京義線トラサン駅のホームにて。2018年5月現在、北へ向かう鉄道車両は見られない(菊池雅之撮影)。
せっかくなので、ホームに出てみようと窓口で入場券を買いました。あとは改札をくぐるのみなのですが、自動改札機の両脇には屈強そうな兵士が門番のように立ちはだかり、なかなか勇気がいります。
ホームは当然ながら閑散としています。隣駅は、北朝鮮国内にあるケソン駅です。ホーム中央には、一際大きな看板が立てられており、そこには、ピョンヤンまで205㎞、ソウルまで56㎞と書かれていました。このふたつの都市を結ぶ直通列車が運行される日は来るのでしょうか……。もし、これが開通すれば、線路は中国を抜け、その先のロシアまでも繋がります。是非ともユーラシア大陸横断鉄道開通を見てみたいものです。
このトラサン駅までなら、気軽に行くことができます。ソウルからはまず、隣駅のイムジンガン駅まで向かいます。ここでイムジンガン~トラサン間を往復しているDMZ観光列車に乗り換えます。

トラサン駅の改札にて(菊池雅之撮影)。

トラサン駅にて。看板に平壌方面の文字(菊池雅之撮影)。

朝鮮総督府鉄道時代のミカサ型蒸気機関車(菊池雅之撮影)。
なお、イムジンガン駅には、イムジン閣という観光スポットがあります。そこには、朝鮮総督府鉄道が使用していたミカサ型蒸気機関車「ミカ3 244」号機が、田中車輌製の「ハ9型客車」を連結した状態で展示されています。
緩衝地帯(CCZ)も往くDMZ内にはなんと住民も多く住んでいます。住民の多くは農業を営んでおり、ここで作っているDMZ米はみやげ物として人気があります。その村は通称「自由の村」と呼ばれています。軍事境界線からたった500mしか離れていません。
DMZの外側には、民間人出入統制区域という緩衝地帯があります。英語表記のCivilian Control Zoneを略して「CCZ」と呼びます。トラサン駅もこのなかにあります。

CCZ内の道路。有刺鉄線のフェンスが走る(菊池雅之撮影)。

非常時には柱を爆破し、北朝鮮の侵攻への障害とする(菊池雅之撮影)。

道路脇の箱には、道路を破壊するための爆弾が(菊池雅之撮影)。
CCZ内の道路脇には、有刺鉄線のついたフェンスがあったり、畑の真ん中に機関銃座が置かれていたりと、やはり最前線であると思い知らされます。なかでも衝撃的なのが、まるで歩道橋のように、道路をまたぐ巨大なコンクリート建造物です。これは北朝鮮軍が攻めてきた際に、柱を爆破し、道路に落として、通れなくするために使います。この大きさだと、戦車でも乗り越えられません。道路の脇に箱が等間隔に並べられている細い道もあります。箱の中には爆薬が入っており、道路に穴をあけ、車両を通れなくするためのものです。このように、ほとんどの道路には細工が仕掛けられています。
そこで、北朝鮮は、DMZからCCZをも抜けて南進するため、いくつか地下トンネルを掘りました。しかしながら、韓国側に発見されてしまいます。なんと見学可能です。私が、「まだ発見されていない地下トンネルはありますか?」と韓国軍兵士に尋ねると、「それは私たちも知りたいので教えて(笑)」と冗談で返されました。
韓国の旅行会社では、DMZツアーは必ず取り扱っており、今回ご紹介した場所についてはほとんど行けます。ただ、各社ツアー内容が異なるので、「とにかく板門店に行きたい!」「世界最後の軍事境界線をこの目で見たい」「秘境の鉄道に乗りたい」などなど、それぞれの興味にマッチするかどうか留意したほうがよいでしょう。