「始発が終列車」――何を言っているのかわからないかもしれませんが、そのような鉄道路線が実在します。「日本一の閑散路線」こと、JR北海道 札沼線の浦臼~新十津川間がそれです。

2020年5月の廃線を前に、実際に乗ってきました。

「学園都市線」の愛称どおり。マンションと学校が並ぶ札幌近郊区間

 JR北海道は2018年12月21日(金)、札沼線の途中駅である北海道医療大学駅(北海道当別町)から、終点の新十津川駅(同・新十津川町)までのあいだ47.6kmを、2020年5月7日(木)付で廃止すると発表しました。

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定刻10時ちょうどに新十津川駅のホームを離れる石狩当別行きの始発兼最終列車(柘植優介撮影)。

 同線の末端区間である浦臼駅(同・浦臼町)と新十津川駅のあいだ13.8kmは、列車が1日1往復しか走らない「日本一の閑散路線」になっています。

 しかし同じ札沼線でも、札幌市内とその近郊を走る南側の区間では、日中毎時3本程度の運転本数があります。札沼線は、南北で性格が大きく異なっている路線です。

 札沼線の運転区間は、札幌~新十津川間の78.1kmです(路線の正式な区間は、札幌駅の隣にある桑園駅と新十津川駅のあいだ76.5km)。しかし札幌駅から新十津川駅に向かおうと考えた場合、曜日に関係なく朝6時58分発の北海道医療大学駅行きが“最終列車”。末端の浦臼~新十津川間が、1日1往復しかないためです。

「学園都市線」という愛称が札沼線にはあり、札幌側は沿線にマンションや一戸建て、各種学校が立ち並ぶ通勤通学路線。利用者も多く、実際、車内は札幌から離れる下り列車にもかかわらず、学生・生徒が多く乗り込んでいました。

また途中駅の上りホームには、通勤通学客が列を作っています。

廃線まで1年を切ったJR北海道「札沼線」末端区間のいま 札幌~新十津川間を乗ってみた

札幌駅で発車を待つ札沼線北海道医療大学行きの721系電車(柘植優介撮影)。
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721系電車の車内。6両編成で学生や会社員が利用している(柘植優介撮影)。
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北海道医療大学駅。電化はこの駅まで(柘植優介撮影)。

 そして、あいの里公園駅(札幌市北区)を出て石狩川を渡ると田園風景が広がるようになり、ほどなく7時38分、石狩当別駅(北海道当別町)に到着。新十津川行きの列車は同駅発着ですが、札幌駅からの列車がもう1駅先の北海道医療大学行きだったため、筆者(月刊PANZER編集長:柘植優介)はそこまで乗ってみました。

 北海道医療大学駅までは電化(線路上空に、電車へ電気を供給する架線がある)されていますが、この先は非電化で、ディーゼルカーが走ります。

 同駅に到着して5分ほどすると、1両編成の新十津川行きディーゼルカーが入線してきて、7時50分に発車。その車内は、これまでの通勤通学客が多い雰囲気から一変して、明らかに大きなバッグやカメラを手にした乗客が多くなっています。

 9時05分、浦臼駅に到着しました。

ここから「日本一の閑散路線」です。車内には15人ほど乗車していましたが、途中駅で降車する人はおらず、全員が新十津川駅まで向かう「同好の士」でした。

新十津川駅に修学旅行で来た十津川中学校の生徒たち

 9時28分、札幌駅からはるばる2時間半かけて新十津川駅に到着しました。無人駅とはいえ、町のスタッフが「ご当地入場券」や記念品の販売、駅構内の掃除・整頓をしており、いわゆる秘境駅のような朽ち方はしていませんでした。

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新十津川駅に停車中のキハ40形ディーゼルカー。この風景もあと1年(柘植優介撮影)。

 しかも筆者が行った日は、駅舎が中学生で埋め尽くされていました。最初は、1日1本の列車から降りる観光客を出迎えるため、地元の中学生がボランティアで駅にいるのかと思いましたが、引率の教師に話を聞くと、新十津川町ではなく、奈良県の十津川村から来たと言うではありませんか。奈良県の十津川中学校の生徒たちが、修学旅行の一環で新十津川駅を訪問していたのです。

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新十津川駅舎(柘植優介撮影)。
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新十津川駅の先に設けられた車止め(柘植優介撮影)。
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新十津川駅舎内は手入れが行き届いていた(柘植優介撮影)。

 北海道の新十津川町は、1889(明治22)年の水害で大きな被害を受けた奈良県十津川村の住民が集団移住して開拓した町で、両自治体の町村章は同じ。いまでも新十津川町は十津川村のことを「母村」と呼び、交流を続けているそうです。

 列車到着から約30分、折り返しの新十津川駅を発車する唯一の、始発にして最終の列車が10時ちょうど、石狩当別駅へ向かって出発。下り列車で新十津川駅に到着した人の半数近くが、この折り返し列車へ乗り込んでいました。

駅がなくなっても町民が困らないわけ

 新十津川駅付近には大きな総合病院やガス会社の営業所、アパートも立ち並び、決して秘境駅のような雰囲気ではありませんでした。近くには農業高校や町役場もあります。

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新十津川駅前には土産物店や喫茶店などがあり、住宅も立ち並ぶ(柘植優介撮影)。
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新十津川駅の時刻表。列車は1日1本のみ(柘植優介撮影)。
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新十津川駅の周辺地図。滝川駅まで歩こうと思えば歩ける距離(柘植優介撮影)。

 また約4.5km先に、幹線である函館本線の滝川駅(北海道滝川市)があり、特急列車も停車するほか、その駅前からは札幌行きの高速バスも走ります。

 この滝川駅へは、新十津川町役場のバス停から路線バスで約15分の距離、そのため町民のほとんどは、鉄道で札幌などに行く場合、利便性の高い滝川駅に向かうそうです。

 実際、新十津川駅を見に来る観光客のほとんどは、レンタカーか滝川駅経由で来るとのこと。そのため、駅舎や隣の土産物店、喫茶店などは始発兼最終列車が行ってしまっても営業を続け、また“唯一の列車”に乗ってきて折り返さなかった人も、滝川駅に出れば何とかなるため、帰りの足を気にすることなく駅周辺を見て回れるのです。

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新十津川駅舎に設置されていたカウントダウンの掲示板(柘植優介撮影)。

 廃止まで、あと1年を切った新十津川駅。案外、のんびりした時間が流れていました。

 しかし運行終了の直前になると、せわしなくなるのでしょう。ラストランの“お祭り”を味わうのも良いでしょうが、札沼線と新十津川駅をゆっくり楽しむなら、いまのウチだと思います。

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